'19.3.10 殲滅

（注意）以下、小さい虫の話なので食事中や苦手な方はスルー願います。

真冬の夜。 18度設定のエアコンからでる温風は室内を巡って冷たい風となって私の上半身に吹きつけます。白い蛍光灯の光の下、とても乾いた空間です。私の右手はマウスの上、左手の指はWASDの上、両耳をヘッドフォンで覆い、プロホロフカの乾いた平原の木々の茂みに隠した駆逐戦車Sav m/43の中で私は待ち伏せしてました。観測装置のレンズの向こう、照準環の中に疾走する敵軽戦車M5 Stuartを捉えようとして右手に神経を集中します。と、ふぁぁぁぁぁんと小さな小さな黒い飛翔体が視界を横切ってゆきました、気が散る。偏差射撃の加減をしてここか？というタイミングで飛翔体が逆方向へ横切ってゆきます。邪魔すんな！！と思ったら、敵戦車は稜線の向こうに消えてしまいました。敵を示すインジケータが視界の外へ消えてゆくのを見て私はスナイパーモードを解除します。また飛翔体が視界を横切ります。突然に側面にいた僚車が被弾しました。私のまわりにもびしっと着弾音がします。先ほどの軽戦車に観測されて隠れているのがばれました。エンジン全開にして逃げに入ります。茂みをでて道路を越えて斜面を下れば射線から逃れられる。しかし道路に出たところで被弾、履帯が切れました。直後にもう一発。爆発。Sav m/43は煙を上げて停止。ゲームオーバーです。私は黒い飛翔体が去った方向をにらみます。それが何者かはわかってます。チョウバエです。不快害虫ですよ。

この冬、いや秋の終わり、いやいや夏かなぁ、とにかくチョウバエが発生してました。お風呂場に出ているのは知っていたのですがお風呂場だけですし良いか、と放置していたらだんだん出現範囲が広がってきて、真冬はリビングや寝室にまで飛来するようになったのです。さすがに群れで飛んでくるわけではなくて、一匹だけ飛んでいるんですがね。その一匹が乾燥しきった中で湿気を求めるのかそれとも私の息の臭いに引き寄せられるのか、私の周りしかも顔の近くを飛ぶんです。目の前を右から左へふぁぁぁぁん、左から右へふぁぁぁぁぁん、右から左へふぁぁぁぁぁぁぁん、って。

去年から今年にかけて心に余裕がなかったこともあってチョウバエを放置していましたが、春も近づきやる気が出てきたというか我慢できなくなったので対処することにしました。といっても、お風呂場の排水口を掃除するだけです。

チョウバエ向けの殺虫剤って意外と売ってなくて、できればシュッと一吹きで解決したかったのですが、だめです。発生源を掃除するしか方法はありません。お風呂場の排水口は網をかけていて髪の毛は流れ込まないようにしており、目に見える部分は取り除いて捨てていたのですが、排水口の大部分が浴槽の下に潜り込んでおり、そこは手つかずでした。チョウバエの発生源です。

問題の箇所は想像してたほど酷くなく耐えられました。とはいえチョウバエのライフサイクルの全てがそこにありました。触るのはいやです。しかし覚悟を決めて感覚を切り替えていた私は無表情にコロニーごと取り除き、まるごとゴミ袋に入れて二度と出てこられないように密封しました。さらに排水口周りを磨きました。見えない部分は手探りで磨きました。汚れは水で排水口へ流し込みました。これでゴミ袋に入り損ねたヤツや生き延びたヤツやこれから生まれるであろう卵も栄養分が無くて生き延びられないはず。

作業中、これは一族まるごと皆殺しだなぁ、チョウバエに対する「根切り」だなぁ、虫が相手とはいえ罪深いっちゃ罪深いよなぁ、などと無表情で考えてました。あとコロニーを見ちゃったせいか（卵は見えなかったけど）元を辿れば私の身体からでた有機物だしなぁ、ある意味こいつらは私の一部が姿を変えたものなんだなぁって考えてました、無表情で。

作業の翌日からヤツらが居間や寝室に姿を現すことは無くなり、浴室には生き残った成虫が数匹いるだけです。成虫の寿命は4〜14日だそうなのでしばらくは出現しますね。あと近日中にもう一度掃除することで生き延びたヤツらの次世代も除きます。殲滅。

不思議に思ったのが居間や寝室に出なくなった理由です。ひょっとするとチョウバエの生息環境は排水口の周りだけで、できればそこで一生を過ごしたいのではないか。ならば、なぜ、真冬の乾いた部屋の中にまで飛んできたかというと、成虫の個体数が風呂場の排水口まわりのキャパシティを超えて、もはやそこに居られないからか？と推測します。居場所がないからフロンティアを探してコロニーの外へ飛び立った個体が居間や寝室にまできたのかなぁ、って。真冬なのにね。いま現在は個体数が激減したことで、浴槽の下に隠れている排水口周りは余裕があるはず。現状ではほぼ目に入りませんが隠れて見えない排水口にはそれなりの数の成虫がうろうろしているのかもしれません。想像したくないけど。

とまぁ、こまめに掃除しなきゃなぁ、と思った出来事でした。とはいえ、浴槽の下の見えない空間に手を突っ込むのはやる気が相当ないとできないですけど。というより、そもそもですよ、そもそもなんで排水口の大半が浴槽の下に隠れる造りなのか？　これデザインしたヤツは掃除する前提でデザインしたのか？って感じ。

まぁそんな感じで。