ふと気がつくと私は一本の道の上に立っていた。道は前にまっすぐ伸びている。
道の両側は・・・・どうなっているのだろうか。見えるようでいて見えない。何も無いというのが正しいようだ。ここにあるのは道だけである。
私は後ろを振り返ってみた。やはり、そこには何もなかった。
私は道を歩き始めた。
私は道を歩いている。前には一本の道だけが存在している。
歩き始めてからどのくらい立ったのか、どのくらい歩いたのかということは、興味が無かったので覚えていない。私は自分が歩いているということに満足していた。
歩いていると、前方の風景に変化が起こった。道の上になにかがいるよう
だ。
しばらく歩くと、それは私の目の前まで来た。人のようであった。
白い服を来ている。そして背中に白い羽根を生やして、頭には光が輪になって浮いていた。
私は少しの思案の後、やはりここは声をかけるべきだろうと思った。
私 「こんにちわ。」
相手は、天使の微笑みを浮かべたまま、黙ってこちらをじっと見ている。
私 「あのぅ？」
天使「・・・・・・。」
私 「しゃべれないのでしょうか？」
天使「・・・・・・。」
その他にも２、３、声をかけてみたが相手は何の反応も見せなかった。
反応のないのを相手にしていても仕方がないので、私は先に進むこととした。別に失礼にはあたらないであろう。
相手の脇をすり抜けようとすると、いきなり相手が私の前に立ちはだかった。これでは向こうへ行けない。
私は、相手の反対の方向へと回ってみた。
相手はつつつと横滑べりすると私の進路をふさいだ。
私 「通せんぼですか。」
天使「・・・・・・・。」
相手は相変わらず黙って笑みを浮かべているだけである。
私は、相手の鼻を押してみた。
私 「ビィ〜。」
相手は、急にしおしおとしなびてしまった。
私は、堂々と胸を張って、道を歩き始めた。
私は道を歩いている。前には一本の道だけが存在している。
歩いていると、前方の風景に変化が起こった。道の上になにかがいるようだ。
しばらく歩くと、それは私の目の前まで来た。大きな人であった。
赤銅色の肌に黄色と黒の縞模様のパンツを履いている。上半身は裸で筋肉が盛り上がっている。腕の太さなんぞ私の胴体程の太さはあろうか。
そして、相手は右手に私の身長程の大きな刺々のついた棍棒を地面につき立てていた。
顔をみて見ようと、見上げて見たのだがもじゃもじゃの髭がじゃまで良く見えない。
仁王立ちという言葉がぴったりであった。
私はとりあえず声をかけてみることにした。
私 「こんにちわ。」
赤鬼「・・・・・。」
私 「いいお天気ですね。」
赤鬼「・・・・・。」
さらに２、３の言葉をぶつけて見たが、相手は何の反応もなかった。
反応のないのを相手にしていても仕方がないので、私は先に進むこととした。別に失礼にはあたらないであろう。
しかし、相手の身体が道いっぱいに広がっていて通ることはできそうになかった。
私 「あの、よけて頂けません？」
赤鬼「・・・・・・。」
私 「聞いています？」
赤鬼「・・・・・・。」
私は、相手の股下を見てみたり、脇がすり抜けられないかと見てみたが、どうがんばってもできそうに無かった。
最後の手段として、相手を乗り越すことにした。
まず、棍棒の凸凹を利用してよじのぼる。棍棒の上で、何か反応があるんじゃないかと思って相手を良く観察してみたが、相手は微動だにしなかった。
右腕にしがみついて肩を目指す。えっちらおっちら。
私 「よいしょっと。」
肩の上でほっと一息つく。下を覗くと、道が小さくみえる。
私は、そのまま目をつぶって一気に飛び降りた。
ふわりっとした感じがして、しばらくして両足にとんっと衝撃がきた。
おそるおそる目を開けてみると、私は、なにごともなかったように道の真中に立っていた。
私は身震い１つすると、道を歩き始めた。
私は道を歩いている。前には一本の道だけが存在している。
歩いていると、前方の風景に変化が起こった。道の上になにかがいるようだ。
しばらく歩くと、それは私の目の前まで来た。小柄な老人であった。
薄茶色の長いだぶだぶとした服を着ている。ハゲ上がった頭と、白い長い髭が印象的である。
私 「こんにちわ。」
神 「おお、こんにちわ。」
私の、言葉が通じないだろうという考えは、はずれた。
私 「あの、あなたはどなたです？」
神 「おお、自己紹介がまだじゃったな。わしは神じゃ。」
私 「紙ですか。」
神 「神じゃ。」
漢字の違いを言い当てるとは、なかなか大した老人である。
私 「そうなんですか。で、通して頂けませんか。」
神 「だめじゃ。」
老人は、通してくれなさそうである。
私は、ちょっと考えた。
私 「暗い明るさの中で青白く輝く変態は？」
神 「バレエのダンスを１人でかっくんかっくんと、じゃ。」
簡単に返されてしまった。
老人は、にんまりとした笑みを浮かべた。
神 「では、わしの番じゃ。愛しのフランス人形が努力と根性を行う時は？」
私 「パソコンのコンセントを豚の餌にしようとした。」
簡単な問題であった。私はほっとした。
私 「パイといったら？」
神 「次女の胸じゃ。ライオンの足の底辺りに緑亀のもつ間には？」
私 「え〜と、え〜と、え〜と。挨拶の山の中にはカラスのにわにはにわにわとりがいるとわめき散らす、・・・かな？」
神 「ほっほっほ。正解じゃ。なかなかやりおるのう。」
私 「どういたしまして。」
老人は手で長い髭をしごいた。
神 「よしよし。その知識に免じて通してやろう。」
私 「え？本当ですか。ありがとうございます。」
神 「っとっとその前にじゃ。おぬしの落したバットは、この『金の金属バット』か、それともこっちの『銀の金属バット』どちらかのう。」
相手は、右手に金色のバットを、左手に銀色のバットを取り出した。
古典的な問題だ。
私 「それはもちろん、『木製の金属バット』に決まっています。」
神 「うむ。そうか。ほれ、くれてやろう。」
私は老人から、木製の金属バットを貰って、道を通してもらった。
私は、木製の金属バットを抱えると道を歩き始めた。
私は道を歩いている。前には一本の道だけが存在している。
歩いていると、前方の風景に変化が起こった。道の上になにかがいるようだ。
しばらく歩くと、それは私の目の前まで来た。どこかで見たような人であった。
私は相手が誰に似ているのかを思い出そうとした。しばらく悩んだ末、鏡でよく見掛ける人だという結論にたっした。
私はとりあえず声をかけてみることにした。
私 「こんにちわ。」
自分「・・・・・。」
相手は、にこにこと立っている。
その笑顔を見つめていると、私は急に怒りを覚えた。
私 「貴様！修正してやる！」
手に持っていた木製の金属バットで相手の側頭部をフルスイングした。
鈍い音とともに相手は道に沈んだ。そのまま融けるように道に沈みこんで行ってしまった。
私は、木製の金属バットを投げ捨てると道を歩き始めた。
私は道を歩いている。前には一本の道だけが存在している。
歩いていると、前方の風景に変化が起こった。道の上になにかがいるようだ。
しばらく歩くと、それは私の目の前まで来た。それは扉であった。
漆黒の材質でできている。触ってみたが暖かくも冷たくもなかった。
他には、渋い赤銅色のノブがついている。鍵穴の類はついていないようだ。
私は挨拶した。
私 「こんにちわ。」
扉 「・・・・・。」
私の、言葉が通じないだろうという考えは当たった。
どうしようかと思案する。扉は道幅一杯に広がっていてとても脇をすり抜けることはできそうもない。今度は足掛かりが無いから乗り越すのも無理のようだ。
おお、そうだ。扉を開ければよい。きっと向こうには道があるはずだ、と私は考えた。
私は、無造作にノブに手をかけ扉を開けた。
次の瞬間、私は光につつまれた・・・・・・・。
赤ちゃん「おぎゃぁ、おぎゃぁ。」
元気な泣きごえが新生児室に響きわたる。
看護婦「はいはい。とっても元気な男の子ですよ。」
新しい母親は、自分の子の顔を見て幸福そうに微笑んだ。
父親は渡された我が子を落さないようにおっかなびっくり抱えている。
小さな、しかし暖かい命がそこにはあった。
fin.