オーディオ用高級USBケーブルの意義を考える
- 2013.12.23 初稿 -
PCの音楽ファイルを再生するPCオーディオの機器の中にあって、高品質で高価格なUSBケーブルの存在が、なぜこうも苛立たしく感じるのか、自分の中を整理しました。
高級USBケーブルの何が気にくわないのか？ 気にしなければ良いじゃないか？
できぬ。なぜならデジタルの原則を踏みにじられているようで気分が悪い。無関心だが、目に触れるたびにもやもやして気に障る。
高級USBケーブルは嘘なの？
高級USBケーブルという存在は嘘ではない。高級な素材と高等な技術で丁寧に作られたケーブルは、普通に使われているPC用のケーブルと比べれば品質も価格も高くなるのは当然だ。またケーブルの電気的な特性が良いことも予想できる。だが、高級USBケーブルによってPC用のケーブルより音が「良く」なると断言することは嘘だ。
ケーブルの電気的な特性が良ければ音が良くなるのでは
オーディオシステムがアナログならば良くなる。しかしUSBケーブルはデジタル信号を送信するための機器なので電気的な特性の良さは音質の良さに寄与しない。つまり音の良さとは無関係である。
ケーブルを変えると音が良くなるよ
わずかに音が変わる場合もあれば、大きく変わる場合もある。しかし変わるのであって、良くなるのではない。また変化とケーブルのグレード（価格）の関連に方向性はほぼ無いだろう。
音が変わることは認めるんだ？
認める。その理由を説明する前に、USB DACで音を再生する仕組みを整理したい。次の図はエントリー製品に多いUSBバスパワーでSynchronous転送を用いる製品を場合の図解である。
図中の左側がパソコン、右側がUSB接続のDAC。digital dataの中身はOS標準のUSBドライバであれば、フォーマットの違いはあれPCMデータ。再生の流れは、
- PCの音楽ファイルを再生ソフトが入力して
- 再生ソフトが音声データをデバイスドライバに渡して
- デバイスドライバはUSBインタフェースにデータを渡して
- USB DACのインタフェースがデータを受け取って
- 受け取ったデータをDAC用デジタル信号に変換して
- DACはデジタル信号からアナログ信号に変換して（デジタル／アナログ変換）
- アナログ信号をアンプが増幅して
- 増幅された信号がヘッドフォンから音になって出てくる、と。
図中の青色の部分はデジタルの世界。オールオアナッシングの世界。ここでは信号の伝達はパーフェクト。送り手が100ビット送ったら、受け手は100ビット受け取り、受け取ったビットは送り手が送ったビットと一致する。それがデジタルの世界の約束事。
図中のオレンジ色の部分はアナログの世界。七分八分が許される世界。ここでの信号伝達を完全にすることは困難。デジタルのように1か0かではなくて幅があり、影響のある要素が複数ある。デジタルならビットの有無だけだが、アナログでは物理的な特性・・・電圧に電流に抵抗にノイズに加えてこれらが時系列で変化する・・・に影響される。さらに送り手と受け手のつながりによって相互に関連しあう。複雑な関係性の世界であり、送り手と受け手のそれを完全に一致させることは容易ではない。
デジタル化さえできれば高品質な信号を簡易に得られるのは、これらのアナログ信号をとりまく環境の物理的な特性の影響から切り離せるから。
ふたたび図に戻ると、USBケーブルを流れるのはデータだけではない。電源も流れている。USBケーブルからDACに入った電源はUSB DACの中でデジタル信号やアナログ信号を処理する電源として使われる。USBケーブルの電気的な特性は、電源ケーブルとして影響がある。
オーディオ界では電源の品質と音質の良さの関連は周知のことである。USBケーブルが変わると音が変わるのは電源ケーブルが変わった変化と考えられる。
オーディオ用高級USBケーブルは無駄なの？
高品質なUSBケーブルであることに違いはない。ただデジタル信号を伝達するケーブルとしては過剰品質である。電源ケーブルとして考えれば要求される品質は天井知らずなので過剰と言うことはないだろう。
PC用のUSBケーブルとして規格と性能を満たしていれば必要十分である。
PC用のUSBケーブルが充分な品質と考えるのはなぜ？
規格を満たす品質で十分だから。USBオーディオはUSBの規格の中で生まれて使われている技術である。規格を超えた過剰な品質を要求しない。
たとえばCDを再生することを考える。CDはサンプリングレートが44.1kHz、16bit符号化、ステレオチャンネル、のPCM音声データである。これを1秒あたりのデータ量としてみると、44100×16×2=1411200となり、1.4Mbpsのストリーミングデータである（実際は制御情報を含むのでもっと多い）。USB1.1でも12Mbpsの容量があり、CD相当の音源を再生しても帯域の12%程度の使用となり余裕がある。
ただし例外はある。電波によってノイズが混入する環境の場合はUSBケーブルがノイズを拾って伝達が損なわれる可能性があるが、通常のオーディオを視聴する環境ではそのような状況は考えにくい。
高級電源ケーブルとしての意義は
USB DACには製品のグレードがあり、高い製品も安い製品もある。高い製品の場合はUSBバスパワーを使用せずに外部から電源を得る。さらにアナログ回路へノイズが混入することを避けるために工夫している。そのような機器に対して高級電源ケーブルなUSBケーブルの意義がどれほどあるか。
エントリー製品からミドルレンジ製品にかけてUSBバスパワーで動作する製品は多い。また対ノイズの工夫がない、または、十分に対策できない製品もあるだろう。これらの製品に対しては高級電源ケーブルとして大いに意義があると考える。
以下、想像である。グレードの高いUSB DACには高性能であるがゆえに入力信号や電源の電気的特性に敏感なものがあるかもしれない。その場合にケーブルを変更して音が変わるのは、PC／USBケーブル／USB DACの電気的な相性の影響ではないか。であればベストな相性のUSBケーブルを探す価値があるのではないか。ただし、いわゆる相性なので高級であろうが普及品であろうが候補にあげた方が良い。なぜならケーブルのグレードによる特性変化と音の変化の方向性が一致するとは限らないので総当たりすべきだからだ。
結論としてオーディオ用高級USBケーブルに意義はない、か？
USBバスパワーで動作するUSBオーディオ機器の場合は高級電源ケーブルとしての意義がある。またオーディオ試聴環境がノイズまみれの場合およびノイズ対策が不十分な機器を使用する場合は意義がある。あと格好いいし、良い品質のものを持っているという満足感も得られる。
偉そうなことを言うあなたのシステムを教えてください
きゃっ、恥ずかしい／／／
- パソコンは、aser ASPIRE one 722
- DACは、AUDIOTRAK PRODIGY CUBE
- USBケーブルは、エレコムのUSB2-FS05
- ヘッドフォンは、AKG K601
補記
以下、メモ。
- USB1.1は12Mビット／秒。
- USBオーディオはIsochronous転送である。一定時間に一定量のデータを送るための転送方式である。エラー訂正による再送はない。
- USB1.1では1ミリ秒ごとに1フレームを送信する。1フレームは複数のパケットで構成され、1〜複数のパケットでトランザクションが構成される。1パケットで最大1023byteのデータを送れるみたい。
- PCMデータはサンプリングレートと符号化の深さに種類がある。サンプリングレートは1秒間に音を取得する回数。CDの44.1kHzは44100回音を取得すること。サンプリングレートの数が大きい方が細やかに音を記録できる。ハイレゾ音源はCDよりサンプリングレートが高い。符号化の深さとは音を表現するのに使う情報量の大きさのこと。CDの16bitは取得した音を16bitで表すことを意味する。
- S/PDIFはソニーとフィリップスが企画したデジタル音声データを扱う規格。流れるデータはPCMデータ。
- USBオーディオクラスで扱うデータ形式は複数ある。非圧縮ではPCMが一般的。他にもPCM8、IEEE_FLOAT、ALaw and μLawなど。圧縮形式では各種MPEGが扱える。その他の独自なものも扱える。OS標準にはPCMがあるが、他の形式の存在は未確認。
- DACのクロックはS/PDIFと同様に入力したデータ（フレームとパケット）から生成する方式（１）と、機械的に水晶発振器やルビジウム発信器などで生成したクロックを使う方式（２）がある。低ジッターなのは後者。値段が高いのも後者。
- クロック生成が（１）の方式の場合は送られてくるデータに合ったクロックで動く。そのため送信側と受信側のデータの処理タイミングは同期する。Synchronous転送という。
- クロック生成が（２）の方式の場合は送られてくるデータと異なるクロックで動く。そのため送信側と受信側のデータ処理タイミングは非同期である。Asynchronous転送という。
- Adaptive転送もある。あまり使われてないらしい。
- クロックの揺らぎをジッターという。（１）の場合はPCの処理タイミングでクロックが左右されるのでジッターが多い。PCオーディオは信号伝達がデジタルのために高品質な音声データの処理ができるが、クロックは時間軸の信号なので非デジタルな要素である。ジッターのないクロックを得るにはコストがかかる。よってグレードの高いUSB DAC製品のトレンド。あとコストに見合う音になるんだって。
- 図中でクロックをオレンジ色のanalog signalにしたのには、まだ迷いがある。
- AUDIOTRAKのPRODIGY CUBEのUSB DACはTENOR社のTE7022Lである（写真から）。これはSychrononus転送で使われている。このチップはUSB I/FモジュールとDACモジュールが一つのパッケージになっている。普通らしい。
- DACのチップによって音が異なる。音ができる過程は複雑で、D/A変換された信号がそのまま音になるわけでは無いらしい。限られた条件の中で作りたい音を作るのがメーカーの技術者やDAC自作派にとって魅力なんだろうなぁ、と思った。
- ケーブルによって音に「味付け」されることについて。味付けとは、前述の通りに電源ケーブルの変化として「音の変化」したことである。オーディオシステムに穴があれば、それは大きな変化になるだろうし、ちゃんとしたシステムなら変化と言えないほどの変化である。ネットや雑誌でケーブルの素材や見た目に沿って「暖かさ」とか「堅さ」が「味付け」されるという記事をたまに見かけるが、記述者がイメージに左右されてないか？と思う。音は耳ではなくて脳と意識で聴くので音以外の情報に左右されるのは仕方ないと思うが、それでは客観的ではなかろう。評論家ならましてや。表現者ならありだと思うよ。
- いにしえの「CDがデジタルにもかかわらず機器によってなぜ音が変わるのか？」について。これはデジタル回路とアナログ回路の分離が不完全なためだった、が結論だったと記憶している。CDのディスク読み取りのモジュールに、・光を読み取ってデジタル信号を出力する・デジタル信号を増幅する・レンズを動かすサーボをコントロールする、などの機能があるにもかかわらず電源が1系統で、そのためにサーボが動くと電気的な変動が起こって信号を処理する回路に影響していた、とか、サーボが動くとディスクの回転制御も動いてジッターが出た、とか。かようにデジタルの中に組み込まれてたアナログな部分で起きていた。これらはオーディオな人たちの聴力（耳と脳）がデジタル技術者が充分と考えていた精度では足りなかったために起きたのだろう。CDも技術が成熟してくるにつれて、デジタル部分とアナログ部分の分離が進み、良い音と評価される製品がでたし（普及価格帯の製品は別の話）。あとCDとはいえDACを通過した後はアナログ信号なので製品ごとに音は違ってしまう。つまり、いしにえの論争は現在はほぼ解決されている、CDについては。USBケーブルにもデジタルとアナログの狭間がまだあるのだろうか？
- デジタルなのに機器によって音が変わるのは何故か？という疑問に対してすっきりさせてくれる記事をみつけました。cocoパパさんのウェブサイト「Pure Digital Audio」のブログのエントリー「DAI回路の功罪：デジタルなのに信号ケーブルなどを変えて音が変わる理由」です。かなりすっきりします。(2015.12.1追記)