黄金の戦士 第４部 戦乱編
index,prev
プロローグ
ラインは、サークルをミネアリスト神殿の片隅の廊下で捕まえた。
ライン 「おい。サークル。」
サークル「・・・・・ラインか・・・。」
ライン 「おいおい。まだ、暗いじゃないか。」
ぼんやりとした表情で振り返るサークルを見て、ラインはとがめるような口調をした。もう３ヶ月も立つと言うのに、いまだにサークルは元気が無い。
サークル「うん。大丈夫だってさ。」
ライン 「・・・どこがだ。」
サークルの暗さに不満そうなラインだが、ふっとなにか思い出したような顔をした。
ライン 「そういえば、光と闇の神の話を聞いたか？」
サークル「ああ、意見が対立したって奴だな。・・・知っているか。この前の反乱だが、」
一瞬、サークルの顔に苦々しい表情が走る。が、それも一瞬だけであり、またいつもの表情に戻る。
サークル「例の反乱には、裏からの援助を行なった連中がいたらしい。」
ライン 「なに！？それは本当か？」
裏から反乱に対して援助があったとすると、それは反乱に加わったと同じと考えられる。そんなことをする奴がいるとは思われない。それは、神に対しての反旗と考えられるからだ。
サークル「本当らしい。事実、反乱軍の方にはあふれんばかりの武器があった。連中に、それだけの金があるとは思えんな。と、なるとなにかしら裏から援助があったのだろう。」
ライン 「誰がだ？何のために？」
サークル「知らん。１説では、武器を扱っている人が、戦争を起こすことによって、人儲けしようとしたとかという話だ。」
ライン 「・・・・・。」
サークル「もちろん、証拠はない。それでだ。光の神は、取り敢えず様子を見ようと言ったのだ。で、闇の神は、それに対して強攻策を主張したんだ。最後には、つかみ合いの喧嘩にまでなりそうになったとか。」
ライン 「あの方々は結構仲よかったと思ったのだがな。となると、今回の反乱はまだまだ尾を引きそうだと、言うことかな。」
サークル「・・・・どうかな。変な方向に行くかもしれないし。・・・どうなるかは、その時じゃないとわからないとね。」
ライン 「そうだな。」
第１６章「スカイブルーストーン」
サークル「・・・・・・もうこんな時間か？」
ここは、神殿内のサークルの研究室である。と、呼べるほど大層なものではないが雑然と研究用の器具が山となり、サークルの座っている机の回りには書物が乱雑に積まれている。
サークルの手には、あの老魔道士から研究を引き継いだ青い石がある。石は老魔道士より受け取った時より相当大きくなっていた。そして、形は正８面体の形を作っている。石の精製を繰り返していると、なぜかこの形になっていたのだ。
もちろん、空気に触れると劣化する石である。その外側は、水晶でコーディングしてある。水晶は、魔力を良く透過する鉱石である。普通、魔力は何かしらの物質を通ると減少する。水晶は、その減少率が非常に少ないのである。これでくるんであると、石に魔力がかかった時の反応が良くわかる。
その石に興味深げに魔力をかけていたサークルであったが、ふっと目を上げて時間を見ると、もはや深夜の時間帯である。
サークル「・・・・・腹が減ったな。」
石をペンダントのように首から下げ、サークルは研究室を出る。最近は持ち歩いて思い付いた時にいつでも石を研究できるようにしている。食堂の方で、簡単な物を用意しながら、サークルの興味は、また石に向く。水晶の透明な色に包まれた、青く透き通るような正８面体の石。神秘的な美しさである。
女性は、それを見るたびに欲しいと叫ぶ。全財産と引き替えでもいいから、それをください、と言われたことも何度か。神殿内ではさすがにないが、外に出ている時に、泥棒に入られたこともある。もっとも、泥棒はすぐ自分のやったことを後悔するはめになったが。
サークル（やっとわかって来たぞ。これは・・・魔力を蓄積する石ではない。）
反乱から、すでに２年。徐々に、神殿内の空気は変わって来ていた。光の神アルモスと、闇の神ダーシェの仲が険悪になり、それが神殿内に波及してきた。人々は、神の機嫌を伺うようになり、光と闇の神官達の間も仲が悪くなって来ている。
そんな中、サークルは前にもまして、石の研究に熱中しだした。まるで、辺りのことを考えたくないかのように。
サークルは、石をじっと見つめる。透明な水晶に自分のゆがんだ顔が映る。
サークル（これは、魔法を映す石だ。いや、精神力を記憶する石かもしれない。つまり、こいつに魔法の手順を教えてやって、魔力をかけると、）
サークルは石にゆっくりと魔力をかけていく。
サークル（石は記憶した魔法を再現する！！）
呪文もなにも唱えていないのに、食堂のど真ん中に強力な光の球が出現した。２、３秒程で急に暗くなり、消える。
サークル「・・・うまくいったな。ちょっと魔力を食いすぎるけれど・・・。メリットってあんまりないな。呪文なしで繰り出せるのはいいけれど。これならば、呪文唱えた方が早いし。それ以上に、魔力を食うんじゃな。一体、どうやって使おうかな。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「カダルト様ぁ。ご機嫌麗しゅう。」
カダルト「どうした、サークル。とうとう脳味噌がいかれたのか。」
にこにことした笑いを浮かべながら近寄って来るサークルを、カダルトは気味悪そうに見つめた。
サークルは、そっと左手の甲をカダルトに指し示す。
サークル「ちょっと怪我をしてしまいまして。できれば・・・治療したいのですが・・・・お願い出来ますか？」
カダルト「・・・かすり傷ではないか。」
言いながらも、カダルトは治癒の魔法をかけはじめた。
カダルト「魔力を集めるな。治癒魔法がかかりにくい。・・・ほれ、直ったぞ。」
サークル「ありがとうございました！！」
叫ぶなり、脱兎のごとく逃げ出したサークルの後ろ姿を、カダルトはさらに気味悪そうな目で見つめた。
カダルト「あいつ、本当にいかれたんじゃないだろうな。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
カダルトの前を逃げ出したサークル。怪我が癒された左手をそっと開くと、そこには例の石が握られていた。
サークル「これで、治癒魔法がコピーされたはずだ。これを使えば・・・。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「さてと、遺言状もこれで・・・・・・。」
サークルは、大きな魔法円の真ん中に深い水槽を用意し、水をなみなみと注いだ。上半身裸になると、その水槽に浸かる。水は、サークルの首まで達した。
そしてサークルは、石を取り出した。
サークル「こいつを、心臓に埋めこむ。そうすれば、心臓に集まった魔力がこの石の治癒魔法を起動する。大した魔力じゃないから、大した効果は期待出来ないが、しかし身体の機能の活性化は出来るはずだ。そうすれば・・・・・不老不死が実現出来る。」
サークルは、この石を研究しつづけた。どうすれば、魔法がコピー出来るか、また、具現させるには、どうすればよいか。
この鉱石自体は、非常に希少なものである。空気に触れると劣化するのだ。鉱脈があっても掘り出すのは、非常に難しい。つまり量産ができないのである。
サークルは、この石をどうやって使えばいいかをいろいろと検討した。石に強力な魔法を覚えこませ、武器として使用するとか、治癒魔法を記憶させ、神がいなくても治癒が使えるようにするとか。
そして、究極の使い方を思い付いた。石に治癒魔法を覚えさせ、その石を生物の心臓に埋めこむ。心臓に埋めこまれた石は、心臓に集まるわずかな魔力で治癒魔法を起動する。そうすれば身体の機能は活性化され、寿命が伸びる。永遠に治癒魔法をかけつづければ、人間の身体は永遠に生きながらえることが出来る。
当然であるが、最初の人体実験である。うまくいかないとも限らない。だが、やり直しが効くものでもない。サークルは、あえて、自ら危険な実験を試みた。失敗したときには、命はないだろう。そのためにわざわざ遺言状まで用意した。
サークルは、ゆっくりと呪文を唱えはじめる。物質透過の魔法だ。これを使えば、魔法をかけた物質を、障害物を透過させ移動させることが出来る。
サークルの手の中の、青い石がぼんやりとぼやけはじめる。そのぼやっとした青いものは、水晶を難無く通り抜け、サークルの胸に向かって移動する。物質でなくなった青い石が、サークルの身体の中に入り込む。
石の触った部分の肌がざわっと鳥肌が立つ。なんとも言いようのない感じだ。
サークル「よし！物質化！！」
物質透過の魔法が、石をサークルの心臓の位置で物質化する。
サークル「う、うくくくくくくく。」
心臓が暴れる。中の異物に対抗するかのように。
それに伴ってサークルは、胸の奥で激痛を感じる。
サークル（耐えろ！耐えるんだ！！）
物質化は終了したはずだ。しかし、痛みは止まらない。
サークル（失敗か！？不老不死などは所詮は・・・・。」
その間、約３０秒。永遠と思える時間が過ぎ去った。
サークル「・・・・・・・・・・。」
痛みは引いた。ほとんど気絶しかかっていたサークルは、やっとの思いで、身体を水槽から引きずり出す。
床に横たわって荒い息をつく。心臓は、確かにどきどきと動いているのを感じた。
サークルは静かに胸に手を当てた。心臓部分でかすかな魔法の残像を感じる。それは、石が稼動を開始したという証しであった。
サークル「やった・・・・か・・・・。」
第１７章「破滅へ」
サークルは、がらんとしてしまったミネアリスト神殿の中を歩いている。
ほんの１年前までは活気に満ちあふれていた神殿であるが、今はろくに人も住んでおらず、あっちこっちに退廃の跡が見え始める。
サークルが不老不死の力を手に入れてから２年。サークル、２８歳。
例の反乱で意見があわなくなって以来、とみに仲が悪くなった光の神アルモスと闇の神ダーシェ。数年間その状態が続いた後、２人は、とうとうミネアリストの神殿を出て、別居（？）状態になった。
同時にカダルトやラーファ達もミネアリストの神殿を離れた。光の属性の神々と闇の属性の神々は交流を断ち、一触即発の状態になっている。噂では、光の神と闇の神の下では、既に戦争に備えて軍の再組織が急ピッチで進められているらしい。
カダルトの方も、一応は戦争の準備はしているものの、まだ、その動きはゆるやかなものである。
サークル「・・・・・。」
サークルの足音が神殿内にこだまする。その音が一層、神殿内の静けさを際立たせる。
っと、その歩みが突然止まった。
目を細め、薄暗い廊下の向こう側を透かして見る。誰かがこっちに向かって歩いて来る。
やがて、足音の主はサークルの目の前で立ち止まった。
サークル「・・・・・・。」
ライン 「・・・・・・。」
ラインがゴッドウォリアーの鎧を光らせ、サークルの前に立つ。
サークル「久しぶり、だな。」
ライン 「ああ、元気そうだな、サークル。」
お互いに、相手から目を放さない。２人ともさすがに剣に手をかけてはいないが、いつそうなってもおかしくないような緊迫感が走る。
サークル「そっちもな。なんでこんなところにいるんだ？」
ライン 「忘れ物を取りにきたんだ。・・で、そっちは？」
サークル「俺もそんなものだ。」
親友とは思えない程、堅い口調の２人。
しばらくの間、神殿の中はしんっと静まり返った。窓から差し込む午後の日差しが、薄暗い神殿内を照らそうとする。
ライン 「これから、戦争になるかな。」
サークル「どうかな。・・・だが戦争になるのは、悲しいことだな。」
ライン 「・・・ふんっ。本当にそう思っているかは疑問だな。」
ラインの眼が、サークルの眼とぶつかる。
サークルの眼がギラリと光る。
サークル「俺は、嘘が嫌いだ。」
押し殺すような声を放つ。ラインは、それを冷笑で受け止めた。
ライン 「そうだったな。お前は、昔から。」
ラインは、ゆっくりとサークルの脇をすり抜けて先へと歩き始めた。神殿内には、ラインの足音だけがこだまする。
十歩ほど歩いた所で、ラインは、サークルを振り返った。サークルは、先程の位置からピクリとも動いていない。
ライン 「おい。」
サークル「・・・・・。」
ライン 「次は、戦場で逢おう。」
それだけ言うと、ラインは神殿の奥へと消えていった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「カダルト様、考えなおしてはいただけないのでしょうか？」
カダルト「くどい！」
ここは、大陸北西部に位置するカダルトの神殿である。
カダルトの方も本腰を入れて戦争の用意を始めたのだ。サークルは、戦争に反対するべくカダルトに直談判を申し出ている。
サークル「これは、光神アルモス様と闇神ダーシェ様の私情からでた戦争です。あなた様が荷担することは無いではありませんか！どうぞ、もう一度御再考願います。」
頭を下げるサークル。経験から言って、カダルトは一度言ったことを翻さない。そのわがままを、なんとかやってのけると言うのがサークルの仕事でもあった。ところが今回は別だ。なにしろ、戦争が起きるか起きないかの境なのだ。しつこいといわれようと、そうそうに引き下がるわけにはいかなかった。
カダルト「ふん。ダーシェは、我等闇の属性を持つものの最高神だ。それに私の友人でもある。彼が戦争をやるというのならば、荷担してやらねばな。」
サークル「あなたは、ラーファ様とも御友人であられましょう！」
カダルト「そうだ。そして、あいつは私のライバルでもある。私と反対のものを司る神。もし、あいつと戦うとなるならば、これは運命だ。私は、その運命に従うさ。」
カダルトの顔に、壮絶な笑みが浮かぶ。ラーファとの戦いを楽しみにしている顔だ。さすがにそこまでいわれると、サークルも手の出しようがなかった。別な手を考えようと思いながら、サークルは引き下がった。
自室に戻ると、サークルは机を思いっきり蹴飛ばした。
サークル「くそ！もっと早く動いていたら、戦争を回避出来たかもしれないのに。」
サークルは悔やむ。回りがきな臭くなってきた時に動きだしていれば、戦争は避けられたかもしれない。しかし、サークルは、その時期、石の研究に熱中していてなにもやろうとしなかった。今となってはいくらあがいてもどうしようもない。取り敢えず、やるだけのことはやってみるつもりでいる。
かつての神々の戦いの伝説をサークルは思い出す。かつての戦いで、１つの大陸が失われたと言う。もしそれが本当ならば、この地に住むすべてのものは死に絶える。そんなことがあってはならないのだ。
サークル「ライン・・・お前はどうする？このまま戦争を始める気か！？」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「とうとう始まったか・・・・。」
カダルトの命令がサークルに下った。南下してラーファの軍を討てと。
サークルにそれを拒否する権限はなかった。
サークルは、慌ただしい神殿前を歩く。辺りには物資が荷馬車に積み込まれ、その回りを人々が行きかい、なにか作業をおこなっている。出発は明日だ。
サークルが、視察を兼ねて歩いていると、ふと目の前に１人の男の子が進み出た。ラインを連想させる金色の髪に青い目をした１０歳くらいの子だ。男の子は、おずおずとした感じでサークルに話し掛けた。
男の子 「あ、あの。ゴッドウォリアー様・・・。」
サークル「ん、なんのようだい。」
男の子 「あ、あの・・・・・。」
もじもじとしてしまった男の子に、優しく話し掛けるサークル。男の子は、ありったけの勇気をしぼりだして叫ぶように言った。
男の子 「ぼ、僕も戦いに連れていってください！！お願いです！！」
サークル「・・・・。」
男の子 「炊事当番だっていいんです！剣だって使えます！決して足手まといにはなりませんから！」
思いっきり頭を下げる男の子。サークルは、その頭をじっと見つめる。そしてゆっくりとその小さな肩に手を置いた。
サークル「なんで、君は、戦いに行きたいんだい？」
男の子 「僕は！僕は！強くなりたいんです！！」
目に涙までためながら力説する男の子。その子を諭すようにサークルはゆっくりと言葉を紡いだ。
サークル「君に兄弟はいるかな。」
男の子 「い、妹が１人、い、います。」
サークル「君が戦いにいってしまって、その妹は誰が守るんだい？」
男の子 「・・・・・。」
サークル「私達は勝つよ。でもね。勝った後、ここに帰ってこようとして、もし、この場所がなかったら、私達はどこに帰ったらいいんだい？」
男の子 「でも、僕は！僕は！」
サークルの目には、男の子の顔と、幼いころのライン、そして自分の顔がダブってみえた。この年頃には、強くなろうと頑張っていた。そのためには、すべてをかけてもいいと思っていた。今日の自分が、昨日の自分より強くなっていると信じて、前に進んだ。
そして、今の自分は、ラインと、親友と、ぶつかろうとしている。
サークル「君にはね。ここを守って欲しい。私達が勝ってここに帰ってこれるように。わかるかい？」
男の子 「・・・・・うん。」
サークルは、男の子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
サークル「よしよし。いい子だ。」
第１８章「戦乱の刻」
司令官 「敵さんも似たり寄ったりの布陣ですな。」
サークル「この地形じゃ、それもしかたがあるまい。」
サークルと軍司令官が、打ち合わせをしている。ここは、大陸中央部にある大平原である。約半月の南下の後、カダルト軍は、ラーファの軍と対峙した。
サークル達の元には、エルフの偵察兵が上空から持ち帰った情報が、次々と入って来る。
サークル「敵の数、およそ３０００。こっちとほぼ同等だな。ドラゴン５０匹、巨人兵がおよそ１００体。これも大体同数といった所か。後は、神の力でどこまで差が出るかが、勝負の分かれ道だな。」
司令官 「地形がもっと複雑ならば、作戦がいろいろと立てられましたでしょうに。」
ここの世界では、戦術や戦略があまり存在しない。なぜならば、戦争と言う概念自体が非常に希薄だからである。数百年前に神が戦ったと言う伝説がある程度。後、たまに反乱が起きる程度である。これでは、組織戦という概念も期待はできない。
司令官 「この距離では、夜戦は無理でしょう。明日、距離を詰めてどんぱちといった所ですね。」
前回の反乱で、殉職した司令官に変わって、今度は若い司令官が任についた。だが、反乱鎮圧には何度も参戦しており、経験は豊富である。頭の回転も早く、肝っ玉も太い。サークルも、安心して軍を任せることが出来た。
サークル「そうだな。最大限、勝つよう努力はしてみるか。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
最初は、双方攻撃魔法の応酬から始まった。特に神が強烈な魔法を使う。
その間隙を縫うようにして、双方の騎馬兵が突撃する。中央付近で、激突が起き、人馬が次々と折り重なるように倒れる。
落ちた騎士を、徒歩の兵が群がるようにしてとどめをさす。
司令官 「よし、巨人兵とドラゴンも投入しよう。」
サークル「任せる。俺も出る。」
サークルが、金色の鎧を光らせ、馬に飛び乗る。手にはランスを持つ。サークルといっしょに、近衛の騎士団も戦場に突入する。
サークルは、一気に戦場の中に突撃した。途中、足を刈ろうと近づいた２人の歩兵の首を跳ね飛ばす。
前方から近づいて来る騎士がいる。全身ミスリルの鎧をまとい、手には大型のハルバードと盾を持っている。
サークル「やる気か。」
お互いに馬を飛ばす。お互いの姿が急速に大きくなる。
サークル（・、・、・、！！来る！、頭狙いか！）
サークルは、上半身を傾けるようにして、相手が動く前に相手のハルバードを避けた。一瞬後、サークルの顔のあった位置をハルバードが通りすぎる。次の瞬間、サークルのランスが、相手の胴を貫いた。
サークル「悪く思うな。」
上から殺気が降りて来る。
サークル「エルフ！」
１人の白エルフが、上空数メートルから炎を投げかける。向こうは、こっちが飛べないのをいいことに、魔法で攻撃をかけてくる。決して、こちらの剣の届く範囲にははいって来ない。
サークルに向かって飛んで来た炎を、右手の短剣で斬り飛ばす。次の瞬間には、左手にたまった魔力が氷に変化して、鋭利な刃物となりエルフに突きささる。
エルフは、まさかこっちが魔法が使えるとは思っていなかったらしく、呆然とした顔で落ちていく。
サークルは、右手の短剣をそのまま鞘に戻すと、馬を走らせながら、右手で長剣を抜く。オリハルコンで出来た刃が、黄金の光で戦場を照らす。
右手の方で、ラーファ軍の巨人兵とカダルト軍の巨人兵が取っ組み合っている。
巨人兵は、神が作り出した兵器としての生物である。命令を愚直に聞き、そのためには自らの命もかえり見ない。身体の大きさは、３メートルから５メートル。大きなものになると、ドラゴンとすら互角に戦うことが出来る。その巨体から、産み出される破壊の力は、強力な武器となる。
ラーファ軍とカダルト軍の巨人の身体の大きさは、ほぼ互角。２人はふんばり、力任せに相手を押しつぶそうとする。近寄って巻き込まれたらたまらんと、そのそばには誰も居ない。
サークル「全く。これだから、頭のない奴は。」
サークルは、馬を全力で走らせた。馬が巨人を恐がるが、鞭を入れて無理矢理近づけさせる。２人の足のすぐそばを通り抜ける。その瞬間、サークルは剣で巨人の足を切り裂いた。
サークルの剣は、ラーファの巨人兵の右足をすっぱりと切断していた。巨人が大声を上げてのたうち回る。カダルトの巨人は、涙を流している相手の頭を引っ掴むと力任せに叩き割った。
サークル「げっ。見なけりゃよかった。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
１時間後、サークルは汗と血にまみれて帰って来た。
サークル「ぜいぜい。せ、戦況は？」
司令官 「あまり思わしくないですな。」
司令官は、手もとの地図と部隊の配置図を見せる。
サークル「！？こんなに散らばっているのか？もっと集めて一点突破をしなくちゃ戦果があがるわけないだろう！」
司令官 「しかし、兵をたくさん集めるとですね、狙われやすいんですよ。こっちもそれを考えて、１部隊、集中して投入してみたんですが・・・。神の魔法一撃でほぼ全滅状態でした。」
サークル「・・・・・・。」
司令官 「ということで、このように部隊を散らして配置するしか方法がないのですよ。」
側近兵が、サークルに冷たい水と軽い昼飯をおいていった。
サークルは、グラスに注がれた水を一気に飲み干すと、お代りを注いだ。
サークル「戦場の内部は泥沼状態だ。兵の疲労も溜って来ている。」
司令官 「今、順番に部隊を撤収させている所です。とりあえず、休息と、腹ごしらえをさせています。」
昼飯のサンドイッチをつまみながら、サークルはちょっとぼーっとする。横では、入って来た報告に併せて、司令官が部隊への指示を出している。
サークル（問題は、神なんだよな〜。あれは強力すぎる。）
人間による神への攻撃は基本的に禁止してある。やるだけ無駄なのが目に見えているからだ。神には、神、そして、ドラゴンや巨人兵などの強力な種族が、連係で倒す手はずになっている。
実際、サークルも神が神を倒す瞬間を目撃している。しかし、全体的にどのくらい神が残っているのかは不明だ。
双方の神は、大体６０人程度。３級神が大半だ。これならば、巨人やドラゴンでも連携して、運がよければ勝つことが可能だ。ところが、２級神ともなると、それも不可能になってくる。２級と３級の間には、大きな壁が存在する。３級神が束になってようやく２級神となんとか戦える程度といわれる。
その２級神１０人をあわせたより強いと言われるのが１級神である。もはや、人の手を出す領域ではない。
サークル「昔、最初のゴッドウォリアーは神をも倒したという。俺にもできないことはないと思うのだがな。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「！神だ！」
サークルは、前方の方に神の姿を見付けた。光の３級神だ。サークルは辺りを見回すと、そばでのんびりと炎を吐いているドラゴンに声をかけた。
サークル「おい！そこのドラゴン！！」
ドラゴンがゆっくりと振り向く。まだ、若い赤ドラゴンだ。ドラゴンは、裂けた口で器用に人間の言葉を紡ぎ出した。
ドラゴン「なんの、ようだ。」
サークル「あれだ！あの神を狙う！右から回り込め！！」
それだけ言い残すと、サークルは神に向かって全速で馬を走らせる。呪文を唱えていた神は、慌ててサークルに向き直る。しかし、横あいから、赤ドラゴンが、炎を吐きかける。
炎を魔法で防ぎ切った神は、素早くエネルギー球をつくり出し、ドラゴンに向かって打ち出す。ドラゴンの巨体に命中、ドラゴンは鱗を欠けさせながら、弾き飛ばされる。
サークル「貰った！」
神の隙をついて、サークルが馬の上から飛び降りながら、全体重を乗せ剣を振り下ろす。神は、持っていた剣でがっちりと、サークルを受け止めた。
サークル「うっく。オリハルコンの剣か！！」
神が持っていた剣は、サークルと同じオリハルコンの剣であった。そうでなければ、サークルの一撃で剣ごと真っ二つになっていたはずだ。
サークルは、神から弾かれるように間合いを取る。素早く呪文を唱え、浮遊するエネルギー球を１０個程つくり出す。不規則に動き、触るとかなりな衝撃波を発する球だ。これだけあれば、神とて集中してこちらの動きについて来れまい。
ところが、神は片手に魔力を集めると、そのままぶん！と振り回した。魔力が、エネルギー球に触れるとそのまま爆発を起こして四散する。１０個のエネルギー球は、１秒立たないうちに自爆を起こして消え去った。
サークル「くっ！」
その瞬間を狙ってサークルが上段から切りつけるが、簡単にかわされる。次の瞬間、神の反撃の剣の一撃が来た。
とっさに身を捻ってその一撃をかわす。剣先がサークルの胸当てすれすれの位置を通過する。いや、掠ったかもしれない。サークルの鎧に相当な衝撃が来る。まともに当っていたら、オリハルコンの鎧といえどもどうなっていたか。
サークル（つ、強い！最初のゴッドウォリアーは、こんな奴を倒したのか！？・・・ええい！ままよ！）
サークルは、矢つぎ早に剣と呪文を繰り出す。それらを全て避け、同じように呪文を繰り出す神。っと、神のすぐ後ろに、先程弾き飛ばされたドラゴンが立った。
ドラゴン「ぐぉぉぉぉぉん！！」
１声うなり声を上げると、ドラゴンは神に殴りかかった。怒りに我を忘れているようだ。ドラゴンの鋭い爪のついた前足が、すざまじい勢いで神に襲いかかる。神は、それをなんなく避けると、飛行呪文を使ってふわりと宙に浮く。
サークル「逃すか！」
サークルは、思いっきり神に向かってジャンプした。自分でも思いがけない程の高さまで飛べる。そして、神に向かって思いっきり、剣を振った。
サークル「おおおおおおおお！！」
剣先が神の右腕を切り裂く。サークルは、その際の衝撃に驚いた。確かに、むき出しの皮膚の部分を切ったはずなのに、まるで鉄製の鎧でも切り裂いたような感触だったのだ。
サークル（これが・・・神の肉体か・・・・。肌そのものが鎧並の防御力を持っている・・・・・。）
思いがけない所から攻撃され、思わず落ちる神。わずか数メートルの落下であったがそこへ、ドラゴンの全体重を乗せた尻尾がくる。尻尾に弾き飛ばされ、地面に叩き付けられる神。おそらく全身の骨が砕けたのだろう。
動けなくなり、もがいているところをサークルが走り寄ってとどめを刺す。首をはねたのだが、オリハルコンの剣でもなければ、切り裂くのすら難しかったであろう。
サークル「これで、神殺しの箔がついたか。」
剣を杖がわりにして、荒い息をつく。神のプレッシャーは相当なものであったのだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
日はとっぷりと暮れ、辺りは、暗闇に包まれた。
サークル「神が１人も帰ってきていないだと！？」
司令官 「はい。」
指揮所で、不安な顔を見合わせるサークルと司令官。２人の目の下には黒いくまができ、何かしようとする手はぶるぶると震える。２人とも、いや、軍の兵士全てが疲労の極にあった。
サークル「カダルト様は・・・カダルト様はどうした！？」
司令官 「戦いが始まった頃から見掛けませんでしたな。てっきり戦場の方へでられたのかと・・・・。」
サークル「・・・・・・。戦場では、ラーファ様もカダルト様も見かけなかった。見たと言う話も聞かんな。どっかで見学でもされているのか。」
サークルは、ゆっくりとパンをかじった。全く食欲が無いが、食べねば体力がもたない。
司令官 「これから、どうしましょう。ざっと調べてみましたが、全軍の約半分が死亡したか戦闘不能です。エルフの魔法戦士部隊は、ほぼ壊滅。空中を飛ぶと狙われ易かったようですな。巨人兵は全滅。ドラゴンは、後４匹しか残っていません。」
サークル「・・・・神も居ないし。・・・・もはや戦う戦力はない。撤退しかあるまいな。」
司令官 「カダルト様が、それで納得しましょうか。」
サークル「今、ここに居ないんだ。軍の指揮権は我々にある。撤退しか道が無いならば、撤退するしかあるまい。」
司令官 「そうですな。まぁ、今夜は兵を休ませましょう。動くのは明日からということで。」
サークル「朝飯はいつもの３倍、暖かいのを用意するように手配しておいたほうがいいだろう。きっと、皆、お腹をすかせるだろうからな。」
司令官 「そうですな。」
第１９章「対決」
サークル「ふぅ。よくまぁ、こんなこと考え付いたな。」
ライン 「そっちの軍も撤退をするんだろう。それならば、責任を取る奴がいないとな。まぁ、そういうことだ。」
荒れ果てた大地に立つ、２人の戦士。
ラインが、サークルをこの場に呼び出したのだ。決着を付けようと。
サークル「ここで俺達が戦っても何の意味もないぞ。神こそが本当の大将だからな。」
ライン 「勝敗なんかどうでもいい話だ。俺はお前を倒したい、ちょうどうまい具合に戦争が起き、お前と戦う理由ができた。ただ、それだけの話だ。」
サークル「・・・・やっぱりな。もっとも、戦争が起きなくても、ゴッドウォリアーを辞めたら俺に勝負を挑む気でいたんだろう。」
ライン 「その通りだ。よくわかっているじゃないか。」
ラインはにやりといった感じで笑う。サークルは、その顔をじっと見つめた。
サークル「っと、その前に、だ。」
ライン 「出てこい。そのにいる奴！」
サークルとラインは、近くの岩の陰に顔を向ける。やがて、おずおずといった感じで、１人の白エルフが顔を覗かせた。まだ子供と言えるような歳だ。サークルが呆れ顔をする。
サークル「お前の援軍か？ずいぶんと若いな。」
ライン 「何のようだ。」
せっかくの１騎討ち前の高揚した気分を邪魔されてラインはひどく不機嫌な顔をした。エルフは、おずおずといった感じでやっと口を開く。
エルフ 「あ、あのぼ、僕は・・・そのライン様の手助けをしようと・・・・。」
ライン 「１騎打ちだ！手助けなんぞいらん！帰れ！！」
サークル「まぁまぁ。落ち着けって。おびえているじゃないか。これ、坊主。巻き込まれて怪我するといかんから、さっさと失せろ。」
サークルも笑顔で、非常に厳しいことを言う。エルフは、ひきつった顔でとぼとぼと引き返した。
２人は、お互いに向き合うと、申し合わせたように深呼吸して気分を整える。
ライン 「さあ！邪魔者も居なくなった。勝負だ、サークル！！」
サークル「今の所、１２戦１１敗１引き分けだったな。さぁ、第１３戦目、始めようか。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
ライン 「はぁ！」
サークル「ふぉぉお！」
サークルの剣とラインの剣が空中で激突する。オリハルコンの剣と剣が火花を散らす。ラインは、そのまま剣を滑べらせるようにして、サークルの左小手を狙う。サークルは、むき出しの手の平をとっさに裏返し、ラインの剣を鎧部分で受ける。そのまま、サークルは、右手の剣を下段からすくい上げるようにして斬る。ラインは紙一重でそれをかわす。
圧倒的な速度を誇るライン。フェイント、魔法を多用してラインの速度を生かさないようにするサークル。
ライン 「ぜやぁ！」
サークル「空の壁よ！」
ラインが間合いに踏み込む瞬間、サークルはその前に空気の壁をつくり出した。ラインは、まるでスポンジの中に突っ込んだような感じを覚える。ラインの移動速度が一気に落ちる。剣すらも振るのが困難だ。
サークルはそこにつけこみ、魔法範囲外から剣を突く。対するラインは、左腕にくくり付けてあるシールドで身体を覆うようにして回避する。後ろに飛び退き魔法範囲から脱する。次の瞬間、魔法範囲を回り込むようにして移動し、右手の剣で水平切りを繰り出す。
ライン 「はぁ！」
サークル「げっ。」
体勢が立ち直っていなかったサークル。とっさに上半身をねじり、首を狙った攻撃をかわす。しかし、かわし切れずに鎧の胸当ての部分に当った。
ラインの剣が、オリハルコンの鎧の一部を欠けさせた。当った部分が、小さな破片に別れ、次の瞬間、ピキーンという音とともに破片が更に細かい破片、ほとんど砂のような感じにまで砕け散る。金色の粉が風に飛ばされ、宙に舞う。
一瞬、動きが止まったラインに、サークルは蹴りを繰り出す。胴の部分にまともにヒットし、ラインは弾き飛ばされた。鎧のおかげでダメージは全くないが、精神的には結構効いただろう。
サークル（オリハルコンが壊れる時というのはあんな風になるのか！？）
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル「ええい！オリハルコンというのは、本当に金属か！！」
ラインの左腕のシールドには、焼けただれた跡や、凍った跡がある。サークルの魔法を受け止めた跡だ。サークルの撃った魔法の大抵は、このシールドで受け止められる。
オリハルコンと言えども、魔法の熱や衝撃までは緩和しないから、当たれば結構なダメージになるのだが、シールドで防がれてしまったのでは、どうしようもない。
しかし、結構な数の魔法が当たっているはずなのに、ラインのシールドはびくともしない。炎と氷の魔法を交互に当てて壊そうと試みたのだが、全然成果が上がらない。自分もそのオリハルコンに守られているから、なんとも言えないのだが。
サークル「氷よ！！」
サークルは、魔法を放つ。ラインは、それをシールドで受け止める。次の瞬間、サークルは、ラインの左手から水平斬りを繰り出す。ラインに受け止めさせることが目的である。案の定ラインは、左のシールドで受け止める。
氷の魔法によって少しは、防御力が落ちているのではないかと期待して繰り出した剣だが、まったくそんなことなくはじき返された。
ライン 「ふん。このシールドを壊そうなどと考えているな。無駄なあがきだ。」
サークル「オリハルコンの盾ならば、オリハルコンの剣で壊すことができるはずだ。」
ライン 「そういうならば、やってみろ！貴様の非力な剣でな！！」
ラインは、次々に剣を繰り出す。一撃一撃に力とスピードが乗っており、サークルには、かわすのが精一杯だ。
ライン 「どうした！サークル！貴様の力はそんなものか！！」
サークル「つぉぉ！！」
サークルの左手から炎の槍が生まれる。同時に、サークルの剣がその槍を追いかけるようにラインに向かって襲いかかる。魔法と剣が届くのはほぼ同時。ラインに逃げ場はない。
ライン 「ずおりゃぁぁ！」
ラインの剣が魔法の炎を薙ぎ払う。炎は、ラインの精神力によって打ち消され、空中に残像を残しながら消える。同時に左手のシールドでサークルの剣を受け止める。
ぎちぃん！という金属のこすれる様な音が聞こえ、斬りかかったサークルの方がはじき飛ばされる。
サークル「ぐぅ。」
ライン 「・・・・・・。」
ラインのシールドには、今の一撃によって、ひびが入っていた。
ライン 「さすが、やるな、サークル。」
サークル「ま、まだまだこれからさ。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
ラインの剣とサークルの剣が空中でぶつかる。ラインは、そのまま相手の剣を抑えるようにして、鍔競り合いに持っていった。
ライン 「はぁぁぁぁぁぁ！！」
サークル「ふぅぅぅぅぅぅ！！」
２人は、全力で剣に体重を乗せ相手をねじ伏せようとする。お互いの意地と意地がぶつかりあう。
ライン （筋力ではこっちのほうが上だ！）
身長は、わずかにラインの方が高い。それと筋力の強さを生かして、サークルを押し込める。わずかずつ、そして確実に押さえ込まれていくサークル。
ライン （！！！）
サークルと鍔競り合いの状態にいるラインなのだが、相手のサークルの右のこめかみにいきなり魔法のエネルギー球が浮かぶのを見つけ、目をむいた。
ライン （馬鹿な！！あいつは呪文を唱えていないぞ！！）
全体重を乗せていた剣の力を一気に抜く。サークルに押され、後ろに倒れ込むようにして逃げる。サークルのこめかみの位置から発射されたエネルギー球が、ラインの頬に焦げ跡を残して背後に飛びさる。
サークル「はずした！」
ラインは、後ろに一回転して体制を立て直す。起き上がりに攻撃を受けないように、左手のシールドを構え、注意深くサークルの動きをチェックする。思ったとおり、サークルはラインの起き上がりに重ねるようにして剣を振るう。
ラインは、十分腰を落とした体制でサークルの剣をシールドで受け止める。受け止めきったところで、シールドでサークルを押し返す。次のタイミングで完全に起き上がる。
ライン （！蹴りか！！）
押し退けられたサークルは、次の瞬間、ラインに向かって左の上段の回し蹴りを放ってきた。ラインには、十分避けられるタイミングである。
ラインは、その蹴りをかわし、隙を見つけて攻撃する気でいた。ところが勘が危険を告げた。
なにが起きたのかわからなかったが、とっさに後ろに飛びすさりシールドでむきだしの顔をガードする。その直後、シールドに強烈な衝撃がやってきた。
ライン 「ば、馬鹿な！！魔法！？魔法を足から打ち出したというのか！！」
サークル「別に手だけが魔力を集められる部位というわけでもあるまい。」
サークルは、蹴りに見せかけて足から魔法弾を放ったのであった。もし、ラインがあのまま攻撃をしていたら、その魔法をまともに食らっていた。
ライン 「さすがだな。」
第２０章「すべての終焉」
ライン 「さすが、サークル。それでこそ・・それでこそ、お前は俺のライバルだ。」
サークル「・・・・・・。」
さすがに２人とも肩で息をしている。
サークルの鎧は、あっちこっちで欠け、ひびがはいり、浅く怪我した部分から血を流している。対するラインは、魔法による攻撃の跡が各所に残っている。
ライン 「よく俺と互角に戦えるまで強くなったな。最初に道場であれだけの差をつけたのだから、そうやすやすと追い付かれるとは思っていなかったぞ。」
サークル「子供の時からそうだったな。最初に習得するのはお前だった。だが、俺はお前に後から追い付いた。今度は、それが数十年に及んだだけだ。俺たちは昔から変わっていないのかな。」
ライン 「変わったよ。昔だったら、俺はお前を倒したいなんて思わなかったからな。」
お互いの顔には笑みが浮かぶ。それは昔、子供の時に一緒に遊んだときの笑顔と同じものであった。
サークル「昔には、戻れない、ということか。」
ライン 「ああ。」
サークルとラインの顔から、笑みが消え、急に厳しくなる。お互いに一歩も引かない構えだ。
ライン 「お前は、俺の・・俺の人生の目標だ。俺は、お前に負けたくない。」
サークル「そうか。人生の目標か。・・・・だがな、ライン。俺の目標はお前じゃないぞ。」
サークルは、ラインの予期しない言葉を返した。
サークル「お前は、俺のライバルかもしれない。だが、お前は俺の目標ではない。俺の目標はもっと、もっと上にある。お前ごときで立ち止まるわけにはいかないんだ。」
サークルは、剣を自分の目の前にかざす。オリハルコンの金色の光がサークルを照らす。まるで、サークル自身が光輝いているように見えた。
ライン 「そうか。・・・ならば、俺を倒していけ。そして、その目標にたどり着くがいい。だがな、俺はそう簡単には倒れはしないぞ！！いくぞ！サークル！！」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
ラインが、剣をかつぐ感じで構える。サークルは、その構えをする技に見覚えがあった。
サークル（！！秘奥義か！）
ラインは、剣の届く間合いにはいなかったが、サークルは横っ飛びに大きく飛んだ。次の瞬間、ラインがそれこそ目に止まらぬ速度で剣を袈裟掛けに斬り降ろす。一瞬後、サークルの今まで立っていた地面に大きな裂け目が走る。一応、技には当たらなかったサークルにも、結構な衝撃が飛んできた。
サークル「秘奥義、空斬刃だっけか。一度だけ道場の師匠が見せてくれたことがあったよ。知らなかったら斬られていたぜ。」
ライン 「くっ。必殺を狙ったのだがな。」
剣を振り下ろす速度を最高にまで高め、その時に発生するかまいたちによって剣が当たらずとも数メートル先まで切り裂く技である。
サークルが昔剣技が伸び悩んでいたとき、道場の師匠が、なにげなく見せてくれた技である。師匠としては、サークルに会得できる技ではないと思って見せてくれたのだろうが、それが今役にたったのである。
しかし、極度の精神集中が必要であるためそうそうに何度も繰り出せる技ではない。
サークル（こっちは、魔力を集める精神力がもうない。大技を１度使える程度が精一杯だな。・・・・やるしかない、か。）
サークルは、呪文を唱え始める。ラインは、またさきほどと同じように剣をかつぐ構えをとった。
サークル「光よ！！！」
サークルの使った光の魔法が当たりを強力に照らす。
しかし、ラインはその手の魔法にはひかからなかった。素早く目を閉じ、直接光を見ないように注意する。全身の神経を緊張させ、サークルがどこから斬りかかってきても対応できるように構える。
光はずいぶん長く発光している。ラインは、辛抱強くサークルが斬りかかってくるのを待った。ここで攻撃してこないのならば、今使った魔法の分の精神力はまるまる無駄になる。サークルがそんなことをするわけがなかった。
光が消える。とうとう、サークルは斬りかかってこなかった。
おかしいと思いつつラインは目をゆっくりとあける。次の瞬間に魔法が使われても十分対処できる構えだ。ところが、さきほどまでサークルが立っていた位置には、誰もいなかった。
あわてて辺りを見回すライン。ところがサークルの影も形もない。
ライン 「逃げた！？」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
そのときには、サークルはラインから、かなり離れた位置にいた。ラインからは、探しにくい岩の陰になっている所である。
サークルは、剣を地面に突き立て、ゆっくりと呪文を唱え始める。
唱えている呪文は、ティルバースト。曝炎系、最強の威力を誇る呪文である。白光を放つ火球を飛ばし、半径１０メートル以内のものを粉砕するほどの威力を誇る。
ところが、これには手で空中に専用の魔法円書かねばならなかったり、呪文の詠唱がむちゃくちゃ長かったりする。とてもじゃないが、ラインが剣を構えている前でのんびりと唱えていられる代物ではない。それで時間稼ぎをしたのである。
サークル「Я・ε・dё・ラνe・・・・・」
全身の精神力を総動員し、サークルは魔力を集める。両手が急速に熱くなる。魔力が集まり、サークルの精神に同調しその形を変えようとしているのだ。サークルは、熱くなった指で、空中に魔法円を描く。それに呼応してさらに魔力が形を変える。
ライン 「いた！！サークル！！」
サークル「ま、間に合うか！？」
そして、サークルは、呪文の最後の部分を唱え始める。その一部分だけ、正規の呪文ではないものを唱える。この部分がサークルのオリジナルである。
ラインが、サークルに向かって駆け寄ってくる！
ライン 「呪文を唱えるための時間稼ぎだったか。」
サークル「我が魔力よ！剣に宿れ！！！！！」
置き換えた部分の呪文により、ティルバーストの魔法がサークルのオリハルコンの剣に封じ込められる。これが石を研究していてサークルが編み出した技、魔力付加である。魔法によって転換された魔力を物質の中に置いておき、その回りを魔力の壁によって、封じ込める。魔力の壁によって魔力は外に力を発揮することができない。
サークル「か、かかった・・・・。」
この呪文をオリハルコンに対して使うのは初めてである。何度か普通の鉄の剣にはもっと小さな呪文をかけていたのだが、オリハルコンにこれだけ大きな呪文がはたしてうまく付加されるかはわからなかったことである。
ティルバーストをかけられた剣が光を放つ。それは、オリハルコンの色とは違い、ティルバーストの色に染まってる。
追い付いたラインがそれを見て目を剥く。
ライン 「魔法か？剣？魔法？」
ラインは剣を上段に構え直す。逆にサークルは下段に剣を構え、ラインを伺う。
ラインの目が厳しさを増す。それを受け止め、さらに厳しい目を返すサークル。
ライン 「貴様が何をやろうとも、これで終りだ。サークル。」
サークル「こい！ライン！！」
サークルの目に、すべてがスローモーションの様に映った。
ラインが、踏み込んで斬り込んでくる。速い。サークルは、上体をひねるようにしてラインに向かって剣を繰り出す。
ラインの剣はサークルの左腕に当たった。サークルの攻撃によって上体をひねったことによって、ラインの剣は急所からそれたのだ。ラインの剣は、そのままオリハルコンのガードを斬り裂きサークルの腕ごと切断する。
サークルの剣がライン向かって動く。ラインの速度に比べたら大したものではない。ラインの首を狙ったその剣を、ラインはシールドを構え受け止める。そのとき、ラインは微かに笑った。勝利を確信したかのように・・・。
次の瞬間、サークルの剣が大爆発を起こした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークルは、自分の剣が起こした爆発に巻き込まれ、飛ばされ、背中を岩にしたたかに打ちつけた。目の前に火花が散り、息がつまる。
かろうじで、残っていた理性を繋ぎあわせ、必死になって呼吸をしながら立ち上がろうと努力する。左腕は、どこかにいってしまって痛みすら感じない。右手はしびれて使い物にならない。剣は、刃がまったくなくなっていて手には柄だけが残っている。
十秒くらいの努力の後、サークルはやっと自分のやったことを思い出した。サークルは左腕を見る。上腕からの中ほどからすっぱりと切断されており、血がぼとぼとと流れ落ちている。サークルは、あわてて止血をした。右腕がしびれていうことを聞かないが、そんなこと言っていられない。口と右腕を最大限に使って左腕を縛り上げた。これで、血の流出は１割くらいに減った。
サークル「ライン・・・・。」
サークルは、自分の前を見る。そこには、ラインが立っていた。剣を自分の前に突き立て、杖代わりにして。そのままの姿で息絶えていた。
爆発を直接受け止めた左腕はシールドごとなくなって、左半身は、ごっそりえぐられオリハルコンの破片を無数に受けていた。
サークルは、剣に魔法をかけたのだ。剣にかけられ圧力のかかっていたティルバーストの魔法は、ラインのシールドにぶつかった一点から噴き出し爆発した。そのティルバーストの破壊力は、ラインの盾、鎧、そしてサークルの剣を粉々に砕いて放出された。
ラインの目は最後まで、サークルに向かって見開かれていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークルは、なにもする気が起きず、そのままぼーっとしていた。左腕からは、相変わらず血がしたたり落ちていたのだが、それももはやどうでもいいように感じる。
そのサークルのそばに人影が立った。白い顔が、そして長い耳が見える。
サークル「お前・・・まだいたのか・・・。とっとと失せろ・・・って言ったはずだが・・・。」
それは、ラインとサークルが戦いの前に追い払ったはずのエルフであった。エルフは、小さな短剣を鞘から抜き放つとサークルに向かって構えた。
サークル「俺を・・殺す・・気か・・。やめとけ。後ろの、ラインが、泣いて、いる、ぞ・・・。」
エルフは、びくっとして後ろを振り返る。しばらくラインの姿を怯えたように見ていたが、向き直るとまたサークルに向かって短剣を構えた。
サークル「若い、な。ふふふ。まぁ、いい。好きに、しろ・・・・。」
暗い視野に、迫ってくるエルフを捕えながらサークルは微かに笑った。もはや、なにがどうなろうとも、どうでもよかった。
？？？ 「おやめなさい。」
横あいから女性の声が聞こえる。もはやサークルに振り返る元気もない。焦点の失った目でぼんやりと前を眺めるだけである。
エルフ 「ラーファ様！？」
ラーファ「おやめなさい。あなたは戦士の誇りを汚す気ですか。」
毅然とした声。生命を司る光の神ラーファである。白の機能的な服装の上から体の要所要所を覆う金色の鎧を身につけ、腰には長剣を差している。
エルフ 「し、しかしラーファ様！こいつは、ライン様を・・・。」
ラーファ「正々堂々と戦ってラインを倒したのです。彼に罪はありません。」
ラーファは、サークルの切断された腕を拾い上げた。爆発で埃まみれになっていたが、損傷はないようだ。サークルの腕を、そっと切断面に近づけた。
サークル「がうぅぅぅぅ！！！」
ラーファが、治癒魔法を唱え始めるとサークルの体が跳ね上がった。
治癒の魔法は、魔力によって人体を活性化させ怪我を癒す魔法である。その治癒を行う時無理な負担をかけられた組織が、強烈な痛みを発生させるのである。軽い怪我ならば、痛みもぜんぜんたいしたことないのだが、切断ほどの大怪我となると、痛みも尋常ではない。
サークル「うががががががががが！！！」
サークルは、泡をふいてもがき苦しむ。左腕の切断面がずれないように、ラーファが左腕を力任せに押さえ込む。神の力に人間がかなうわけがない。
ラーファ「終わりましたわ。」
サークルが痛みによって死にかけたころ、やっとラーファが腰を上げた。切断面をくっつけられたらしい。
ラーファ「さてと。これで・・・！？」
ラーファが驚愕の表情で後ろを、立っていたラインに対して振り向く。ラインの遺体が急に金色の炎を発して燃えあがった。
ラーファ「死の神の魔法・・・ですわね。」
ラーファは、横を振り向く。そこには黒の衣装をまとったカダルトが立っていた。ラーファは、服の上に鎧をまとっているが、カダルトは鎧の上にローブを着ていた。そして、手には穂先が金色に光る槍を握っていた。
ラインの遺体がゆっくりと崩れ落ちる。後には、灰も、骨も残らなかった。ただ黄金の鎧だけが持ち主のないまま転がっているだけである。金色の剣が地面から突き立っていて、まるでラインの墓標のようである。
カダルト「うちのゴッドウォリアーが世話になった。」
ラーファ「大したことじゃありませんわ。こちらもラインを送っていただいたし。」
にこやかにするラーファ。対するカダルトはにこりともしない。
カダルトの厳しい視線をつぃっと避けると、ラーファは脇のエルフに声をかけた。
ラーファ「あなたのお名前は？」
エルフ 「でぃ、ディアスと申します。」
慌てて、吃りながら答えるエルフ、ディアス。ラーファは、まだぐったりとしているサークルを指差すと言った。
ラーファ「ディアス、このゴッドウォリアーを連れて避難なさい。私はこれからカダルトさんとお話しがありますので。」
ディアス「し、しかし！」
ラーファ「これは、命令ですわ。」
カダルト「素直にしたがった方がいいわよ。ここにいたら巻き込まれるかもしれなから。」
ディアスは、ちょっと下をむいて考えていたが、やがて顔を上げて、あきらめたように言った。
ディアス「わかりました、ラーファ様。」
ディアスは、荒い息をついているサークルを肩を貸す感じで起こすと、光の翼を広げた。大荷物を抱えて飛ばねばならないのだ。翼は結構大きめである。
支えられながらサークルが、カダルトに手を伸ばす。
サークル「・・・・・・か、カダルト・・・・様・・。」
カダルト「サークル、元気でな。」
カダルトは、サークルの手を軽く握ると、ディアスに向かって軽くうなづいた。
ディアスが、サークルをぶらさげるようにして、離陸する。大地が急速に小さくなる。そこに豆粒のようんなったカダルトとラーファが、何事か会話しているのが見える。それも、ほんの少し間だけですぐに隠れて見えなくなってしまった。
サークル「・・・・・・・・・。」
ディアス「・・・・・・・・・。」
戦場からずいぶん離れたところで、突然、空に大音響が響きわたった。爆発音だ。サークルの服が、びりびりと震える。あわてて、後ろを振り返ったサークルの目に巨大な火球が広がるのが見えた。山を丸ごと１つくらい飲み込んでしまうくらいの大きなものだ。
サークル「カダルト様ぁぁぁ！！！」
サークルの叫びが、爆発音にかき消された・・・。
エピローグ
荒れ果て、焼けただれ、生きとし生けるものが全て死に絶えたような大地。
まだ、日も上っていない朝。暗闇の丘に立つ２人の人影があった
サークル「神が・・・・全滅か・・・・・。」
ディアス「・・・・・・・。」
ここは、１ヵ月程前、光のアルモスとコスモス、闇のダーシェとカオス、４つの軍が激突した戦場の後である。戦いは２日にもおよび、戦闘に参加した人の８割が死傷したといわれる。この戦いで、１級神は相打ちにより全員死亡、他の神も戦死したか行方不明である。
丘から眺める景色は、薄闇の中に荒れ果てた大地が見えるだけである。あっちこっちに見える巨大な闇は、攻撃魔法による巨大な穴である。うち捨てられた武具などが薄闇の中、黒い影を落す。ところどころに見掛ける巨大な物影は、死体を燃やすのに使われた櫓だ。
サークルの立っている小高い丘には、大きな木が一本途中から折れ、半分炭になりかかって倒れている。
ディアス「サークル様、神は本当に全滅したのでしょうか？」
サークル「いや、全滅はしていないだろう。何人か、１０人くらいは、おそらく戦場から逃げ出したのではないかな。確証はないがな。」
あの後、ディアスは、休み休みしながらサークルを、カダルト軍まで送り届けた。その後もなぜか、ずっとサークルのそばにいる。
サークルは、とりあえず全ての軍に休戦を申したて受け入れられた。ゴッドウォリアーで残っているのは、サークルだけであったし、各軍もはや戦える状況にはなかったのだ。
サークル「カダルト様・・・・・・・・・。」
３日後、カダルトのための捜索隊がラーファとカダルトの戦った付近に派遣された。
ラーファとカダルトが戦ってできたものと思われる、すり鉢状のクレーターの中心部から、融けて半分に折れたカダルトの槍が見つかった。遺体は結局、ラーファもカダルトも見つからなかった。
サークルは、少し歩いて丘の頂上にたった。そして明るくなってきた景色を見つめる。
サークル（かつてここからは、水平線のかなたまで草原が続き・・・・・・。）
サークルの目には、青々とした草原が夏の日差しを浴び、風に揺れているのが見えた。サークルは、横の倒れた大木に目をやる。この大木は、夏の日差しをさえぎって涼しい木陰を提供してくれた。
サークル（そして、ここには、カダルト様が座っていて、俺に微笑みかけてくれたっけ。）
ここは、サークルとカダルトが初めて出会った草原であった。しかし、今は、その面影はどこにもない。
東の空が、ゆっくりと白み始めた。
ディアス「神が居なくなって・・・・我々、残された人は一体どうなるのでしょう。」
東の空で光が弾ける。
そのまぶしい光を全身に浴びながら、サークルは振り返った。
サークル「俺たちは、まだ生きているんだ。神が居ない世界がどんなものになるかはわからないが、精一杯やるだけさ。そうだろう？」
完
Sight!
index,prev