秘密結社『ぴょんこの会（仮）』第１部
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プロローグ
「ふっふっふ。」
ここは、都心のとある古いビルの地下室。裸電球の薄灯が辺りを照らす。部屋の中には、大きなテーブルが置いてあり、それを囲んで５人の人影が見える。先程笑いを漏らしたのはその内の最も上座に座っている男だった。
この男のことを仮に総統と呼ぶことにしよう。
「資金繰りもメドがついた。人材もお前達が揃った。後は下っぱ達を集めれば計画を実行に移すことが出来る。」
「おめでとうございます。総統。」
人影の中で、明らかに女性と思われるふくよからなラインを持った人影が立ち上がって発言する。
「して、我々は世界制服のために戦うこととなるわけですが、この組織の名前がまだ決っておりません。どのような名称に致しましょうか？」
「うむ。実はもう考えてある。」
「おお。」
総統の言葉に人影が、ざわめく。そして、総統の次の言葉を待った。
「組織の名は『ぴょんこの会』と名付けようと思う。」
「・・・・・・・・。」
「どうした？不服か？」
「いや、あまりにも独創的すぎて、世界制服を狙う秘密結社の名としてはあまり、受け入れられないのでは・・・・。」
総統の右手に座っていた男が総統の機嫌を損ねないようにと苦慮して言葉をつむぎ出す。
総統は、今の名前のどこが悪かったのか首を傾げつつ、部下の意見を尋ねた。
「では、他になにかいい名前はあるか？」
「・・・・・・。」
部下達もこれは！というような名前は無いようだ。少しの間、沈黙がその場を支配した。
「意見もないようだな。しかし、名前が無くてはいろいろ不便だろう。とりあえず『ぴょんこの会』としておき、後々いい名が思い付いたらそちらに変えるというのはどうであろうか？」
部下の心情を思って、総統が折衝案を出す。その言葉に部下達はうなずいた。
「うむ！では、当面、我が組織の名前は『ぴょんこの会(仮)』とする！世界を我が手に！」
「世界を我が手に！」
このようにして秘密結社『ぴょんこの会(仮)』は世界制服に向かって始動したのであった。
第１章
秘密結社『ぴょんこの会(仮)』は、世界制服を目的とした団体である。秘密結社とあるだけに、どこにも登録していないし、世間一般の人々は存在を知らない。
ここ、『ぴょんこの会(仮)』の地下アジトは、東京の、とあるぼろビルの地下室の存在している。このビルは『ぴょんこの会(仮)』の所有物である。
しかし、ぴょんこの会は地下部分しか使用していない。もちろん世界制服を狙う組織としてのポリシーという奴である。上のビル部分は、妖しげなパブやバーが入居しているらしい。
現在、地下の作戦室では、第１次計画の準備が着々と進められていた。中央には大きなスチール製の円形のデスクがあり、総統を上座に『ぴょんこの会(仮)』の幹部全員が顔を揃えている。
壁にはスクリーンが張り付けられ、ＣＧで世界地図が表示されている。とりあえず、やることもないのか、世界地図の上には各国の時刻が表示されている。
「総統、第１次計画の目標の選出が済みました。」
恰幅のいい男幹部が、手にもったファイルを総統に手渡す。汗かきらしく、よくハンカチを取り出して顔を拭く癖がある。彼の名は、そう、仮に参謀とでもしておこう。組織の資金運営から、作戦立案等を行う。
「総統の許可が頂ければすぐにでも計画を発動できますが。」
組織の唯一の女性幹部が発言する。彼女の名は・・そう仮にマイヤとでもしておこう。
彼女は、紫の鎧を身に纏っている。かなり軽そうな金属で出来てるようだ。いや、金属でないのかもしれない。いろいろな機能がついており、通信機やら隠し武器やらが満載されている。もちろん完全防弾だ。さらにいろいろなオプションが付けれるような拡張性ももっている。まさに『ぴょんこの会(仮)』の技術の粋を集めた鎧と言えよう。
そして、彼女は厚化粧してメインの武器として電磁鞭を持っている。得意技は高笑いだ。悪のヒロインはこうあるべきであるという、彼女の意見が全面的に採用された結果である。
彼女は、『ぴょんこの会(仮)』の作戦実行隊長を勤める予定である。
マイヤは、手にした書類を総統に手渡す。目を細めつつファイルを覗きこむ総統。
そのファイルには７、８人の人物のデータが書き込まれている。顔写真から判別するに、全員女性。年齢は１６〜２０くらいまでである。
「うむ。よろしい。」
「総統、１つ質問があるのですがよろしいでしょうか？」
背の高い、ひょろりとした男性幹部が発言を求めた。名前は仮にヤマトとしておこう。
「うむ。なんだね。」
「今回の作戦は誘拐でありますが、なにも危ない橋をわたらないでも。最近の女学生なんてお金を出せば簡単に釣れると、自分は思うのでありますが、いかがでありましょうか？」
そうである。第１次計画というのは、役に立ちそうな女性の誘拐、改造である。改造することによって組織の下っぱとして働いてもらおうという作戦である。誘拐対象が女性だけというのは、ただ単に趣味である。
「確かにそうかもしれん。だがな、ヤマトよ。」
総統はゆっくりと立ち上がり、背後の世界地図のＣＧを見上げる。
「それに、我が組織の世界制服を行うための人材がアルバイトでは、気迫というものに欠ける。そして、今回選出した子羊達は将来有望な人材である。彼女らには将来、隊長クラスを勤めて貰いたいと思っている。今後、組織としての行動が拡大すればアルバイトでも良かろうが、現時点では優秀な人材を強制的にでも確保出来ればそちらの方が良いと考えたのだ。」
「素晴らしい御考慮です。わたくしめの口を出すようなことではございませんでした。」
心底感服したようにヤマトが総統に対して深々と頭を下げる。
隣に座っていた男幹部が、着席したヤマトに対してなにか耳打ちをする。ヤマトよりはちょいと小柄であるが筋肉質な体格をしている。名前はそう、仮にムサシとしておこう。
「うむ。諸君！これは、我が組織最初の作戦となる。失敗するわけにはいかない。諸君の健闘を期待する。」
「よし！作戦開始時刻は、一九〇〇とする。全員時計合わせ用意。現時刻一七〇〇。・・・・３、２、１、０。」
参謀が時計合わせを指示する。それが終わると総統以外の全員が起立し、総統に対して敬礼を行った。
「世界を我が手に！」
「ヤマト、ムサシ、時間よ。第１次計画スタート！」
ムサシが目標を尾行しマイヤ達に逐一報告をする。その情報を元に待ち伏せを行う。人気のない道でヤマトがなにげなく前方より近付き、催眠ガスを吹き付ける。万一、目標が逃走を試みた場合には、マイヤが逃走経路をおさえ捕獲する。
目標が１人でいる場合は少ない。大抵友人と２人か３人づれである。このような時はまとめて誘拐する。人数は多い方がよいのだ。ただし、まきぞえを食った野郎やおばさんなどは除外する。あくまでも対象は適齢期の女性に限っている。
つまりは、一応目標を決めてはいるが無差別誘拐となんら変わりがない。
「よいしょっと。よし！次の目標だ。急げ。」
１日３組の誘拐を計画している。目標が捕捉出来なかった場合や、邪魔が入った場合などは、あきらめ撤退すると打合せてあった。
第１次作戦は順調に進んだ。４日間で１２人までの誘拐が完了した。しかし、世間にはこの連続誘拐事件についてはなにも報道されていないし、話題にもなっていない。明らかな報道管制だ。裏では警察が相当やっきになって捜査をしているようである。
しかし、証拠を残していないのと、誘拐の範囲がかなり広範囲にわたっていることで向こうも苦労しているようだ。
『ぴょんこの会(仮)』でもこうした状況は予測して臨機応変に行うことになっていた。
「そろそろ警察もうるさくなって来ました。今回が最後になると思いますわ。」
「うむ。気を付けてことを運びたまえ。何かあったときは、組織の秘密を守ること。これを最優先にしたまえ。」
「はっ！」
彼らは５日目の誘拐に向かった。
住宅街の両脇がブロック塀に囲まれた道で待ち伏せを行う。あらかじめ目標の通るルートは調査してある。目標を尾行しているムサシからも、もうすぐ目標がこちらに向かって来るとのことである。
日はとっくに暮れて、辺りは暗闇に覆われている。近くの街灯がほのかに辺りを照らしている。
誘拐は途中まではうまくいった。友達との２人づれで帰途についていた女子校生である。ところが、眠らせて、連れさろうとしたところで問題が起きた。
「おい！そこで何をしている！！」
「くっ。警察か！」
偶然、見回っていた警官の２人に見付かってしまった。マイヤは、ヤマトに目で合図すると、眠らせた連中を放りだし、一目散に逃げようと試みる。
と、そのときである！
「そこまでだ！！」
いきなり、横あいのブロック塀上から声がかかる。全員の視線が注目する中、２つの影がブロック塀の上に現れた。一人は青のユニフォームを纏い、胸と肩の辺りにぴかぴかと光輝くイルミネーションが美しい。
もう一人は、真っ赤な衣装に真っ赤なマフラー、そして何故か真っ白なマントが暑苦しい男であった。両者ともに服装と同系統の色のマスクのかぶっている。
『ぴょんこの会(仮)』の幹部と警官達がぽかーんと見つめる中、２人はブロック塀より飛び降りる。そして、びしっ！とポーズを付けると交互に名乗りを上げた。
「天呼ぶ、」
「地呼ぶ、」
「「人が呼ぶ。」」
「悪を倒せと！」
「俺を呼ぶ！」
「青の騎士！ブルーダ！」
「赤の戦士！レッダス！」
「「我ら！正義の味方カラーダイン！！祈りに答えて只今参上！！」」
自称正義の味方の２人はビシッ！とポーズを決めた。そのまま動かない。どうやら、かっこ良く決めたことで余韻に浸っているらしい。
しかし、こーゆーことは遊園地の屋上でやるからよいのであって、間違っても住宅街の真ん中でやることではない。
ヤマトは、呆然としながら、彼らのセンスの無さは総統とどちらが上だろうかと考えていた。
固まっていた幹部達と警官達であったが、真っ先に我に返ったのはマイヤであった。
素早く、ヤマトの後頭部をひっぱたき我に返らせる。そしてヤマトに先に下がれと合図を送る。ヤマトは、マイヤに１つうなずくと、暗闇に消えた。
それを見て、警官達も我に返った。銃を抜き構えた。
「待て！」
「そこを動くな！」
しかし、マイヤの行動は全員の意表をついたものであった。
「お前達！そいつらをかたづけておしまい！」
素早く２、３歩前に出て、『２人の正義の味方』に指示を出す。マイヤはそのまま、踵を返して闇に消えた。
「お、お前達もあいつらの仲間か！」
「う、動くな！動いたら撃つぞ！！」
マイヤの指示を見て、警官達は自称正義の味方を『ぴょんこの会(仮)』のメンバーと勘違いをした。銃を突き付ける。
「ひぃぃぃぃぃ。ぼ、僕達はちがいますよぉぉぉぉぉぉぉぉ！！」
「うるさい！向こうを向いて両手を壁につけ！」
「し、信じて下さいよぉぉぉぉぉぉ！！」
「お前達には、弁護士を呼ぶ権利がある。お前達には、黙秘する権利がある。(以下略)」
１人の警官が、銃を正義の味方達に銃を突きつける。もう１人はマイヤ達を追いかけるが、捕まるマイヤ達ではない。簡単に警官をまいた。
数時間後、無事警察の捜査網から逃げ出したマイヤは、総統に作戦の失敗を報告していた。
「申し訳ありません。」
「いや、仕方があるまい。もう、これ以上ことを起こすのは危険だな。よし！第１次計画はこれにて終了とする。皆に良くやってくれたと伝えてくれ。」
「総統、実はちょっと気になることがございまして。」
マイヤは、先程の正義の味方の一件を話した。
「正義の味方だと？」
「はい。少なくとも本人達はそう言っておりました。現在の所彼らは、連続誘拐の重要参考人として警察に拘留されているようです。」
「そうか。ほっておこう。また、我々の邪魔をするようならば始末すれば良い。」
「はっ！そのようにいたします。」
「で、誘拐した連中はどうしている？」
「全部で１２人。全員ピチピチの女子校生と女子大生です。現在の所、ドクターの所に運び込んであります。」
「よし。ご苦労であった。ゆっくりと休むが良い。」
「はっ！失礼します。」
部屋を出ていくマイヤを見ながら総統はつぶやいた。
総統 「正義の味方か・・・・・。」
第２章
それから１０日後。
「ドクター？こちらにおいでですか？」
ムサシは一般に研究室と呼ばれる部屋を覗いた。かなり広い部屋のはずなのだが見通しは悪い。いろいろな機材がところせましと並んでいるからである。部屋の中央で何事か調べていた白衣を着込んだ白髪のじいさんが振り向く。
彼の名はそう、仮にドクターとしておこう。彼は、『ぴょんこの会(仮)』の研究所所長である。研究所といっても所員は彼一人である。たまに人手が必要となるとムサシやヤマトが駆り出される。
自分の研究が認めなかった学会に対して復讐しようと『ぴょんこの会(仮)』に入会した。ちなみに、マイヤの鎧や鞭も彼が開発したものである。
「おお。ムサシ君か。どうした。なにか用かね。」
「はい。総統より研究の進み具合を聞いてこいとの事で。」
「今の所、８割がた完成、といったところかのう。」
ドクターは、ムサシを部屋の隅に案内した。大きなカプセルが斜めに立てかけてある。ブルーに着色された透明な窓があり、内部には人影が見える。
のぞき込んだムサシは思わず感嘆の声を漏らした。
そこには、拐われてきた女性の一人、ショートカットの可愛い子が黒のバニー服を着て静かに眠っていた。
「こ、これがあの・・・・・。」
「パワードバニースーツじゃ。」
ドクターは、ひゃっひゃっひゃという気味の悪い声で笑った。そして自慢げに喋りだした。
「すごいぞ、こいつは。これを着込む事によって、筋力は３０倍に増強されるのじゃ。内部のサーボモーターによって、時速150kmの速度で走ることもできる。」
ドクターは手近のコンピューターのキーを叩く。画面に人の３面図が浮かびあがる。
「もちろん、生身でそんなことをしたら、肉体がばらばらになってしまうからのぅ。彼女達には生体改造を行ったのじゃ。このことによってパワードバニースーツの性能を１００％引き出すことが出来るぞぇ。」
ドクターは、マウスでアイコンをクリックした。
「オプションのバックパックによって、空を飛ぶ事が可能じゃ。滞空時間は時速１００Km程度で約１５分。もっとも速度を上げれば、もっと時間は短くなってしまうがのう。」
画面には、新たにウィンドウが開き、バックパックとおぼしきメカが表示される。
「パワードバニースーツは、対弾装甲になっておる。４４口径なんぞ豆鉄砲のようなもんじゃぞ。」
ドクターがマウスを動かすと画面には新たなメカが浮かびあがる。
「お尻の尻尾の中には電磁バリアー装置が仕込まれておる。これは、わずか数秒の時間じゃが全方位に電磁バリアーを張りめぐらすことが可能じゃ。１２０mm滑空砲でも受け止められるぞぃ。」
ムサシは、カプセル中のバニーをじっくりと眺める。いい光景である。つくづく男に生まれてよかったと幸せを噛みしめてしまうムサシであった。
「兎の耳には、超高性能通信機を含んでおるからな。いつでもどこでも、たとえ地下鉄みたいなところにいても連絡をとることが可能じゃ。」
こんな研究をやっていれば、学会から追い出されて当然である。
「とりあえず、生体改造の方は肌の対弾コーディングと筋力の強化、そして命令服従くらいじゃがのぅ。そのうち火を吹けるようにするとか、目からレーザーを放てるようにしようかと考えておる。」
思わず苦笑いしてしまうムサシであった。
「おお、そうじゃった。一人程、腕に先天的な異常をもった子がいてのぉ。本人も希望したから腕を義手に取り換えたぞぇ。」
カプセル内の兎から目をはなさずにムサシが尋ねる。
「で、先程８割の完成度とおっしゃいましたが、一体どの機能が完成していないのでしょうか？」
ムサシの内心では、カプセルを開けてじかに触ってみたいという欲求と良心が戦っていた。ちなみにちょっとばかり欲求の方が優勢である。
「うむ。それなんじゃが。ちょっとこちらに来てくれんかのう。」
ドクターは隣の部屋に歩いて行った。ムサシは名残惜しそうにカプセルの前から離れた。時々未練がましくカプセルを振り返る。
「おお。こ、これは・・・。」
「ひひひ。どうじゃ。すばらしいじゃろう。」
研究室の隣の部屋には、カラフルなパワードバニースーツが１１着、マネキンに着せられて置いてあった。１着着せられていないマネキンが置いてあるが、これは先程の兎が着ているものであろう。
「問題は色なんじゃ。４人程、似合った色のパワードバニースーツがあったのじゃが、他の子はのう。なかなか似合う色が無くてこまっとるんじゃ。どうじゃな、選んでみてくれんかのぅ。」
ドクターは近くの机から色のサンプルと、誘拐した人達の資料を取り出して来た。
「う〜ん。この子なんかこの淡いピンクが似合うんじゃないですかね。」
「わしゃ、こっちの濃いグリーンの方がいいと思うぞ。」
「いや、それはこっちの子でしょう。」
真面目な打ち合わせの結果、さらに４人の服の色が決定された。
ふと、ムサシは任務を思い出した。
「あの〜。そうすると、ドクター。先程説明して頂いた機能というのは完成しているのでしょうか？」
「うん？とっくの昔に完成しとるよ。」
「では、いつでも出撃出来る？」
「うむ。」
「では、この１０日ばかり一体何をなさっていたのですか？」
「決っとるじゃないか。バニースーツの色を選んでいたのだ。」
「はぁ。」
ムサシは、もう一度カプセルのバニーをじっくりと覗いてから、総統に報告しに出かけた。
「では、もう、スーツは全員分完成しておるのだな。」
「ドクターの話によるとそのようでした。」
「そうか！では、第２次計画を発動する！！全員を作戦室に集めろ！」
「はっ！」
ドクターを除いた全員が作戦室に集まった。まずは参謀が口を開いた。
「諸君、今回の作戦は資金調達である。ちょっと邪道な作戦かも知れないが、今回得ることの出来た資金で新たな作戦を起こすことが出来る。気合いを入れて作戦に望んで欲しい。」
第２作戦は、前回誘拐した女性達の身の代金の強奪である。身の代金を要求する所は４ヶ所。誘拐に成功した家の中で裕福な家を狙っている。
作戦はいたって簡単である。身の代金を要求して受け取るだけである。当然警察が現場で張り込んでいる可能性が高いが、パワードバニーの敵ではない。
バニー隊は３人づつ４組にわけられ、全員同時に身の代金を受け取りに行動を行う。警察の目を分散させるのが目的である。
そして、マイヤ達幹部は、それぞれ中継点で待機、金と発信機等のチェック、そしてバニーの輸送を行う。
数日に渡って実戦を想定した訓練が行われた。同時にパワードバニースーツの性能チェックが行われる。
訓練を指揮していたヤマトは、バニーの網タイツから、顔を赤らめながら視線を外した。
「あ〜。目に毒だ。」
隣ではムサシが食い入るようにバニー達の動きを見つめている。もちろん動作のチェックを完璧にするがためである。決して、自分の欲望のためではない。全くない。絶対に無い。
そして、いよいよ作戦当日がきた。身の代金の要求はすでに郵送してある。
情報によると警察も活動が活発になっているようだ。あっちこっちから応援をかき集めて大捜査網を張りめぐらせている様子である。
『ぴょんこの会(仮)』は、バニーも含めて全員作戦室に集まった。その前で総統が演説を行った。
「諸君！この作戦は以後の我が組織が自由に活動できるかどうかの重要な役割を果たす作戦である。諸君の健闘を祈る。」
「では、本日、二〇〇〇時に行動を開始する。」
「世界を我が手に！」
行動開始である。各バニーは、金の受渡し地点に向かった。
ある３人のバニーが、担当した所は、とある大きな公園の内部であった。受渡し地点から離れた所の木にのぼり、暗視機能付き双眼鏡で受渡し地点の周りをチェックする。
「いよいよね。あたいはこーゆー刺激を求めていたんだぜ。」
「あなたねぇ。遊びに来たんじゃないのよ。」
「しくしく。お母様、私は悪の手先になり果ててしまいました。」
興奮するバニー。彼女を乱暴バニーと呼ぶことにしよう。
双眼鏡で周囲のチェックのバニー。彼女は冷静バニーと呼ぼう。
そして、お月様に懺悔をしているバニー。彼女は不幸バニーだ。
彼ら３人は自分達の身の代金を取りにいくってのに、あまり動揺は無いようだ。
目標の周りには不審な人影が多いようだ。おそらく私服の警官であろう。
しかし、もっとも不審な人影と言えば、こんなところでバニーガールの恰好をしている彼女らに違いない。
通りがかったアベックが彼女らに奇異の視線を向ける。中には彼女らに卑猥な言葉をかけていく輩もいる。無視して淡々と偵察を続ける冷静バニー、睨み返す乱暴バニー、もじもじと恥ずかしそうにする不幸バニーと、反応もさまざまだ。
よく、警察の不審尋問にひかからなかったものである。
やがて、ウサ耳通信機からマイヤの指令が聞こえる。
「各自、状況を確認しつつ行動開始せよ！」
３人のバニーは、要求通りに公園の街灯のしたで赤いハンカチを胸に差しているおっさんに歩いて近付く。おっさんは、不安そうに鞄を抱えてきょろきょろしている。
「あれ、私のお父さんだ。」
不幸バニーが、ぼそりという。別に動揺しているわけではないが。残りのバニー達もその言葉にはとくには反応しない。
やがて、バニー達の接近に気づいたおっさんはけげんな表情になる。当然だ。まさか、金の受け取りに来たとは思わなかったらしい。
さらに、その周りでは、明らかに不自然な動きをする男達がいる。私服の警官だろう。さりげなく退路を塞いでいる。
冷静バニーは、辺りの行動などは一切気にせずに、男に近付き無理矢理鞄をもぎ取った。
それを見て、私服の警官達が一斉にバニー達の行動を拘束しようと飛びかかって来た。
バニーＡは、待ってましたとばかりに飛びかかって来た不幸な警官の胸ぐらをひっつかむ。そして、ぶんっ！と振り回した。それに２人の警官がまきぞえをくらって地面に叩きつけられる。
バニーＢは、混戦を避けて身の代金の入った鞄を抱えながら、軽く２メートル程、空に飛び上がる。したには右往左往する警官達がいる。
不幸バニーは、きゃぁきゃぁと悲鳴を上げながら、近寄って来る警官を弾き飛ばしている。なんだかんだと一番警官に被害を与えたのは彼女である。
その時、身の代金を持っていたおっさんが声をあげる。
「お、お前、アキコ！？」
不幸バニーは、その声を聞くとにっこりと微笑んだ。そして手に持っていた警官をぶんっと投げ飛ばす。
同時に冷静バニーが声を上げる。
「引き上げるわよ。」
「おう！」
「ああ、こんな犯罪行為に手を貸すなんて。私って不幸。」
不幸バニーは、おっさんを一切無視して、もう振り返りもしなかった。
そのときである！いきなり横あいから声がかかった！！
「待てぃ！」
「そこまでだ！」
赤と青のイルミネーションに彩られた２人が登場した。
絶妙のタイミングで正義の味方の登場である。彼らはビシッ！と構えると前回の出現パターンと同じように口上を述べようとポーズを取った。
「天呼ぶ！」
「地呼ぶ！」
前回のマイヤ達とは違い、乱暴バニーは気が短かった。
「やかましい！」
乱暴バニーが、倒れ伏している不幸な警官をひっつかんで正義の味方連中に投げつける。ポーズを取っていた正義の味方は呆気無く地面に叩き付けられた。
「ぅぅ。ま、まだまだ・・・・・・。」
「しっかり・・・・し・・ろ・・・。き、傷は・・・浅い・・・ぞ・・。」
正義の味方連中は、うわごとをいいながらもがいている。
「いきましょう。」
冷静バニーが言うと、彼女達は高くジャンプした。そのまま、背中に背負った小さな空中機動用バックパックのスイッチを入れる。小型のバックパックは軽い噴射音とともにバニー達の小柄な身体を空中に舞わせる。
バニー達はそのまま空を飛んで、中継点に向かう。警察は、道路封鎖などの対策を取っていたのだが、いかんせん空を飛ぶものを追いかける能力は無い。各バニー達は悠々と逃げおおせた。
そして、３０分後。マイヤは総統に作戦の終了の報告をしていた。
「以上です。強奪した資金は全て本物でした。これらの資金は今後重要な役割を果たすでしょう。」
「そうか。よくやってくれた・・・・・・・。」
「あの正義の味方達をお気になさっておられるのですか？」
「うむ。今回の出現から見て彼らは警察と手を結んだのではないかと思ってな。ちと気になる。」
「いかがいたしましょうか。」
「・・・・・まぁ、しばらくは様子を見よう。」
「かしこりました。とりあえず情報だけは集めておきます。」
「うむ。よろしく頼む。ご苦労であった。バニー達にもゆっくりと休むように伝えてくれ。」
「はっ！失礼します。」
マイヤの去って行く姿を見ながら総統はつぶやいた。
「正義の味方か。私の脅威となるのか・・・・・・？」
第３章
ここは、警視庁庁舎のかなり高い位置の部屋である。広い部屋に大きな机、本棚が整然とならぶ。広い窓には、ブラインドがかかってる。そして、ここには２人の人間がいた。
１人は、警部補の徽章を付け、１人は女性、婦人警官の様だ。
「君は、これより警視庁第１特別機動隊特別編成チームに所属してもらう。」
「はっ！」
警部補は、手に持った辞令と思しき書類を婦人警官に手渡した。
辞令を受け取っている婦人警官の名はそう、仮にジュンコとでもしておこう。彼女は、昔からの夢だった婦人警官になって、 １年。やっと仕事に慣れた頃である。
ジュンコは、辞令を受け取ったものの明らかにけげんそうな顔つきである。今回の配置転換の話もいきなりであった。おまけに配属先が聞いたことのない部署である。けげんに思うのも当然だろう。
「・・・・・・・・・・・あのぅ。」
「なんだね。」
「差し支えなければお聞きしたいのですが。この機動隊特別編成チームというのはどのようなところなんでしょうか？私は体力と格闘技は自信がありますが、機動隊の任務をこなせるほどではないのですが・・・・・。」
「そうだな、すぐにわかるだろうが、一応私の口から言っておいた方がいいかもしれん。」
警部補は窓の所まで歩いていき、ブラインドの紐ぐいっと引っ張る。ブラインドが角度を変え、東京の街並が一望の元に広がる。
「君は、東京の治安と正義を護るために警察官になったんだったね。」
「はい。そうです。昔からの夢だった・・・です。」
「その、なんだ。君は正義の味方に憧れていたことはあるかね。」
「はあ？」
ジュンコは我ながらなんて情けない声を出すんだと思ってしまった。警部補の口から正義の味方なんて言葉が出て来るとは思っても見なかったのだ。
「実はだな、君の今度配属になった部署は、・・その、あの・・・・なんだな。つまり、正義の味方の部門・・・なのだよ。」
警部補は、赤い顔をしながらつっかえつっかえ言葉を吐き出した。
「はい？」
「つまり、正義の味方のための部署なのだ。詳細は私もよくは知らない。新設されたばかりの所だし、運営は内部に任されているようだからな。まぁ、後のことは、向こうで聞きたまえ。」
こう言われてしまえば退出するしかない。ちょっと不安になった彼女は、そのままの足で新しい部署を訪れた。
新しい部署は、警視庁のかなり奥まった一室に存在した。どうやら、倉庫を改造した場所のようである。
ジュンコは、ちょっとためらったが意を決してドアをノックした。
ちょっとごそごそとしていたが、ドアが開く。男が顔を出した。
中肉中背で、ちょいとハンサムと言ってもいいかな、ってな感じの男である。
ただ、不健康そうな肌の色をしているのがマイナスねというジュンコの第一印象であった。
ジュンコは、敬礼をした。
「私、本日を持ちまして、こちらに配属になったジュンコという・・・・・・。」
配属の挨拶をしようとしたジュンコであったが、男の着ている服を見て言葉を失った。
青い服装にきらきら光輝くイルミネーション。そう、男は、マスクこそかぶっていなかったが、あの自称正義の味方ブルーダであった。
「ああ、新しく来た方ですね。お話しは聞いています。ささ、どうぞどうぞ。」
彼は、ジュンコを部屋に招きいれた。テーブルが１つだけ置いてあるだけの殺風景な部屋の中には、もう一人、赤い服をきた男がいた。
小柄でがっちりとした体格。強い意志を表現しているような太い眉。２つに割れたあご。そう、当然のことながらレッダスである。
「レッダス。新しい方がお見えになったぞ。」
「おお。そうか。あなたが我々の新しい仲間になってくれる方ですか。よろしく！」
レッダスが、立ち上がって野太い声で挨拶をする。
「はぁ。」
ジュンコは、ブルーダとレッダスの服装を見て、目点状態である。
「さてと。・・・ええとジュンコさんでしたね。たった今から、あなたは私達の仲間です。仲良くやりましょう。」
「はい・・・。」
「ジュンコさんにもコードネームを付ける必要があるな。ちなみに俺は『赤の戦士レッダス』という名前だ。。こっちは、『青の騎士ブルーダ』という名前が付いている。あなたには、『黄色の魔女イエロダス』という名を考えてあるのだがどう思う？」
ジュンコは、呆然としたまま、思わずうなずいてしまった。
「そうか。気に入ってくれたか。」
レッダスは心底うれしそうな顔をした。
「では、ジュンコさ・・・じゃなくて、イエロダスに、我々の目的を説明しましょうか。」
ブルーダの説明を聞き流しながら、ジュンコはとんでもない所に来たと思って頭が痛かった。これからどれだけの間この連中とつき合って行かないといけないのだろう！
ところ変わって『ぴょんこの会(仮)』の秘密基地、総統の執務室では。
「次の作戦はどうなっておるのだ？」
「資金が潤沢にあるので、日本を揺るがす陰謀を考えておりますがなかなか素晴らしい陰謀というものが考え付かなくて困っております。総統もなにかご意見はございませんか？」
汗をかきかき、参謀が発言する。
「そうだな。国会に金をばらまいて政治を裏からあやつるとか。」
「おそれながら、現時点ですでに国会は金漬けになっており、これから新規参入となりますと、今回得た金だけでは到底足りません。後５０倍は必要ですな。」
「日本の未来は暗いな。・・・・そうだ。では、備蓄してある原油を燃やすぞと日本政府を脅したらよいのではないだろうか。」
「しかし、現在、原油は供給量がダブついてのであまり大騒ぎには発展しないと予測されます。」
「オイルショックにはならんか。」
「なりません。」
「そうだな・・・・では、核ミサイルの強奪というのはどうだ？」
「日本には核はありませんからな。米国からということになるでしょうが。下手をすれば戦争になります。そうなれば我々ものんびりと出来ません。アメリカを制服したあと、戦争を仕掛けるのはよろしいでしょうが、日本で行うのはダメですな。」
「むむむ。」
正義の味方な人達は、『正義の味方出現ポーズ』の練習の真最中であった。
「ええと。『黄色の魔女イエロダス！！』」
「「「我ら、正義の味方カラーダイン！！祈りに答えて只今参上！！」」」
ジュンコのセリフは半秒遅れた。
「だめだ！もう一回！」
そのとき、部屋に備え付けの電話が鳴った。レッダスが受話器を取り、何事か話をしている。
「はい。そうですか。わかった。では、すぐに向かいますので。」
「どうした？事件か？」
「いや、我々の装備が出来たので取りに来てくれとさ。」
目を輝かせて聞くブルーダに受話器を置いたレッダスは答えた。そしてぽかんとしているジュンコに説明した。
「警察の装備開発部に我々の装備を開発してくれるように頼んだんだ。それが出来たからこれから取りにいこうと。君の制服も一緒に出来ているはずだ。」
「行こう行こう。」
ブルーダとレッダスは、正義の味方スーツ(？)のまま廊下に出ようとする。
「あのぅ。そ、そのままの姿で出かけるんですか？」
「うん？そうだ。これが我々の制服だ。」
「目立ちすぎるのではないでしょうか・・・・・・・・・・・。正義の味方は常に正体を隠して行動をするものでしょう。これでは、私達が正義の味方であることが一般に知れ渡ってしまい、いざという時の行動がとれにくくなるでしょう。ですから、普段は私達は、一般人と同じ服装をしている方が良いと思うのですが。」
必死に説得するジュンコ。彼女は雄弁なたちではないが、この時ばかりは台詞がすらすらと口からでた。
こんな恰好の人達と一緒に歩きたくはない。ましてや、以前の部署の同僚に、こんなのと一緒に歩いている姿を見られたら・・・。もし、自分の制服が出来てその姿で街を偵察するようにでもなったら、後は自殺を考えるしかなくなるかもしれない。
彼女の必死の説得に、レッダスとブルーダは顔を見合わせた。
「むぅ。考えたこともなかった。」
「確かに。一理ある。」
ぼそぼそと相談する２人。やがて、２人はジュンコを振り向いた。
「今回はイエロダスの意見を採用することにした。」
「この組織は出来たばかりだ。臨機応変に行かないとな。ちょっと着替えるから外に出ていてくれないか。」
部屋の外に出て待つジュンコ。やがて、どうにか普通人に見える恰好をして出て来た２人と一緒に、警察庁装備開発部へと向かった。
開発部では、白衣を着た年配のおっさんが出迎えてくれた。髭をはやした紳士然とした感じである。名前は、仮に教授とでも呼ぼうか。
「おお。よく来たな。ま、入り給え。」
教授は、訪れた３人を開発室に招き入れた。部屋というより工場と言った感じの広いところである。細かく敷居わけがしてあり、中では教授と同じ白衣姿の人達が、忙しげに打合せをしたりとか、何かを作成している。遠くの方で響く銃声は銃器のテストだろうか。
教授は、部屋の奥へと進んだ。そして、奥まった所の敷居へとたどり着いた。
そこに数人の白衣姿の技術者達が打合せをしていた。教授が近付くと彼らは立ち上がった。
「紹介しよう。この人達が今回、君達のスーツの開発したスタッフだ。こちらは、スーツの装着者達だよ。」
教授が両方に紹介をする。技術者連中が順繰りに自己紹介をする。カラーダイン達も自己紹介をした。
「青の騎士、ブルーダといいます。よろしくお願いします！」
「赤の戦士、レッダスだ。よろしく！」
「ジュ・・・じゃなくて、・・キ、黄色の魔女、イ、イエロダスといいます。よろしくお願いします。」
顔を赤らめながら自己紹介するジュンコ。
「ところで教授。私達のスーツが出来たと聞いたのですが。」
「うむ。・・君、持って来てくれ給え」
技術者が数人で、スーツを運んで来た。青と赤と黄色のスーツである。はっきり言ってブルーダ達が今まで着ていたスーツよりも数段かっこいい。デザイナーのセンスは、さすがである。
手触りはエナメル質な布のような感じである。が、数段厚く何層も重ねられているらしい。３人ともデザインは違うが、肩から胸にかけてプロテクターのような飾りが覆っている。腰には太いベルトがあり、ホルスターとかがいろいろ付いている。
ジュンコは、こんなの着て動けるのかしらんと思った。
「ここにあるファスナーで脱着が出来ます。更衣室はあちらです。」
ジュンコは指し示された更衣室の一つに入った。女性の研究員の１人が着付けを手伝ってくれるという。
ジュンコは、いままで着ていた婦人警官の制服を脱いで下着の上からスーツを着てみる。外見は結構重そうに見えるが、実際に着てみるとあまり重いという気はしない。素材は思ったより柔らかく行動を阻害することはなさそうだ。
サイズは、ぴったりと合った。きっと健康診断のデータを参考にしたに違いない。
女性研究員が外から、ファスナーを閉じ、身体のロックをしていく。説明を受けながら１０分程かけて着付けが完了した。
ジュンコは鏡に移った自分を見てみる。かっこいいのはいいのだが、この恰好で街中を歩くのは気がひける。配置転換を希望しようかしらんと心の中で思う。
用意されていたマスクを付けてみる。密閉式のヘルメットといった感じである。表から見てみると、覗き窓と思しき部分が見当たらないが、かぶってみると視野はかなり広い。
鏡に向かって、先程習ったポーズを取ってみる。なんとなく正義の味方をやっているという実感が湧いて来た。はまりそうで恐い。
横で研究員がくすくすと笑う。ジュンコは、思わずマスクのしたで顔を赤らめた。
そのままの恰好で更衣室から出ると、開発スタッフ達が拍手で向かえてくれた。ちなみにブルーダとレッダスはまだ更衣室の中にいるらしい。自分の姿を鏡に映し出して感涙にむせているのだろう。
「どうかね。着心地は。」
「いいですね。さすがにヘルメットはちょっと重いですが。」
「通信機能、その他諸々がつまっておるからな。これでもだいぶ軽量化をしたのだが。」
「はぁ。」
そのとき、ブルーダとレッダスが更衣室から出てきた。２人ともマスクで顔が見えないが、おそらくイッテしまっているのだろう。足元がおぼつかない。
「では、機能の説明をしよう。まず、表面だがアラミド繊維の更に強化したものを編み込んで、完璧な対弾を実現しておる。４４口径を至近距離から撃れても貫通することは無いはずだ。最新の衝撃吸収パットでほとんどの衝撃を吸収できる。
実際に実験したわけではないが37mm対戦車ライフルでも受け止められる強度はもっとるぞ。もっとも中の人間はどうなるか、わからんがな。
断熱効果も抜群だ。少々の時間ならば火災の現場だろうがうろつける。−３０度の冷蔵庫だって平気だ。そして、腕の中には筋力増幅装置が仕込んである。ちょっと腰の青のスイッチを押してみてくれんか。」
ジュンコは言われた通りにベルトに付いている右側の青のボタンを押した。と、急に腕の動きが重くなる。腕を動かすたびにウィンウィンと音がする。
と、技術者の一人がガラスのコップを差し出した。何気なく受け取るジュンコ。
さしたる力を込めたつもりも無いのにいきなりコップは粉々に砕け散った。驚いて思わずへろへろと踊ってしまうジュンコ。笑う開発スタッフ一同。
「どうかね。これは筋力増幅装置といって腕の力を１０倍近くに強化するものだ。感じる通り、動きはかなり遅くなってしまうから、土木作業など力のいるところで使用し給え。バッテリー駆動なので長時間の使用は出来ない。まぁ、１０分が精一杯だな。」
「武装は付いていないのですか？」
「正義のヒーローは素手で戦うものなのだ・・・・・・とも言ってられんからな。とりあえずこんなものが出来ておる。」
教授は、右手の棚から銃の形をした妖しげな代物を引っ張り出した。
「電子光線銃だ。見たまえ。」
教授はいきなり隣の机に狙いを定めた。慌てる開発スタッフ一同。
「きょ、教授！そーゆーことは射撃場で・・・・」
平然とした顔で教授は電子光線銃の引金をひいた。ビビビビといった感じで光線が飛び出し、机の上においてあったマグカップを直撃、粉砕した。
「またやっちゃったよ。この人は・・・・。」
「と、いうわけだ。どうかね。」
「す、素晴らしいですわね。」
ジュンコは、引きつりまくった声で答える。マスクで隠された顔も相当に引きつってるはずだ。
「そうだろう。そうだろう。はっはっは。この他にも電磁剣や炸裂弾などというものも開発中だ。」
「ははは、ははは、あははははは。」
「くくく。これでドクターに一泡吹かせることができるわ！はっはっは！」
「ドクター？」
ジュンコは、ちょっとけげんに思い着付けを手伝ってくれた女性研究員にこっそり尋ねる。
「ねぇ。ドクターって誰？」
「教授の大学時代のライバルらしいですよ。向こうの方が頭が良かったらしいですけれど。今は行方不明らしいけれどねぇ。何かあるたびにドクター、ドクターってうるさいのよ、うちの教授は。」
「はぁ。」
その頃『ぴょんこの会(仮)』の秘密基地では。
「では、大企業のビルを爆破するというのでどうだ。」
「恐れながら、それでは普通のテロリストとなんら変わりがありません。あのような小心者達と我々が同じ連中だと思われるのは非常に心外です。」
「むむむ。世の中に悪と呼ばれる行為は数多いが、いざ実行するとなると選択にこんなに苦労するとは。困ったものだ。」
「確かにそうでございますな。」
「参謀、早く作戦を考え付くのだ。資金が潤沢とはいえ、こういつまでも膠着状態に陥っているわけにもいかん。早急に作戦を立てい！」
「はっ！全力を尽くします！」
警視庁の地下にある柔格闘技場である。広い畳の部屋で練習用の人形を相手にしている３人がいた。
「ブルーダ・ハリケーンクラッシュ！」
「レッダス・トライアングルアタック！」
正義の味方の人達は、スーツに慣れるための訓練の最中である。
スーツのおかげで防御力は著しく上がったが、代りに速度が犠牲になっている。おまけに力の増幅はしないので、戦闘力は個人の力量によって大きく差が出る。
ブルーダとレッダスの技の名前はかっこいいのだが、いかんせん実力が全然ついてきていない。見ていてもひどいものである。
ジュンコは、中学のころから剣道をやっており３段の腕前である。空手をかじったこともある。今回正義の味方候補として選ばれたのは、格闘技経験によるものが大きかったんだろうなぁ、とジュンコは人形を前にして天を仰ぐ。
「まぁ、いつまでも落ち込んでられないか。出来る範囲でやるしか。」
スーツを着込んで空手の型を一通り試してみる。銃弾程度は平気だそうだから捨て身で突っ込めば、何とかなるだろう。拳の部分はかなり固い金属で出来てる。生身の人間ならば簡単に昏倒させることが出来そうである。
ジュンコは、踊っているとしか見えないブルーダ達を横目で見ながらため息をついた。
「やっぱり・・・・・・押しつけられたのよね。」
ヘルメットの通信機より通信が入る。
「イエロダス、調子はどうだ？」
「どうだ！俺の技はかっこいいだろう！」
「・・・・。」
「よぉし！日本の平和は俺達が守るぞ！」
「おー！」
「・・・しくしくしくしく。」
＜第１部完＞
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次回予告
「総統。次の作戦が決定しました！」
「そうか！待ちわびたぞ！」
ＴＶ局に『ぴょんこの会(仮)』の魔の手が迫る！
「きゃぁきゃぁ。サイン頂戴！」
「きゃぁきゃぁ。母さん、見てる？(^^)v」
「ふん！やってらんないわ。・・煙草煙草っと。ぷはーっ。かぁー。仕事中に飲む煙草はうまいねぇ。」
新スーツをひっ下げて、カラーダインが『ぴょんこの会(仮)』に挑む！
「そこまでよ！これ以上あなた達の好きにはさせないわ！」
「そ、それは俺のセリフ・・・・。」
激しく繰り広げられるバトル！
「ほーほっほっほっほっほっほっほ。」
「これでもくらえ！」
「あ〜〜〜ん。尻尾がこわれてしまいましたぁ〜。(T_T)」
「まぁ、そんなことなさって怪我でもしたらどうするのですか？」
「あん！そ・ん・な・と・こ・さわっちゃ・ダ・メ。」
そして、友情。
「おい！ブルーダしっかりしろ！」
「だ、だめだ・・・お、俺に構わずに・・・・。」
「なに馬鹿なことを言っているんだ！」
愛と勇気と真実の
「秘密結社『ぴょんこの会(仮)』第２部」
Sight!
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