秘密結社『ぴょんこの会（仮）』第２部
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第４章
ここは、『ぴょんこの会(仮)』秘密基地、総統の執務室である。やわらかな間接照明が広い部屋を薄暗く照らす。
大きな机に向かって腰かけているのは、『ぴょんこの会(仮)』総統である。ここで、膝に猫でものせて優しくなでて上げたりなんかしていると、悪の秘密結社の大ボスらしい雰囲気が出てよいのだが、残念ながら総統にはそのような趣味はない。
手持ちぶさたに、ぼぉ〜っとしている総統の耳に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「うむ、入り給え。」
失礼しますと、言いつつ入って来たのは参謀であった。
「総統。次の作戦の計画書が出来上がりました。承認をお願いします。」
今まで、無気力な感じを漂わせていた総統は、その言葉を聞いて急に生気を取り戻した。
総統 「そうか！待ちわびたぞ！」
参謀の提出した計画書をひったくるようにして、内容に目を通す。
「なるほど、２段構えか。まずは、ＴＶ局と・・・・・。」
ぶつぶついいながらページをめくる。やがて、読み終わった総統は、大きくうなずいた。
「よろしい！早速準備にとりかかりたまえ。」
「はっ！」
幹部が作戦室に招集されている。総統、参謀、マイヤ、ヤマト、ムサシ、そして珍しくドクターもその場にいた。
「諸君らも、もう知っていると思うが次の作戦が決定した。ここで、あたらめて説明をしようと思う。」
参謀は、手もとの資料をめくった。
「次の作戦は洗脳作戦である。これにより、『ぴょんこの会(仮)』の名を世間に広く知らしめ、かつ我々に従順な人間を数多く仲間に率いれる作戦である。」
配った資料と、壁面の大パネルディスプレイに映しだされたＣＧ画面により作戦の説明を行う参謀。みごとなプレゼンテーションである。普通の会社の企画部に所属しても立派にやっていけるであろう。
「洗脳は、テレビの電波で行う。今回はとりあえず首都圏だけであるが。洗脳装置はドクターに作成してもらってある。では、ドクター、説明をお願いします。」
ドクターが立ち上がって、装置についての説明を行う。実物は大きすぎて持ってこれなかったのが残念そうである。
ムサシはちょっと嫌な顔をした。毎日のようにドクターの装置の説明につき合わされて、飽き飽きとしているのである。早くも聞き流す体制だ。
「洗脳装置じゃが、こいつは人間に対して強力な暗示をかけるのじゃ。これをかけられた人間は、我々の命令に対しては絶対服従となる。・・まぁ、バニー達にかけとる命令服従機能の無差別広範囲版、という感じかのう。」
ドクターは、ＣＧで摸式図をしめした。東京タワー、そして各家庭の図が書かれている。
「・・・・・さて、暗示をかける要素じゃが、こいつはテレビの電波を出力する。こいつの電波を受信したテレビの画面を１５分以上見続けると、洗脳は成功じゃ。まぁ、最初の１画面でも見れば目が吸い寄せられるようにして最後まで見続けてくれるじゃろて。」
話が技術的な部分まで延々と続きそうだったので、参謀がドクターを制止した。非常に残念そうな顔付きで椅子に座るドクター。話を続ける参謀。
「問題点としては、ただ洗脳しても無意味なことだ。命令に服従させるためには、誰の命令を聞くようにしなくてはならないかを知らせなくてはならない。つまり、我々の命令だけを聞くようにするためには、我々の存在を教えてやらねばならないということだ。」
そこで・・・と、言いつつ、参謀はキーをたたいてＣＧを差し替えた。
「先にＴＶ局を襲撃する。ここでバニー達により『ぴょんこの会(仮)』の宣伝活動を行うのだ。出来れば、ニュース等になり、我々の存在を知らぬものはいないようになると非常によい。」
ＴＶと聞いてマイヤの顔がパッと輝く。
ふっと、ムサシが手を上げた。
「あのぅ。質問なんですが。なぜＴＶ局なんです？大きな騒ぎを起こして、犯行声明を出して我々の存在をアピールするのもよいのでは？」
「我々が行った、第１次作戦。つまりバニー誘拐計画だが、あの作戦の犯行声明がどれだけ出されたか知っているか？」
「は？」
「公式に、警視庁等に送りつけられた犯行声明６件。非公式にビラ等での犯行声明は１１件。便乗誘拐または脅迫事件２８件。・・・。このような状況で、我々が犯行声明を出したところでニュースにもならないことが予測できる。」
「日本の未来は暗いですね。」
「そこで、不特定多数の人間が見ているＴＶ番組に直接乗り込み我々の存在を世間に知らしめるのだ。」
うんうんっと、マイヤがうなずく。
「それが終わり、我々の知名度があがったところで、次は洗脳を行う。東京タワーを占拠し、ここより洗脳画面を流す。これによって東京の街を我々が支配できるというわけだ。」
さらにここで、ヤマトが質問を発した。
「流しっぱなしでしょうか？」
「警察がうるさいであろうから、１時間が活動の限界であろうな。この１時間の間にどれだけの人間を洗脳できるかが勝負だ。」
「装置をすえっぱなしにして、こちらは撤退したらいかがですか？」
「装置が警察に渡って、洗脳が解除されるようになったらどうするね。」
「・・・・・ううむ。」
その後、こまごまとした作戦計画が練られた。
「他に質問はないかな。」
「よし。諸君！この作戦が成功すれば、我々は首都圏を押えることが可能である。そうなれば、日本全土を制服するのも時間の問題である。諸君らの働きに期待する。」
「世界を我が手に！！」
洗脳作戦、第１段階ＴＶ局襲撃の計画が公表された。ＴＶ局と聞いてバニー達は大はしゃぎである。
ブリーフィングルームは、黄色い喚声で埋め尽くされた。
「ＴＶよ！ＴＶ！ああああああああ、一度でいいから出てみたかったんだぁ。」
「きゃぁきゃぁ。俳優がいたらサインもらわなくっちゃぁ。色紙いっぱい買い込んでこよっと。」
「このわたくしの脚線美が全国に放映されるのね。う〜ん特別にこの豊富な胸を見せてあげましょうかしら。」
「警察がおそらく動くでしょう。気をつけないといけないわね。」
「警察の連中？その時はアタイが１人でかたつけてあげるよ。」
「テレビ？どうしましょう。どうしましょう。（おろおろ）」
「おろおろしながら化粧をするな！！」
「ああ、この悪に染まった私の姿が全国に放映されるなんて。私はなんて不幸なんでしょう。」
「ぞくぞくするわ〜。」
そんな騒ぎに関係ない連中もいる。
例えば、隅の方で煙草を吹かしている不良バニー。
「けっ。やってらんねーよ。」
場違いにヤンキー座りをしている。バニースーツでそのような恰好をすると、非常に色っぽく、とてもよい。
その隣では、白い大理石のテーブルで、優雅に紅茶を飲んでいるお嬢バニー。ちょっと垂れ目気味のおっとりとした感じのバニーだ。
「この程度の紅茶しかないなんて。すこし悲しいですわね。マイヤ様に、もっといいお茶の葉を購入なさるように頼んでみましょうかしら。」
優雅にお茶を口に含む。
そんなお嬢バニーを白い目で見る不良バニー。うっとうしさを振り払うように、煙草をぷかぷかと吹かした。
「ちょっと不良バニーさん。煙草をそんなに吹かすのはやめていただけません？お茶の味が損なわれますわ。」
「ふん！アタイの勝手だろう！」
大はしゃぎのバニー連中を嬉しそうに微笑みながら見ている義手バニー。小柄で内気そうな感じである。彼女の左腕は、見ためにはほとんどわからないが、義手である。生まれつき欠陥があり、ドクターに頼んで機械の腕につけかえてもらったのだ。
左腕がスムーズに動くことが非常に嬉しいらしく、よく一人で左腕を動かして喜んでいる。
こんな大騒ぎのブリーフィングルームにマイヤとムサシがやってきた。部屋に入るなり思わず耳を塞ぐ二人。
「静かに！！！」
マイヤが一喝する。一瞬でブリーフィングルームに静寂が戻った。
バニー達を見回すムサシ。が、途中でその目が１点に静止した。もちろんヤンキー座りをしている不良バニーの所で、である。
「こほん。みんな作戦内容および任務は把握出来たわね。では、各人の配置と任務内容を説明するわ。まず気弱バニーと義手バニー。」
「「はい。」」
「お前達は、後方支援だ。退路の確保と本部との連絡係となる。次、４人。お前達は、会場内の警備と人質の確保だ。」
「は〜〜〜〜い。」
「わかりました。」
「はい、かしこまりました。お姉様☆」
手を打ち合わせて喜ぶお気楽バニーと極楽バニー。
真面目な顔付きで返答するＨバニー。
うっとりとした目付きでマイヤを見つめるＭバニー。うかつにＭバニーを目を合わせてしまったマイヤは、慌てて目をそらした。こほん、とせきばらいを一つして急いで続きを説明する。
「乱暴バニーと不幸バニー。お前達はＴＶ局の制御室を押えろ。放送の中断を許すな。」
２人は黙ってうなずいた。
「残りのものは見張りと戦闘要員だ。警察は油断出来ないからな。冷静バニー！お前は、私が行動できなくなった時には指揮を取れ。いいな。」
「了解しました。」
冷静バニーは、バニー連中の中でもっとも高い知能と、常に冷静な判断が下せることで臨時の指揮官として認められている。
「質問は？」
「ねえから、そのおっさんを早くどっかにつれてってくれよ。目障りだぜ。」
部屋の隅で、相変わらずヤンキー座りをして煙草を咥えた不良バニーが言う。
マイヤは、ムサシを見た。よだれを流して、目は不良バニーに釘付けである。もっとも、こんな目で見られても姿勢を崩さない不良バニーにも問題があるが。
マイヤは迷わず、ムサシをぶん殴った。
「作戦は５日後のの夕方から夜にかけて行う。明日からは、それぞれ訓練を受けてもらう。以上だ。」
「世界を我が手に！」
第５章
一方、警視庁内部の待機室である。畳敷の部屋にテレビ、チャブ台が置いてある。今、その部屋には、我らがヒーローのカラーダインの面々が集まっている。彼らは、今日１日待機なのだ。テレビの野球中継を見ながら、烏龍茶をすすっている。
「う、痛っっっっっっ。」
「まだ筋肉痛が直らないの？」
「あれだけハードにしごかれればなぁ。」
ジュンコは、技の名前だけはかっこいいが、全然破壊力のないブルーダとレッダスに毎日特訓を続けている。彼女は久々に自由に身体を動かすことが出来ているので、非常に気分が良い。逆にブルーダ達は地獄を味わっているようであるが。
苛酷なトレーニングを指示すると２人は最初は嫌がったが、ジュンコが『努力しない正義の味方なんて、いるわけないじゃない。』などと言ったら態度をコロリと変えた。扱いやすい連中である。
「ようは単純なのね・・・。」
「どうだ？少しは筋肉がついただろう。」
「お前ね、１週間ばかりのトレーニングで簡単につくわけないだろう。」
そのとき、時計の針が午後９時を指した。急に慌てるジュンコ。
「きゃ〜！９時からは、『ナイトステーション』を見なきゃいけないのよ！！」
「ああ、あれか。２枚目の俳優が出て来る奴。」
「番組自体は面白くないがなァ。」
やがて、ＴＶの画面に２枚目の男の顔が映った。
「俺、こいつ嫌い。すかしているし。」
「裏では、いろいろとよくない噂も聞くしな。女をとっかえひっかえしているとか。」
「顔がいいから、すべて許されるのよ。」
なにも言い返せないブルーダ達。ブスッとした感じでつまらなさそうにテレビの画面を眺める。
そのころ、マイヤ達はＴＶ局を深く静かに占領しつつあった。
警備員を監禁し、警備モニター室を役にたたなくする。警備員の監視と警備室からＴＶ局全体の監視要員として気弱バニーと義手バニーが残される。
彼女達の役目は後方支援である。よって、他のバニー達とは異なり、背中に大きなバックパックを背負っている。基地と連絡を取るための通信機や、レーダー撹乱兵器等がつめこんである。
義手バニーは、大きな目を見開いて無表情に警備室のモニタを見つめている。気弱バニーは、軽機関銃を構えたままそわそわとしている。たま〜に指が引金にかかったりとしてとても危ない。
目的のスタジオの編集室には、乱暴バニーと不幸バニーが急行し、銃を突き付ける。
「おとなしくすれば危害は加えない。いままで通りに編集を続けろ。ただし、この部屋から出ることは許さない。・・・私が撃ちたがってるってことを忘れるな。」
「いうことを聞かない人は、え〜っとえ〜っと、小指から一本一本ふきとばされちゃいますよ。乱暴バニーはそういうことが大好きな人なんです。ええ、いつも殴られる私が保証しちゃいますから。」
「よけいなこというな！」
「また、殴るぅ。・・・ああ、私ってなんて不幸なんでしょう。」
笑える漫才のはずなのだが、部屋にいた人間は笑うことなんてできなかった。
全員を押さえると乱暴バニーは、マイヤに連絡を取った。
「こちら乱暴バニー。マイヤ様、制御室を押えました。どうぞ。」
「よろしい。こちらも行動を開始する。以上。」
パタパタパタ。
マイヤはコンパクトで化粧を直しながら返答する。
パタパタパタ。
どうやら今日は化粧ののりがいいようだ。鼻歌まじりにアイシャドウを引き直すマイヤ。やがて、マイヤはコンパクトをしまうと、後方で、キャイキャイとおしゃべりに興じているバニー達に号令をかける。
「いくぞ！」
「「「「は〜い！」」」」
そのころ、警視庁の待機室では、ブルーダとレッダスが耳をふさいでいた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「きゃぁ〜〜〜。」
目がハート状態のジュンコ。基本的にミーハーなのだ。
と、そのときＴＶの画面に異変が起きた。
マイヤが、バニーガール達を引き連れて颯爽とＴＶの画面に登場したのだ。しかもバニー達は腰に軽機関銃を構えている。
番組のディレクターは顔をしかめて、またアドリブか、とつぶやいた。
マイヤが近くのマイクをゆっくりと取りあげる。マイクを握っている手の小指が立っている。マイヤは薄笑いを浮かべて会場内を見渡す。そして、会場に向かって一言を発した。
「我々は秘密結社『ぴょんこの会(仮)』である。私は、我が組織の目的を日本全国に伝えるためにここにいる。」
その言葉とともに、お気楽バニーと極楽バニーが銃を一斉射した。
ＴＶ画面を見ていたカラーダイン３人は叫んだ。
「事件だ！！」
「事件だ！！」
「事件よ！！」
「「「カラーダイン出撃だ！！」」」
会場では、わずかな人質を残して他の連中を追い出した。
お気楽バニーは、ちゃっかりマイヤの背後でＴＶに映っている。
「きゃあきゃあ。私が映っている〜〜〜。母さん見ている！？」
「私は、『ぴょんこの会(仮)』作戦実行隊長を勤めるマイヤである。」
マイヤは、髪をふわりとかきあげる。うん、決まっている。
極楽バニーは、お気楽バニーに先を越されてしまい残念そうである。
「我が組織の最終目的は、世界制服である！そのためには手段を選ばん。まず、当面の目的は関東圏内の制服からである！抵抗分子は容赦なく排除する。無駄なことはせずにおとなしく我々の従うように。」
「やっほ〜。やっほやっほ〜〜〜〜〜〜〜！！」
約３０分後、マイヤが原稿のほぼ終わりまで読み上げた頃である。マイヤに対して慌てたような通信が入った。警備室を押さえていた義手バニーからである。
「マイヤ様！警察が介入して来ました！包囲されつつあります！」
「・・・早いわね。わかったわ。もうちょっとで終わるから、足止めしてて。」
バックグラウンドに銃声が鳴り響いている。気弱バニーが警官隊に発砲をはじめているのである。
マイヤが通信を切って、残りの原稿を読み上げようとしたときであった。
「きゃぁ！！」
突然、会場の外で警戒をしていた格闘バニーの悲鳴と、かなり盛大な爆発音が響いた。
会場すぐ外で爆発が起きたのだ。
ミサイルらしき飛行物体が飛んできて爆発したようだ。格闘バニーには、ほぼ直撃だったはずであるが、自動的にバニースーツの自己防衛装置が働き、電磁バリヤーをはりめぐらせた。格闘バニーは、爆風に飛ばされながらも、素早くバランスを取り、会場内にふわりとした感じで着地した。
瞬間的に苛負荷をかけられた、電磁バリヤー発生装置、バニーの尻尾が火花を飛ばして焼け落る。
近くにいたＨバニーが射撃姿勢を取りながら、心配そうに格闘バニーに声をかける。
「格闘バニー、大丈夫？」
「ふふふ。来る！来る！！」
「だ、大丈夫そうね。」
いつもは無表情な格闘バニーであるが、今の格闘バニーの顔には心底うれしそうな笑みが浮かんでいる。Ｈバニーはそれを見て頬を引きつらせる。
「さぁ！どっからでもかかって来なさい！私は誰の挑戦でも受ける！！」
「心配するだけ無駄のようね・・・・。」
冷静バニーは、いきなりの攻撃に戸惑いを隠せない。
「警察が勧告もなしにいきなり攻撃！？マイヤ様！」
さすがにマイヤも悠長に演説をしていられなくなったようだ。まだ原稿が少々残っているが言いたいことは言ったとつぶやく。
「全員に告げる。警察の介入があった。直ちに撤退行動に移る！」
爆発のあった所から、警察官が７、８人飛び出して銃を構えた。裏口から突入して来たらしい。うち、１人が拡声機を構えて叫んだ。
「君達は完全に包囲されている。おとなしく・・・うわぁ！」
「うふふ。落ちろ！落ちろ！落ちろ！落ちろ！」
格闘バニーは、空手有段者だ。そして、彼女だけ特別にスピードを重視した改造を受けている。こうなったら彼女を止められる人間はいない。まさに無敵である。
ふぉぉ！と気合いを入れる。ただでさえ筋肉質の格闘バニーの身体がひとまわり大きく膨れ上がる気がする。そして、そのまま一気に警官隊の中央に飛び込んだ。
「それそれそれそれ！！」
それより、少し前。
暗やみに包まれているテレビ局正門の廊下である。
正面から突入しようとした警官隊は、警備室に立て篭もった気弱バニー達の銃撃を受けていた。廊下の照明は、度重なる銃撃戦によって大半が破壊され極度に視界が低下していた。警官隊の装備は懐中電灯くらいしかない。
「おおい！サーチライトはまだか！」
「この場所に運び込むのは難しいぞ！」
にっちもさっちもいかない状況である。
「暗くてなにがなんだか。」
「レッダス。確か装備にサーチライトがあったでしょ。」
「おお。ちょっと待ってくれ。」
白兵戦仕様のブルーダとイエロダスとは違って、長距離支援火器等を満載しているレッダスである。初陣ということで実戦データの欲しい教授がほとんどフル装備で出撃させたのだ。当然のごとく、操作も複雑になってしまっている。
「ええと。このボタンだった気がするぞ。ポチッとな。」
レッダスの肩のミサイルが１本、オレンジ色の焔を吹き出しながら加速した。目標を指定されていないミサイルはまっすぐ建物の奥の方へ飛んでいく。
目を点にしている３人の耳に、やがて爆発音が響いてきた。
ぎぎっといった感じで２人を振り向くレッダス。
「い、今のは事故だよなぁ。」
「うんにゃ。レッダスが悪い。」
「そうよ。レッダスが悪いわ。」
「気弱バニーと義手バニー。もう、こっちも撤退するわ。そこは放棄しなさい。」
「し、しかし、廊下から逃げたら撃たれますよ。」
「壁でもぶち抜いて来なさい。」
「は〜い。」
それを見て一番最初に動いたのはカラーダインであった。
「おお、銃撃がやんだぞ。前進だ！」
「ちょ、ちょっと安全確認ぐらい・・・・。」
「現場は臨機応変にいかねばな。」
「あんたの臨機応変は、猪突猛進の意味でしょうが！！」
「うむ。なかなかいいこと言うな。」
ブルーダ達は、辺りの警戒を省略して突撃した。ジュンコの予想に反して抵抗は無い。
「罠かしら。それともさっさと逃げたのかしらん。」
あっさりと会場周辺までくる。辺りには裏口から突撃を敢行した警官の屍累々。
ブルーダとレッダスは呻いたが、交通事故現場を見慣れているジュンコはたいして気にもしなかった。
「いくわよ。」
もう、誰も残っていないと思うけれど、とつぶやきつつジュンコが会場の入口を指さす。ブルーダとレッダスはうなずいて身構えた。
そして、一気に会場内に飛び込んだ。
「「！！」」
第６章
ジュンコの予想に反して、そこには撤退直前のマイヤとバニーが残っていた。
マイヤが引き連れているバニーは６人。残りは退路の確保のため、ここにはいない。
にらみ合う２つのグループの間に火花が散る。
「そこまでよ！これ以上あなた達の好きにはさせないわ！」
「そ、それは俺のセリフ・・・・。」
ちょっと怯んだマイヤは、逆に腰に手をあてて高笑いをした。
「ほーっほっほっほ。よくここまで来れたと誉めてあげましょう。だが！それもここまでよ！！」
ジュンコは、マイヤを睨みつけた。マイヤも負けじと睨み返す。
そんな２人の間に割って入るようにレッダスがずぃっと前に出た。『ぴょんこの会(仮)』の面々をぐるりと見渡す。
「やるぞ、ブルーダ、イエロダス。」
「おう！」
「え？」
いきなりやるぞ！といわれても意味が理解できないジュンコである。
「何言ってんだ。こんなおいしい場面なんだから、名乗りを上げるに決まっているじゃないか。・・さぁやるぞ。」
「・・・・・・・・・。」
目点のジュンコを置いて、ブルーダとレッダスは、ビシッとポーズを取ると大きく名乗りを上げはじめた。仕方が無く顔を赤くしながらポーズを取るジュンコ。
「天呼ぶ、」
「地呼ぶ、」
「ヒトガヨブ」
「悪を倒し！」
「正義を貫かんと！」
「ワタシタチヲヨブ」
「青の騎士！ブルーダ！」
「赤の戦士！レッダス！」
「キイロノマジョ、イエロダス。」
「「「我ら！正義の味方カラーダイン！！祈りに答えて只今参上！！」」」
練習はしていたものの、人前に披露するのは初めてのジュンコである。ヘルメットの下の顔は恥ずかしさで真っ赤になっていた。
マイヤが同情の目でジュンコを見た。
「あなたも苦労しているのねぇ。」
「ほ、ほっといて。」
いきなり、マイヤが電磁鞭を取りだした。狙いはジュンコだ！
「ほーほっほっほっほっほっほ。」
マイヤは、極上の人魚姫よろしく、高笑いをしながら電磁鞭を振るった。
ジュンコは、一呼吸で身を沈めると、すばやく腰に吊下げてあったヒートサーベルを抜き放った。鞭をかわしつつ、マイヤに切りかかる。
同時にバニー達も動いた。すばやく遮蔽物に隠れる。
ブルーダも動いた。ジュンコと同じようにヒートサーベルを抜き放つ。
しかし、その恰好で固まってしまった。ブルーダの前に格闘バニーが立ちはだかったのだ。
「どうした。かかってこい。」
「・・・・・・・・・・・。」
格闘バニーの身長は、ブルーダよりはるかに低いが、ブルーダが思わず見上げるような感じの威圧感を持っていた。
「かかってこないならば、こちらからいくぞ。」
格闘バニーは、目にも止まらぬ速さで動くと、正拳突きを繰り出した。ブルーダの胸部にヒット。ブルーダは３メートルも弾き飛ばされた。
いくらプロテクタースーツが衝撃を緩和したとはいえ、相当な衝撃だったらしい。スーツを着ていなかったら肋骨が砕けて肺に刺さっていた所だ。
倒れ伏したブルーダにあわてて駆け寄るレッダス。
「おい！しっかりしろ！！」
「も、もう俺はだめだ・・・。お、俺に構わずに・・・・。」
「なに馬鹿なことを言っているんだ！しっかりしろ！」
「お、俺はバニーガールが苦手なんだ〜〜〜〜。」
「は？」
「あんな可愛いものをどうやっても攻撃できない！」
「・・・・・・・・・・・・。」
冷たい目をしながら、２人の話が終わるのを待っている格闘バニー。
遮蔽物の陰でおしゃべりに余念がない、他のバニー達。延々と戦い続けるジュンコとマイヤ。
「おい。彼女を見ろ！」
「・・・・・・・・。」
「彼女は尻尾がないだろう。つまり、彼女はバニーガールではない！！」
「た、確かにそういわれれば・・・・・。」
格闘バニーの尻尾は、先程ミサイルの直撃を食らったときに融け落ちてしまっていた。
「尻尾の無いバニーなぞ、バニーではない！！さぁ！戦え！ブルーダ！！」
「おう！」
ブルーダは、元気良く立ち上がり、ヒートサーベルを構える。
「やっとやる気になったか・・・・・・。」
「よくもバニーもどきの恰好で俺をたぶらかしたな！！許さん！！正義の鉄鎚を食らわせてやる！！」
２秒後。ブルーダは壁に叩き付けられていた。
マイヤとジュンコは膠着状態に陥っていた。
「ぜいやぁ！！」
「なんのぉ！！」
ジュンコは再三、マイヤの懐に飛び込んで剣を振るうがかわされる。マイヤも、距離を取って鞭を振るうが広さが足りないのと障害物が多いのとでなかなか有効打がない。
２人は頭に血がのぼって周りの状況も見ずに戦っている。
遮蔽物に隠れてばりばりと銃を撃ち合う５人のバニーとレッダス。はっきり言ってレッダスが不利である。１人を目標に定めると他の所から銃撃を食らう。スーツの対弾性能のおかげでもってはいるが、スーツはともかく、肉体の方が堪えきれなくなってきた。
「むぅ。こ、このままでは死んでしまう。」
彼は、ジュンコの方を見た。ヒートサーベルと電磁鞭がぶつかりあって火花を散らすシーンであった。
彼は、ブルーダを見た。彼は、格闘バニーにつき合って踊っていた。会場の外の方で、ばりばりと銃声が聞こえるのは、突入して来た警官隊と残りのバニーが銃撃戦を繰り広げているのであろう。レッダスは、ため息をついた。
「つまり、助けは期待できないと。」
「おじさん、おじさん。素直に降伏した方がいいわよ。」
「そうよ。さっさと降伏した方が身のためよ。おじさん。」
お気楽バニーと極楽バニーが遮蔽物から顔を覗かせて口々に言った。
「お、おじさんだと〜〜〜〜〜！！！！！！！お、俺はまだ若いんだ！！！！！！！」
「自分で若いって言うようになったら、もうおじさんよねぇ。」
「ねぇ。」
「お前達！そこを動くな！！正義の怒りをぶつけてやる！！！」
ブルーダは、格闘バニーの玩具と化していた。ブルーダが繰り出した拳は空をきり、そのかわりに１０倍のパワーをもったパンチが返って来るのだ。
「ぐはぁ！」
「どうした？もう終わりか？」
格闘バニーＫの放った最後の一撃でブルーダのヘルメットが吹き飛んだ。頭から血をだらだらと流したブルーダの頭が出て来る。ブルーダは完全に気絶しているようだ。
「あらぁ。結構いい男じゃない！」
レッダスと遊んでいたＨバニーである。彼女は、バニー連中ナンバー１のナイスバディの持ち主である。性格もそれなりで、まさにバニースーツが最も似合うバニーである。
Ｈバニーは、倒れ伏しているブルーダに近付くと、顔をまじまじとのぞき込んだ。
「ふ〜む。ちょっと不健康そうな顔色がマイナスね。運動不足じゃないかしら。」
「あの動きではそうかもしれんな。」
「ふ〜む。」
と、突然気絶していたはずのブルーダがむくりと起き上がった。素早く目の前にいたＨバニーの腰にしがみついた。
「つ、捕まえたぞ！」
「ほぉ、まだ動けたのか！」
「あ〜ん。」
ブルーダは、スーツの筋力増幅装置を作動させた。これは腕力を１０倍以上に高める物だ。このままＨバニーを抱き潰してしまおうという作戦である。
「おい！Ｈバニー！危ないぞ！ひきはがせ！」
「あん☆。せっかちなんだから〜もぉ〜〜。」
緊迫感のかけらもないＨバニーである。
その時点でブルーダは、自分が捕まえているのが格闘バニーでなく、別のバニーであることに初めて気づいた。ブルーダの目の前でＨバニーの豊満な胸が揺れている。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「きっと寂しかったのね、坊や。」
Ｈバニーは、ブルーダの頭を抱き寄せ、自分の胸に押しつけた。抱き潰すという作戦は、どこにいったやら。ブルーダの腕にもう力は入っていない。
「お・ね・え・さ・ん・が・お・し・え・て・あ・げ・る。」
Ｈバニーがブルーダの耳元で囁く。そして、ブルーダの頬に軽くキスをした。ブルーダはそこまでが限界であった。プチン！という音とともに彼の鼻からは大量の鼻血が吹き出した。
「あらぁ。うぶな人。」
「最近思うんだけれど、Ｈバニーって私より強いんじゃない？」
ジュンコはいい加減腕が痺れてきた。剣道の腕前では誰にも負けない自信があったのだが、敵の女性幹部も相当に強い。おそらくバブル全盛期に歌舞伎町で鍛え上げたんでしょうね、と根拠の無いことを考えながら、ジュンコは剣を下段に構え直す。
対するマイヤも余裕は無い。疲労が足に来ている。しかし、ここで気を抜いたら確実にやられるだろう。マイヤは乾いた唇をなめて、深呼吸を一つした。電磁鞭のパワーを上げる。電磁鞭に電力を供給している背中のバックパックが苛負荷の音を立てる。あまり長くはもたないだろう。
マイヤは気合を放った。
「いい加減、おとなしく降参しなさい！」
「誰が！」
マイヤが鞭を振るう。ジュンコは鞭の軌道を予測して、右側に動いた。バシィ！という破裂音を残して鞭がマイヤのいままでいた空間に振り下ろされる。
更に鞭は生き物のように動いて下からジュンコに襲いかかった。
「ほほほほほ。ゼイゼイ」
「くっ。」
小さく呻いてジュンコは更に右側に身体を滑べらせる。しかし、運悪く転がっていた器材に足を引っ掛けてしまった！
ギャン！という音とともに鞭がジュンコの左腕にヒット！！ジュンコは１メートルの距離を弾き飛ばされ、会場の照明装置群に突っ込んだ。
ジュンコの左腕にかなりな痛みが走る。教習中に体験学習と称して出力を落して当てられたスタンガンの痛みを思い出した。スーツの防電部分が守ってくれなかったら感電死していたところである。スーツの鞭が当たった部分が黒く焦げて、ぶすぶすと煙を上げている。
今の衝撃でジュンコのヒートサーベルは、手を離れてマイヤの前に転がっている。
「良かったわねぇ。頭に当たったら死んでいたところよ。」
「くっ。」
マイヤは、勝ち誇った目とホッとしたような笑みを浮かべた。ジュンコは悔しそうにマイヤの顔を睨んだ。
「ほーっほっほっほっほ。」
マイヤが電磁鞭を軽く動かした。ジュンコのヒートサーベルが電磁鞭に直撃されて火花を散らしてショートした。
そして、くるりとジュンコに背を向けると、通信機を作動させ、外の警官隊とやりあっている冷静バニーを呼び出した。
「冷静バニー、そちらの状況はどうなっているの。」
「あ、マイヤ様。後４、５分で突破されそうです。外も警察のヘリとかでいっぱいです。連中は、空をも押さえようとしてるようです。早く撤退しないと逃走経路が押えられる可能性もあります。」
「わかった。すぐに行く！ 全員！直ちに撤退だ！！」
バニー達が個々に会場の出口に移動する。
まだ、かろうじで戦闘不能になっていなかったレッダスが叫んだ！
「待てぃ！！この俺が残っているかぎりは行かせはせんぞ！！」
焦る気持ちで、対人ミサイルの発射手順を整える。ロックした相手をどこまでも追跡して爆発するという、凶悪な代物である。とても警察が持っていていい装備ではない。教授の趣味だ。
レッダスは、ロックする相手をマイヤに選んだ。
「敵の幹部をやれば・・・・。よし！」
発射体制を整えたレッダス。まさに発射せんとしたそのとき！レッダスは、後ろから強烈な蹴りを食らって床にめりこんだ。
「邪魔だ。」
レッダスを蹴り倒した格闘バニーは、そのままレッダスの上を歩いて出口に向かった。同じくレッダスの上を歩いてＨバニーが続く。
「逃げるの大変よ。」
「なんとかなるさ。」
数時間後、マイヤは総統に作戦の報告を行っていた。
「とりあえず目的は達しました。」
「損害は無かったのか？」
「はい。大丈夫です。」
「そうか。それは良かった。」
「今回の正義の味方連中の装備の充実度は驚くべきものがありました。もし連中が次の作戦にもちょっかいをかけて来るならば、作戦全体に支障をきたすかもしれません。」
「うむ。だが、次の作戦は延期できん。延期してしまったら、今回の作戦による効果が薄れてしまう。なんとかして、次の作戦を成功させるのだ。」
「お任せ下さい。失礼します。」
マイヤが去った後、総統は虚空を見上げてつぶやいた。
「正義の味方がこちらのバニーと互角に渡りあうとはな・・・・。早めに潰したほうが良いのかもしれんな・・・・。」
第７章
「ほーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ。ほーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ。ほーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ。」
ここは、東京タワー特別展望台である。マイヤは眼下に広がる午後の東京の都市を見下ろして高笑いである。きっととっても気持ちがいいのであろう。
「マイヤ、ちょっとは手伝って下さいよ〜。」
『ぴょんこの会(仮)』は、次の作戦の真最中である。東京タワーを乗っ取り、そこから強力な洗脳電波を放映する作戦だ。これで、日本の人口の５分の１の洗脳を予定してた。
「それはあなた達の仕事でしょう。私のお仕事は、総指揮だからなーにんもしなくていいのよ。」
「ゆ、ゆがんでいる。」
東京タワー特別展望台(東京タワーの一番上にある展望台)は、『ぴょんこの会(仮)』が制圧していた。外には反重力プラットホームが浮かび、大量の機材が運び込まれている。
「どうでもいいけれど時間かかりすぎよ。予定より１０分以上も遅れているわ。急がせて。」
「まぁ、全力をつくしますがね。」
ヤマトは特別展望台の屋根に開いた穴から外に出ていった。屋根の上に洗脳電波発生装置が乗せられているのだ。天井の穴から大量のケーブルが展望台の内部のコントロールパネルに対して伸びている。パネルの前ではムサシが微調整を行っている。
「う〜〜〜ん。こんな感じでいいはずだがな。」
「ムサシ、あとどのくらい？」
「そうだな。５分もあれば。」
パネルの前で調整を続けるムサシとＭバニー、お嬢バニーを見てマイヤは満足げにうなずいた。少し遅れているがすべて順調である。マイヤはまた、東京の街を見下ろした。
「ほーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ。」
地上。
東京タワーの周りは黒山の人だかりであった。警察が囲いを作って一般人を中に入れないでいるが、騒ぎは確実に大きくなっていた。
「なにがあったんだ？」
「東京タワーが占拠されたんだってよ。」
「あれ？爆弾テロだって聞いたぞ。」
「あの『ぴょんこの会(仮)』だったかってふざけた名前の過激派の仕業じゃないのか？」
「警察はなにをやってんだ！」
「すいませーん！」
「ちょっと道を開けてくださーーい！」
野次馬をかき分けるようにして、ブルーダとレッダス、ジュンコが登場した。当然のごとくプロテクタースーツを着ている。
「わぁ〜、かっこいい！ねっ！ねっ！ポーズとって！！」
「こ、こら！危ないから近寄っちゃいけません！」
そばを通り抜けようとしたとき、１人の子供がレッダスにポーズを求めたのだ。おまけにかっこいいと誉められたのではしかたがない。ブルーダとレッダスは顔を見合わせると、素早く名乗りのポーズをとった。
「天呼ぶ、」
「地呼ぶ、」
ジュンコは、ブルーダとレッダスの後頭部を力一杯殴り付けると、そのまま２人の身体を引きずって、立ち入り禁止の囲いの中に飛び込んだ。
「全く、どこいっても阿呆するんだから。」
囲いの前で群衆を押えていた若い警官が綱をあげてジュンコ達を通してくれた。そのまま本部の方へと移動するジュンコ。当然、両手には２人がぶら下がったままである。
「特別機動隊、イエロダス以下２名まいりました。」
目を回してるブルーダとレッダスを床に放り出して、本部の警部補に敬礼をする。警部補はブルーダ達にちらりと目をやってから、ジュンコに敬礼を返した。
「うむ。良く来てくれた。」
「で、状況はどうなんでしょう？」
「うむ。これを見てくれ。」
警部補は、簡易テーブルの上の図を示した。東京タワーの３面図と展望台、特別展望台のそれぞれ、平面図が広げてある。展望台の平面図にはぽつぽつと赤いマーカーが置かれているが、おそらく敵の位置を表しているのだろう。
「連中は、展望台と特別展望台を占拠してる。展望台側では、連中は警備しているだけのようだ。だが、この特別展望台には・・・。」
警部補は１枚の引き延ばした写真を取り出した。望遠で撮影した東京タワーの特別展望台が写っている。
「このように重機材が運び込まれているようだ。連中はなにかをやろうとしている。・・・それがなにか、ということまではわからんがな。」
それを聞いて、伸びていたブルーダとレッダスがいきなり立ち上がった。
「はっ！わかりました！！早速、連中の野望を阻止するために東京タワーに乗り込みます！！」
「お任せ下さい！かならずや悪を滅ぼして見せます！」
「いくぞ！レッダス！」
「おう！」
警部補に敬礼するのももどかしく、ダッシュで外に飛び出すと東京タワーのエレベータに駆け込んだ。
ため息を一つついて警部補にむきなおるジュンコ。
「で、私達はどうすればよいのでしょうか？とても展望台の警備を突破できるとは思えないのですが。」
「うむ。出入口はエレベータと、非常階段しかない。外から近付こうにもヘリは使えない。さっき近付いた報道ヘリがものの見事に落とされたよ。にっちもさっちも行かない状況だ。」
「・・・・・。」
「そこでだ。君達の出番となるのだ。先程、警察庁材料開発部から提案があって、君達のスーツに装着できる飛行パックがあるそうだ。それで外から潜入してみようという案になったわけだ。」
「ひ、飛行パックですか！？」
ジュンコは非常にいやな予感がした。おそらくその予感は正しいのだろう。
「うむ。もうじき教授自ら、装置を運んで来てくれるそうだ。」
「あ・・うう。」
「やってくれるな。」
「うっ、くっ。」
「やってくれるよな、ジュンコ君。」
涙を流しながら、ジュンコは外に出た。
足元には全身に銃弾の雨を浴びてずたぼろになったブルーダとレッダスが転がっていた。
「つ、強いぞ敵は・・・・。」
「まだ、まだだぁ〜。俺はお前達、悪をほろぼしてやる〜。」
ジュンコは、下から東京タワーを見上げる。高い。ほぼ垂直に仰ぎ見ないと上まで見ることができない。
ジュンコは、どこからか高笑いが聞こえたように感じて眉をひそめた。
「また、あの変態女が出てきているんでしょうね。」
「ほーっほっほっほっほっほ・・・へっくしょん！！・・誰かが噂してるわ。」
「よし！これで完璧だ！！・・ヤマト！上の方はどうだ！？」
「うん。オッケーだ。ミスはないぞ。」
「よしよしっと。マイヤ、完成したぞ。」
「え？本当？」
マイヤは、窓際を離れてコントロールパネルの所にやって来た。マイヤのそばには、義手バニーが左手にライフルをもってヘリの接近を警戒している。
「後は、このスタートボタンを押すだけだ。」
「いいわね。押しちゃうわよ。」
「いいよ。」
「ポチっとな。」
マイヤはスタートとかかれた緑色のボタンを押した。天井の上からうなり音が発生する。
「うん。計器は正常と。ヤマト！そっちはどうだ！」
「異常なしだ。」
「よしよしっと。・・・・展望台！そちらに異常はない？」
マイヤは通信機で展望台の警備のバニーと連絡をとった。冷静バニーが返答をする。
「つい先程、例の正義の味方が２人程やってきましたが、撃退しました。あとは異常ありません。」
「そう。こっちはマシンに火が入ったわ。後１時間程そこを確保して頂戴。」
「わかりました。」
「本当にこんなもので、空が飛べるの？」
「大丈夫だ。私を信用したまえ。」
教授はジュンコのスーツに飛行パックを取り付けながら言う。横では同じようにブルーダが飛行パックの取り付けを行われている。
飛行パックは肩の部分と足先の部分に小さな翼がつき、背中にロケットエンジンがついているような形をしていた。身体は伸ばされた状態で固定され腰を曲げることはできない。腰の部分に操縦レバーが出ておりこれで姿勢制御を行う。
「飛行時間は約２分だ。」
「ええっ。そんなに短いの！？」
「それに、ここからでは特別展望台までたどり着くことはできん。展望台までがせいぜい、といったところだろう。」
「そ、それじゃあ一体・・・。」
教授のにやりと笑った顔を見て、ジュンコは非常にいやな予感に襲われた。そして、助手の一人が運んで来た打ち上げ台のようなものを見て、その予感が現実のものとなるのを感じた。
「カタパルトだ。これでお前達を打ち上げてやろう。これで十分届くはずだ。」
「ほ、本当に大丈夫でしょうね。」
「大丈夫だよ。私を信用しなさい！かっはっはっは。」
「（不安。）」
「俺には飛行パックはないんだけれど、留守番か？」
取り付け作業を見ていたレッダスが口をだす。
その言葉を聞いて、脇で見学していた警部補が口をはさんだ。
「君には、長距離支援を行ってもらう。まず、おとりとなって連中の目を君に引き付ける。その隙にブルーダ君達が潜入するという段取りだ。」
「はぁ。」
「君には特別の武器も作ってあるぞ。見たまえ！」
教授はオーバーな動作で武器を取り出した。銀色に鈍く光る長大な銃の形をしているものだ。しかし、銃口もなく、弾丸を装填する口もついていない。銃尻にバッテリーがくっついている。
「レーザーライフルだ。威力は折り紙つきだぞ。」
「す、すっげー。」
「バッテリーの関係上、３発しか発射できん。大事に使うんだな。」
「たったそれぽっちじゃ、牽制にもならないわよ。」
「た、たいへんです！！」
突然１人の若い警官が息を切らして駆け込んできた。警部補にあわただしく敬礼をすると、手に持ったメモ用紙を振り回しながら、早口で喋り始めた。
「け、警視庁からの連絡で、現在首都圏全域に電波ジャックが発生しており、テレビの全チャンネルで怪電波が流れているそうです。その電波から送られている画像には催眠効果があるらしく、都市部では大混乱が起きているようです！」
「な、なに！」
「連中のしわざね。」
ジュンコは東京タワーを見上げた。
「よし！一刻を争う。すぐに攻撃に移ろう。」
「おう！！」
第８章
街は大混乱であった。
広場では、大勢の人が口を開けて画面に見入っている。うっかり車載テレビで洗脳画面を見てしまった人々は、コントロールを失って電柱や前の車に突っ込んだ。家庭でテレビを見ながらアイロンをかけていた主婦は、アイロンによって発生した火災に巻き込まれた。
「ほーっほっほっほっほっほ。愚民ども。我々『ぴょんこの会(仮)』の奴隷と化すがいいわ！ほーっほっほっほっほっほ。」
「マイヤ様、ヘリがそちらに近付いて来ています。注意して下さい。」
展望台の方から、冷静バニーが通信を送って来た。外を見るマイヤ。確かに警察のヘリがこちらを目指している。
義手バニーがのこのこと特別展望台の屋根の上に上がった。ライフルを構えヘリに向かって一発ずつゆっくりと撃つ。その後、特別展望台に詰めていた残り５人のバニーもそれぞれ撃ち始める。
しかし、吹きはじめた北からの風によってなかなか有効弾がない。
「ちくしょう！！好き放題やりやがって！！」
レッダスは、ヘリの脇のドアを開け銃を構えた。操縦席に向かってどなる。
「おい！後どのくらいの距離だ！？」
「４００ｍといったところだ。」
「２５０ｍまでつめてくれ！」
「無茶言うな！落されるぞ！」
「有効射程距離がそのくらいなんだ！プロならばやってみせろ！！」
「わかったよ。ちょっと振り回すから注意してくれよ。」
操縦者はちょっと機体を振るとジグザクに飛ばし始めた。並ではない。機体を設計した人が考えたこともなかったような曲りかたをする。
「い〜〜〜〜ひゃっほう！！いや〜一度こ〜ゆ〜ことやってみたかったんだ。(^^)」
「お、お、お、お、俺が悪かった。お、下ろしてくれ〜！！」
お嬢バニーがヘリを狙い撃とうとしたら、ヘリはほとんど直角にカーブして弾を避けた。
「なかなか落ちませんわね。困ったものですわ。落ちて頂かないと、マイヤ様に叱られてしまいますわ。」
お嬢バニーは忠義なセリフを口にして、武器を交換しに行った。戻って来た時には強力なガトリングガンを手にしていた。
「ちょ、ちょっとそれは強力すぎ・・・・。」
「まぁ、なかなか反動がすごいですわね。」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
涼しい顔でガトリングガンをぶっぱなすお嬢バニー。ほとんど明後日の方向に弾が飛んでいる。当然のことながら当たるわけがない。下にいる連中のいい迷惑である。
「おい！そろそろ２００ｍ近いぞ！」
「う、うう。た、頼むから静止してくれ〜。」
「３秒ならば。」
「・・・・・どうせこっちはおとりなんだ。派手にぶっぱなして消えるとしよう。よし！止まってくれ！」
そのころ、地上では・・・・・・。
落ちてくる弾を避けてみんな遮蔽物に隠れていた。小さな鉛弾とはいえ、３００ｍ近い距離を落ちて来れば十分な脅威となる。
そんな中、カタパルトに固定されたジュンコとブルーダがいた。
「まだなの！？」
「レッダスが一発撃つのが合図なんだから。」
「そのまえに落されるわよ。」
「レッダスを信じろ！！」
それができたら苦労はしない、とジュンコはため息をついた。信用できないからこうして気をもんでいるんじゃないか、と。
カンッという音がして、ブルーダの頭にガトリングガンの弾が落ちて跳ね返る。
「あなた達！まだ落せないの！」
「も、申し訳ありません！マイヤ様。」
あわてて、Ｍバニーが謝る。この時、銃撃は一時やんだ。
「ちょっと貸しなさい！！」
マイヤは、お嬢バニーの持っていたガトリングガンを奪い取った。
「こんなものは！」
「銃撃がやんだ！今だ！」
操縦者はヘリを巧みに操作して特別展望台と水平位置に静止させた。
「今だ！撃て！」
「おうよ！」
レッダスは、素早くレーザーライフルを構える。目標は展望台上部に置いてある大きな機械だ。これがおそらく洗脳装置の中枢であろうと。
レッダスは、照準をのぞき込む。レーザーライフルは、レーザーを弾丸とする銃だ。風などの影響は一切受けない。弾はまっすぐ走る。
「このお！」
マイヤの放ったガトリング弾がレッダスのヘリの後部ロータを打ち砕いた。
「ファイアーーーー！！」
ほぼ同時にレッダスがレーザーを発射した。
その光をジュンコとブルーダは同時に目撃した。
「れ、レーザーが！発射された！」
「よし！いっけーーー！！」
ジュンコとブルーダのカタパルトが同時に２人を打ち上げた。
レッダス「は、外れた・・・・・・・。」
レッダスの放ったレーザーは、わずかに下方に反れて、特別展望台の屋根を焼いていた。レーザーがかすめた部分は黒く焦げ、一部はまだ赤く沸騰している。おそるべき威力である。
レッダスの乗ったヘリがガツン！と揺れた。
「！！お、落ちる？」
「制御不能だ！！なにかにつかまれ！」
「お、お、おおおおお。」
「なんとか下まで落さずにこらえて見せる！」
後部ロータがやられたため、回転しだしたヘリを悪戦苦闘しながら操る操縦者。レッダスは、座席に必死にしがみついた。
「あ、あ、危なかった〜。」
「マイヤ様！お怪我は！」
「大丈夫よ。・・・あのヘリはやっと落ちてくれたし・・・・・・。」
マイヤは、ジェット噴射の音を聞いたような気がして辺りを見回した。
「！！お、おまえら！」
「あなた達！覚悟しなさい！！！」
「青の騎士！ブルーダ参上！！！さぁ、『ぴょんこの会(仮)』覚悟しろ！」
突如として特別展望台の上にジャンプして来たブルーダとジュンコ。ジュンコは、ワンタッチで飛行パックを切り離した。そのまま屋根にふわりと着地する。
ブルーダと言えば・・・・着地しそこなって頭から落っこちている。
「お、おのれぇ！どこまで邪魔をするか！」
マイヤは、ジュンコに向かってガトリングガンを構え直すと１斉射した。バニー達も撃ちだす。ブルーダは這って逃げ出した。
「やぁ！！」
ジュンコはマイヤに向かってジャンプすると、空中でヒートサーベルを抜き放ち切り付けた。マイヤはガトリングガンで防御をする。見事にガトリングガンが真二つに切りさかれた。
マイヤは、ガトリングガンの残骸を放り出すと、腰から電磁ブレードを抜き放ち向え討った。
一方、レッダスのヘリ。
「おおお、落ちる落ちる。」
「はっはっは。空飛んでるんだ。落ちることもたまにはあらーな。」
「た、たまにでもあってたまるかぁぁぁぁ！！」
レッダスが前方を見ると東京タワーの赤い鉄骨が迫って来ていることに気づいた。
「ぶ、ぶ、ぶつか・・・・」
「しっかりつかまってな！」
操縦者は気合いを入れるとヘリを東京タワーの中程に突っ込ませた。
どどーーーーーーん！
ヘリは、部品と破片を飛び散らせながら東京タワーの中を突き進む。細かい鉄骨がちぎれ、ワイヤーが弾き飛び、壊れた構造物の雨を降らせた。やがて、ヘリは巨大な鉄骨にひかかり止まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。うっく・・・・・い・・生きてるのか・・・。」
ヘリの突っ込んだ衝撃は、大きく響いた。特別展望台では、震度５並の揺れが起こった。
思わず手近な物にしがみつくバニー達。しかし、揺れはなかなか収まらない。床に這いつくばって、通信機にどなるマイヤ。
「ええい。何が起こったの！冷静バニー！状況知らせ！」
「先程のヘリがタワーに突っ込んだようです。・・・・・。それから、こちらは今警官隊の突入を受けています。後２０分持たないと思われます！」
「こっちも敵が来ているわ・・・。」
マイヤは思った。今回の計画は失敗するかも知れないと。警察の組織力と正義の味方達を過小評価しすぎたのかも知れない。
マイヤは、洗脳装置に目を走らせた。すでに３０分程動いている。外部的には損傷はないようだ。詳しい所は、下にいるヤマトとムサシに聞かないとわからないが。
これだけ動けば、もう十分かもしれないと思った。
「であぁぁぁぁ！！」
「！！」
マイヤの心の迷いを読んだかのように、まだ安定しない床を蹴ってジュンコが襲いかかった。マイヤは電磁ブレードで受け止める。そのまま力比べに移行した。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
ブルーダは困っていた。飛び道具がない状態で５人のバニーを相手にしなくてはならない状況に追い込まれたのだ。
手にヒートサーベルを光らせて、バニー達を見る。彼女らは機械の周りを固めてこちらを注視してる。ブルーダは思わず格闘バニーの姿を探し求めた。いないようだ。ほっと息をつく。かわりにＨバニーがブルーダに可愛く手を振ってくれた。ブルーダはますます困った。
「いや〜。派手に落ちちゃったね。でも、まぁ命があったんだからよしとしようか。」
「こ、ここはどこだ？」
「特別展望台と、展望台の中間だよ。特別展望台から約１００ｍ下といったところかな。」
操縦者は横倒しのヘリの上に座って、のんびりと答えた。
レッダスは上を見上げる。上空に特別展望台が見える。しばらくぼ〜っと見上げていてレッダスはふっと思いついた。
「ここから狙撃できないかな？」
「ここから？・・・あれを貫かないとだめなんだろう？・・・・う〜ん。その銃ならばできるかもね。だめでもともと。やってみたら？」
「そうだな。・・・後２発は撃てるはずだ。やってみるか。どうせ、もう使う機会なさそうだし。」
「頼む！正義のためだ！そこをどいてくれ！！」
「・・・・。」
ヒートサーベルを構えて、正面から洗脳装置に突っ込むブルーダ。
ライフルを機関銃に持ち替えた義手バニーがブルーダに向かって弾をばらまく。衝撃でふっ飛ぶブルーダ。
「これは壊させません！」
「そうまでして・・・そ、それは一体何の機械なんだ！」
「これは、洗脳を行う装置と聞いていますわ。これの発する画面を見た人は洗脳されて『ぴょんこの会(仮)』の戦闘員となってしまうというとっても恐ろしい兵器・・・でしたかしらねぇ。」
お嬢バニーが、瞳が見えないくらい細い目でニコニコしながらフォローを入れる。
「そんな、恐ろしいものを・・・・・・。何故だ！何故君達はそんな恐ろしい悪事に荷担するんだ！」
「他の人はどうか知りませんが、私にとっては恩返しです。『ぴょんこの会(仮)』は私を救ってくれました。そのために、微力なれどお役に立てればと思っています。」
「私は、マイヤ様のためならば死ねますわ。」
「私は、面白ければそれでいいと思っています。」
「私ですか？さぁ？何故なんでしょうかしらねぇ。」
「なりいきに決ってだろ！ばかやろー。」
口々に答えるバニーに、ブルーダは正義の怒りをぶつけた。
「君達はこんなことをやっていけないと思わないのか！！」
「「「「「思わないわ。」」」」」
「・・・しくしくしくしく。」
「はぁ！」
ジュンコのヒートサーベルが赫い残光を残して切りかかる。マイヤは胸部のプロテクターを削られた。ジュンコの返す刀をかい潜って反撃をするマイヤ。
「ひゅっ！」
「はぁ！」
コォォン！
いい音を立てて剣と剣がぶつかり合う。２人とも汗びっしょりだ。全身密閉型のジュンコは、特に体力の消耗が激しい。
次に剣を受けた時、思いがけずジュンコの足がズルッっと滑べった。その隙をマイヤは見逃さなかった。
「のぁ！」
マイヤの電磁ブレードがジュンコの頭目がけて振り下ろされる！
「くぅ！」
ジュンコは身体を沈めつつ、後方にジャンプした！
ビシッ！っといやな音がした。マイヤの電磁ブレードがジュンコのヘルメットをかすめ
たのだ。
ジュンコのヘルメットの左目の部分が裂けてジュンコの目がむき出しになった。マイヤは、隙間からジュンコの瞳を見つめた。
「うふふふふふ。」
実に楽しそうに笑いを浮かべるマイヤ。ジュンコは舌うちを一つすると、ヘルメットを取り外して投げ捨てた。剣を持っていない方の手で汗に濡れた髪をかきあげる。
「初めて素顔を見させてもらったわ。結構美人じゃない。仮面なんかで隠すのはもったいないわ。」
「そんな厚化粧しているあんたに言われたくないわ。」
「これは、悪の女性幹部としてのポリシーよ。」
「なーにがポリシーよ！」
「あなた、どう？私達の仲間にならない？警察の給料の１０倍の給料を保証するわ。出動のあった日には特別手当も出しましょう。どうかしら。」
「ふ、ふざけないで！私は警察官としての誇りを持っているわ！お金なんかに釣られるわけないでしょう！！」
「そう。それじゃぁ、ここで死になさい！」
「それはこっちのセリフよ！」
２人の剣が空中で激突した。
レッダスは、レーザーライフルの充電完了のマークがでるのを確認した。
「よぉし。エネルギー充填完了。これで撃てるぞ。」
「どこに撃つんだ？」
「とりあえずさっきの屋根に置かれていたでっかい機械に対して撃ち込みたいのだが。」
「・・・・・・・確か、中央より南側に置かれていたな〜。あの機械。」
「南ってどっちだ？」
「あっち。」
操縦者が指さした方向を確かめて、レッダスは真上に銃を構えた。
「こんな感じかな。」
「俺は専門家じゃないからな〜。ま、そんなもんでいいんじゃない？」
「よし！撃つぞ！」
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！！」
ダダダダダダダダダダ。
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！」
ダダダダダダダダダダ。
馬鹿の一つ覚えのように突撃を繰り返すブルーダ。そのたびに銃弾を受け逃げ帰る。
「ぜいぜい。」
「マイヤ様の邪魔はさせませんわ。」
頼りなさそうな感じを漂わせるＭバニーがブルーダに言う。しかし、目は真剣そのもの。マイヤを敬愛してやまないバニーである。
そのとき、ブルーダは何かを感じた。
「！！」
次の瞬間、洗脳装置のど真中を下からのレーザーが貫いた！一瞬で融けて形が変形する。マイヤが驚愕の表情で振り向き、そして一瞬で何が起きたかを理解した。
「な！なに！！下から！！」
「隙あり！！」
マイヤの動揺に隙を見てジュンコが切りかかった！マイヤは反応できない！
「ぎゃぁぁぁ！！」
ジュンコのヒートサーベルがマイヤの左腕の肘の下からすっぱりと切り落した。床に電磁ブレードごと、マイヤの左腕が転がる。
「当たったかな？」
「もう１発撃っちゃえ。」
「そうするか。」
マイヤは、切り落とされた左腕を押えて呻いた。
「あ、あ、ああぁぁぁ。」
「ま、マイヤ様！！」
一番速く我に返ったのが、Ｍバニーであった。マイヤに向かって駆け寄りながら、ジュンコに向かって銃を発射した。ヘルメットをしていないジュンコは、慌てて頭を庇いながら後退した。
「マイヤ様！」
次の瞬間、真下からのレーザーがＭバニーを貫いた。下から、それも光速で接近するエネルギー波を検出することなんかできない。バニースーツの防御機構も無力であった。
「マ・・イヤ・・・・・・さ・・・・・・・ま・・・・。」
「あ、あ、あああああああああああ。」
「・・・・・・・・・・い、い、いや〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！なんでよ！どうしてよ！！」
混乱した目をしながら、義手バニーは義手である左腕をジュンコに向けて伸ばした。ジュンコは体勢を立て直そうとしていた時である。
「あなたなんか！あなたなんか！！！死んじゃえ！！ロケットパーンチ！！」
義手バニーの左腕の肘から先が噴射炎をあげてジュンコに向かって飛んだ。避けられない！！
「あ、危ない！！」
とっさにブルーダが、ジュンコに飛びかかった。ロケットパンチに背を向けジュンコの無防備の頭を抱える。
ロケットパンチは、ブルーダの背中で爆発した！
「ぐぅ！」
２人は、着弾の爆風で飛ばされ、特別展望台の外に放り出される！
「落ちる・・・・・・・。」
ジュンコは、ブルーダに抱えられたまま、落ちていく地上を見つめた。
・・・・・っと途中に邪魔があった。
ジュンコとブルーダの落下はわずか３ｍで止まった。
「がはぁ！」
「きゅぅ！」
ジュンコは一瞬気を失いかけたがなんとか、堪えた。ブルーダがクッションになってくれたおかげである。
ジュンコは辺りを見回した。真平らな大きな白いボードの上に乗っている！ すぐ横には特別展望台とその横腹に開けられた大きな穴がある。
「そうか。これは敵が機材を運んで来た運搬船ね。」
ジュンコはブルーダを見た。落ちてからはピクリとも動かない。
「し、死んじゃったのかしら。」
ジュンコが辺りを見回すと、特別展望台の中にいた男が２人、銃を持ってこっちに向かって来ている。ジュンコは慌てた。
「離れなくちゃ、離れなくちゃ。どうやって動かす！？」
ジュンコはボードの上を見回した。前方に何か操縦装置らしいものがついている。そこに向かって這うように駆け寄るジュンコ。
操縦装置は簡単であった。８方向ジョイスティックが１つとレバーが１つ、後はパワーボタンが１つあるだけであった。それが、床に据え付けてあるのだ。
「こ、こうでいいのかしら？」
ジュンコは、ジョイスティックを上方向に入れた。すぃ〜っといった感じでボー
ドが前方に、東京タワーから離れる方向に動きはじめた。
何か言い争っていた男２人は、ジュンコに銃を向けるとばりばりと撃ち始めた。
「わ、わ、わ。」
ジュンコはあわてて姿勢を低くした。床に伏せる感じで操縦管を動かす。ブルーダの身体が、銃弾を受けるたびにポンポンとはねる。ジュンコは、ブルーダはスーツを着ているんだから大丈夫でしょうと、思いつつ、レバーの方を手前に引っ張った。
「これが上下かしら。」
ジュンコの予想通りプラットホームはかなりの速度で下に落ちだした。銃弾が届かなくなった辺りで、ジュンコはレバーを緩めた。
「マイヤ様！マイヤ様！どうなされました！！！」
冷静バニーは焦っていた。展望台の警備を行っていたのだが、先程から特別展望台の方の様子がおかしい。しかも通信がつながらない。展望台には警官隊の連中がせめてきていて、死守するのが辛くなってきている。
まさか・・・という暗い考えを振り切ろうと思っていた時に特別展望台から通信が入った。
「ムサシだ。マイヤは負傷したので俺がかわりに指揮を取る。直ちにその場から撤退せよ。繰り返す。直ちに撤退だ。」
「わかりました。そちらは、どうなさるのです？」
「証拠隠滅のため、すべてを爆破する。５分後だ。その隙に逃げろ。」
「了解！」
「追伸だ。プラットホームは敵の手に落ちた。当てにしないでくれ。」
「わかりました。・・・全員撤退だ！！」
途中でレッダス達を拾ったジュンコのプラットホームは、ゆっくりと地上に着陸した。小さな爆発音とともに細かいガラスの破片が降って来た。
「きゃっ。」
慌てて頭を庇いつつ上を見上げる。展望台のあっちこっちが爆発して中からバニー達が飛び出した所であった。
バニー達は背中のジェットをひと吹かしすると、てんでばらばらの方向に飛び去った。本拠地を探られないための処置である。
「敵が撤退するみたいね。」
「正義は勝つ！！」
「・・・・・・。」
「ここにいるとやばい気がするな。俺はさっさと消えるぞ。じゃ。」
操縦者は、プラットホームから飛び降りるとすたすたと奥の方へと消えた。ブルーダはまだ、気絶したままである。
辺りは、警備の連中とか、負傷者を運んでいる連中とかがいるが結構閑散としている。しかし、東京タワーの奥の方は突入隊の連中がたくさんいて賑やかなようだ。
どど〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！！
突如として爆発音が襲って来た。次にかなりの衝撃波がやってきた。
「な、なに！？」
「あ、あれ・・・・。」
上を仰ぎ見たジュンコ達は、粉々になった特別展望台と、落下してくる大小さまざまな破片を見付けた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「「逃げろ！！」」
レッダスが、ブルーダを背負う。一気に猛烈なダッシュでその場を駆け抜ける。辺りにいた警備の連中もうろたえた。持ち場を離れ我先にと逃げ出す。
「ど、ど、どっちだ！？」
「あっち！」
一番最初に落ちて来た巨大な鉄骨は、ジュンコ達の乗って来たプラットホームを串刺しにした。爆発するプラットホーム。
東京タワーのてっぺんが特別展望台のあった付近からぎぎっといった感じで傾く。そのまま折れずになんとか留まった。
「た、た、助かった〜。」
「まだ危険ね。もう少しまってから移動しましょう。」
それから数時間後、『ぴょんこの会(仮)』のアジト。
「大丈夫かね。」
手術台に乗せられているマイヤに総統が声をかけた。憔悴しきったマイヤは、薄く目を開けると掠れた声で返事を返す。
「も、申し訳ありません・・・。作戦を失敗させただけでなく・・・大事な戦力まで・・・・失ってしまいました・・・・。」
マイヤの閉じた目から涙がこぼれた。
「もうよい。済んだことだ。後は、ゆっくり養生することだ。」
「・・・・・はぃ。」
総統は、マイヤのそばを離れると参謀の所に近寄った。
「どうだね。」
「マイヤは、失敗したといっておりますが・・・・・。現時点で洗脳率は約３５％。約７００万人の洗脳ができていると見てよいでしょう。作戦は立派に成功ですよ。」
「そうか。」
総統は、短く答えるとゆっくりと自室に戻った。
椅子にゆったりと腰かけると空を見上げて独白した。
「これで・・・・・・。逝ったバニーも浮かばれるだろう。」
担架に乗せられて運び出されるブルーダ。レッダスとジュンコがそれを見送る。
「ひとつ、聞きたいことがあるのよ、レッダス。あのレーザーを撃ったのはあなたよね。」
「はっはっは。そうだ。見事な射撃だったろう。」
「偶然、見事に、まぐれで、機械と敵のバニーに当たったから良かったものの、もし私達に命中していたらどうする気だったのよ！」
「・・・・・はっはっは。正義の弾は悪にしか当たらないんだ！！」
レッダスの頬をつたう一筋の汗。
「はっはっは、で済むか！！」
「あぅ。」
ジュンコの左上段回し蹴りがレッダスの顔面に炸裂した。
「ふぅ。・・・・・あの変態女性幹部が、このままおとなしく引き下がる・・・わけないわよね。とどめを刺せなかったのが悔やまれるわね。」
＜第２部完＞
次回予告
「こんな感じでいいかな？」
「はっはっは。正義は勝つ！」
「あなた達。少しは進歩してよ〜。」
カラーダインと『ぴょんこの会(仮)』の最後の決戦迫る！
「わしは、ただバニーが好きなだけなんじゃが。」
ライバル同志の激しい衝突。
「ほーっほっほっほっほ。ここがあなたの墓場よ！」
「いいからさっさとかかって来なさい！！」
そして友情。
「おおう。ブルーダ。お前に１万円貸りてたっけな。」
「分割払いはなしだぞ。」
愛と勇気と真実の
「秘密結社『ぴょんこの会(仮)』第３部完結編」
Sight!
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