秘密結社『ぴょんこの会（仮）』第３部
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第９章
東京都全域に対して、『ぴょんこの会(仮)』の洗脳作戦が行なわれてから、４年の年月が流れた・・・。
日本の首都東京は、その間に大きく変貌を遂げた。
洗脳による『ぴょんこの会(仮)』の勢力の増大、対抗する警察組織の武装化、自衛隊の壊滅と警察への吸収合併、大阪への遷都、等々・・・。
東京都心はほとんどスラムと化し、『ぴょんこの会(仮)』と警察の小競合いがあちらこちらで続く。３年前から定着した光景だ。たまに大きな作戦が起こるが、どちらもお互いに致命的なダメージを与えることができない。
また、そんな状態に危機感を持った市民が地域ごとに武装団体を作り、自警団の名乗りを上げ始めた。
そして、関東平野はますます、混迷の度合を深めて行くのであった。
所沢市。
かつてここには、街があった。しかし、今あるのは青々とした水をたたえた巨大な湖である。丁度１年前、ここにあった『ぴょんこの会(仮)』の所沢支部と警察の武装特殊機動隊との壮絶な戦闘があったのだ。
『ぴょんこの会(仮)』は、この支部の地下で攻撃機動衛星の建造をおこなっていた。もしこれが完成され、打ち上げられたら、『ぴょんこの会(仮)』は上空からの攻撃をおこなうことができる。その情報を得た警察は地元自警団と協力、これを破壊する作戦に出た。
奇襲を食らった所沢支部では、もてる全戦力で応戦。しかし、圧倒的の兵力を持つ警察が『ぴょんこの会(仮)』圧倒。約３０分で所沢支部は壊滅。
そして、支部長は最後の決断をし、基地の自爆をおこなった。
全てが終わった後には直径２Ｋｍの巨大なクレータが残された。その後、ここは所沢湖と呼ばれるようになった。
良く晴れ渡った冬晴れの空が、所沢湖の青い水面に映りこんで更に青さを増している。湖面に映った雲を湖のほとりから、眺めている１人の女性がいる。ロングコートに紫のエナメルのブーツ、手には菊の花束を持っている。顔立ちはちょっときつめの美人だ。良く手入れされた長い髪の毛がやわらかな冬の日差しを浴びて輝く。
彼女は随分長い間水面を眺めていた。
そして、ふと時計を眺めると少し顔を曇らせ、手に持っていた花束を湖に向かって放り投げる。ぱしゃっという音がして、湖に小さな波紋が広がる。それを見ながら女性は、口の中でなにかをつぶやく。
やわらかく吹いた微風が、冬の冷たい乾いた空気と、遠くの小鳥のさえずりを運んで来た。
その、静かで平和な刻は突然破られた。
「をっ、まぶいねぇちゃんがいるぜぇ！」
「本当だ！おい見ろよ。」
ジープに乗った５人ばかりの一団が、湖のすぐそばを通りかかったのだ。男は皆、銃を持ち、腕には「自警団」という緑地に白のワッペンを巻いている。この近辺、数個の街を取り仕切る自警団であろう。
ただ、男達は犯罪を取りしまるという方向から、著しく逸脱しているようであった。銃を持ってない方の手には、それぞれ酒を持ち顔を赤くしながら、女性の方へを迫って来たのだから。
「ねぇ、かのじょぉ、俺達といいことしないかぁ。」
「おねぇちゃん、美人だねぇ。ねぇねぇ。何色の下着付けてるのぉ。」
「ぎゃはは。やっぱり清楚に白かなァ。」
「いやいや、案外黒い下着で俺達を誘ってるのかもしれないぞぉ。」
「はあはあ。ねぇちゃん早くぬいでくれよぉ。」
なかには、銃口を女性側に突きつける奴まで出て来る。
そんな男達を女性は冷たい眼で睨んだ。
「屑め。」
女性は、露骨に嫌悪の表情を浮かべ、するどく言い放つ。
「なっ。」
この一言で男達は一気に酒が覚めたような顔をした。そして次の瞬間、さっきよりも顔を赤くして女性に詰め寄った。
「なんだと！俺達を誰だと思っていやがる！」
「この辺一帯を取り仕切る所沢自警団だぞ！この辺りの平和は誰が守ってやってると思ってるんだ！！」
「そうか？私にはお前達が一番平和を乱していると思うがな。」
女性は冷笑を浮かべた。
「よかろう。お前達は私に脱いで欲しいのだろう。脱いでやろうじゃないか。」
思わぬことを言われて、男達の動きがとまる。
女性は、ゆっくりとコートのボタンをはずした。
男達は、「おお」という感嘆の声とともに身を乗り出す。
ふわさっ。
投げ出されたコートが一瞬男達の視界を奪う。次の瞬間、男達の目に驚愕の瞬間が飛び込んで来た。
「おほほほほ。」
先程の女性は、すでにどこにもいなかった。代わりに、厚く化粧をした紫色の全身鎧を着た１人の女性が立っていた。女性を見事に現したやわらかい曲線を持った鎧だ。そして胸には、燦然と輝くバニーマーク。
５秒ほどして、男達は我に返った。
「ぴょ、『ぴょんこの会(仮)』だぁぁぁぁぁぁ！！」
「だ、大幹部！？」
「マイヤだ！」
男達は、あわてまくって銃の安全装置を解除しようとする。うち、１人がようやくはずして撃ち始める。しかし、マイヤにはかすりもしなかった。
「ほーっほっほっほっほっほっほっほ。時間よ。滅びなさい！自警団ども！！」
マイヤは、腰のビームライフルを抜き放つと１斉射する。次々とビームに貫かれ倒れ伏す男達。
最後の１人が倒れた瞬間、所沢湖すれすれに巨大な輸送機が飛び込んで来る。押しつぶされそうなほど、すぐそばを通過する輸送機に、マイヤは、髪を揺らせながらかすかに目を細める。吹き上げられた水飛沫と一緒に、空からバニースーツを着込んだ女性達が降って来た。
「予定通りに自警団本部へ向かって侵攻。いくわよ！」
ふわっと髪をかき上げたマイヤが指示を出す。５人毎に組みになったバニー戦士達はそれぞれ飛び跳ねるようにして街へと侵攻を開始した。
警視庁の廊下で、ジュンコは嫌な顔に出会って、眉を曇らせた。
「やぁ、ジュンコ君。元気そうだな。」
「これは、警部補・・・いえ、警視総監どの。」
完全に無表情になって、かつての上司に敬礼を返すジュンコ。
「はっはっは。いい情報を教えて上げよう。あれが、もうじき完成するよ。」
「・・・・。」
「あれが完成すれば、もはや敵はいない。そうなれば君の仕事もなくなるかな。」
「・・・・。」
「ははは。どうだ、また婦警として交通整理でもやるか。はっはっはっはっは。」
かつーん、かつーんと靴音を響かせて立ち去る警視総監をジュンコは震える拳を握り締めて見送った。
「・・・・。」
「見えたわ！自警団本部！」
自警団のバリケードを次々に突破して、マイヤは自警団本部のそばまで兵を進めた。自警団の主力は機関銃程度。この程度ならばバニー戦士には傷もつけられない。さすがに、本部近くは、重機関砲やらハイメガ粒子砲やらが多数備えてあり、うかつに近寄ることは難しい。
「極楽バニーいる！？」
「はい。マイヤ様。」
「重装バニー隊が遅れてるの。今の戦力の機動力をうまく使って敵を消耗させて。重装バニーがついたら一斉攻撃よ。」
「了解です。」
その時、マイヤは敵の本部の倉庫と思しき所から出て来た車両を見て目を大きく見開いた。
「９０式(改)浮遊戦車！？情報にはなかったわよ！！」
９０式(改)浮遊戦車は、１年程前に自衛隊崩壊直前に作られた戦車である。量産ラインにも乗らず、製造台数は１０台もない。ベースは９０式戦車であり、形もほぼそのままだ。しかし、キャタピラ部分はなく代わりに反重力浮遊システムが分厚い装甲板で囲ってある。反重力で浮遊してどんな不整地でも時速８０ｋｍほどの速度で移動できる。全周電磁バリアシステムを備え、パルスレーザー砲を数門備える。主砲は１２０ｍｍ荷電粒子砲である。
「全員散開！」
マイヤがどなると、同時に９０式(改)戦車の１２０ｍｍ荷電粒子砲が拡散度最大で火を吹く。豪雨のような音とともに、ビルと言わず道路と言わず穴ぼこだらけになる。マイヤの立っていた場所も例外ではない。
狙われた大半のバニーは大きくジャンプをして粒子の嵐をやり過ごす。しかし、中には避け切れないで直撃を食らったものもいたようだ。
マイヤも空中待避組である。マイヤは、空中１０ｍ付近で体制を立て直すと、ビームライフルを構えた。自由落下で降下しながら、９０式(改)戦車に向かってビームを乱射する。
「ビーム拡散コーディングしてある装甲に、こんな火器では・・・。」
着地したマイヤは、状況を見て次々に指示を出す。
再び９０式(改)の荷電粒子砲が火を吹く。また、２、３人のバニーが戦闘不能に陥った。さすがにバニーの内蔵している電磁バリアー程度では、１２０ｍｍ荷電粒子砲の直撃は受け切れない。
今の戦力では、９０式(改)を倒すのは力不足だ。このままだと、退却もやむ終えなくなるかもしれない。マイヤは顔を曇らせる。
その時、マイヤの脇に煙草を咥えたバニーがひょっこり現れた。
「マイヤ、重装バニー隊２０名、到着したぜ。」
「乱暴バニー！？遅い！急いであの９０式(改)に集中砲火。ビームは効かないからミサイルを使って！」
「ありゃ、あんな骨董品良く使うな。ま、いいか。重装バニー隊前へ。トップアタックとミサイル用意。大判振る舞いだ。出し惜しみなしだ。・・・いいか？撃て！」
重装バニー２０名からミサイルおよび上空からの熱弾攻撃が９０式(改)に集中する。
１通りの爆炎が収まった後も、９０式(改)は原形をとどめていた。とっさに移動して直撃を減らしたようだ。
「まだ動く？」
「自衛隊のお下がりだけじゃなくて、改造までしてあるの。暇だね。」
集中砲火に耐え切った９０式(改)の主砲が、目標を求めて動き回る。
っと、９０式(改)のすぐ脇に空から３体のバニーが降り立った。
「いくよ。」
「そぉれーぇ」
「よーい」
３体のバニーは９０式(改)の片側に回りこむと下の装甲板をつかんで持ち上げ始めた。９０式(改)は慌ててパルスレーザーを乱射するが、そばに立ったバニー達には死角になって当たらない。
「よいしょっと！」
「えんやっと！」
「ほいさっ。」
自重数トンの戦車が、ぐらっと揺れた後一気に傾く。９０式(改)は慌てて後ろに下がろうとするが、もはや傾きは止まらない。
３人のバニーにも応援がついた。１０数人のバニーが全員で一斉に９０式(改)を持ち上げる。残存の自警団がバニー達に銃火を浴びせるが、重装バニーがそれを黙らせる。
「せいやぁっと！」
がっしゃんという大音響とともに９０式(改)がひっくり返る。９０式(改)はその後もじたばたとしているが、もうどうにも動きが取れない。反重力の浮遊システムは、底面にしかないのだ。
「ふぅ。一時はどうなるかと思ったわ。・・・乱暴バニー、撤退を援護して。これ以上時間をかけると警察がやってくるわ。潮時よ。」
「マイヤも先にいったらどうだい。ワタイの方は、大したことないからさ。」
「・・・わかったわ、乱暴バニー。じゃぁ、後衛は任せるわ。」
「重装バニー全員、拡散粒子砲用意。生命反応があるところにかたっぱしからぶち込みな。大丈夫、バンピーな奴はここいらにはいやしないさ。」
しつこく銃撃してくる場所に、ナパームを撃ち込みながら、乱暴バニーはふっと後ろを振り向いた。マイヤが、まだそこに立っていて、空を見上げている。
「どうしたのさ。」
「え？・・・いえ・・なんだか、ね。」
「らしくないな。」
「・・・・。じゃぁ、先にあがらせて貰うわ。」
「ああ。」
装備開発室サブコンピュータールーム。
あまり広くない部屋に詰め込んだコンピュータ施設。その薄暗く狭い部屋に１人の人影があった。白衣を着た年配の男である。彼はじっと目の前の巨大なディスプレイを眺めていた。
「教授、こちらにおいででしたか？」
いきなりドアが開いて、１人の女性が入って来た。婦人警官の服装をしているが、右腰に下げた２０ｃｍほどのバトンがなにか異質な感じをうける。見る人が見れば、それはライトセーバーであることに気付くであろう。
「おお、ジュンコ君か。入り給え。」
「教授、また、会議を逃げ出したのですか？補佐長が怒っていましたよ。」
「私に関係ない議題を打ち合わせるのに、私は必要あるまい。苦痛なのだよ。あのような会議が。」
「おっしゃることはわかりますが。」
ジュンコは、困ったような顔をした。ふっと教授がみていたディスプレイを見上げる。その眼が驚愕に見開かれた。
「こ、この映像？」
「うむ。所沢での戦闘の映像だ。リアルタイムだぞ。」
「所沢？２０分前に自警団から応援要請がでていました。第２０武装機動小隊が派遣されたはずです。まだ、着いてない？」
「そうだな。状況は『ぴょんこの会(仮)』側の圧勝だ。連中、撤退を開始しておる。こちらの部隊はもはや間に合うまい。」
「足留め食らってるのでしょうか。」
ジュンコは、驚愕からさめるとじっくりと映像をチェックした。どこからかの衛星からとってる映像だろう。荒い粒子の画面からは『ぴょんこの会(仮)』がどのように配置されなにをしているのかが手に取るようにわかる。もう、爆炎が激しくなって市街地中心の様子は見難いが、そこはもう戦闘は行なわれてないようだ。
ジュンコは、映像から目をはなさず、教授に聞いた。
「いつの間に衛星なんて打ち上げたんです？」
「打ち上げる？・・・いや、これは米国のスパイ衛星の映像だよ。」
「え”。またそんなことを・・・・。」
「はっはっは。だからこんなサブルームでひっそりとやっておるんじゃないか。勝手に使ったなんてわかったら、顔を真っ赤にして抗議してくるからな。」
「・・・！？い、今のここ！！ここを拡大して！！早く！！」
ジュンコは、突然血相を変えてディスプレイの１角を指差して教授に詰め寄る。教授は顔を引きつらせながら、キーボードを叩く。
「ま、待て、これはハッキングしてるんだぞ。そう簡単に・・・。」
「いいから！早く！」
「よし、できたぞ。ここだな。」
マウスで四角く切り取られた場所が拡大される。市街地から離れた高台で、２人の人間の姿が見える。１人は明らかにバニーだ。もう１人は・・・。
「をのれ、マイヤめ！！こんなところにいたのか！！！！！！うくくくくくくくく。」
「・・・・。」
「会議なんぞに出てないで、さっさと応援にいくんだった。大失敗だわ！！」
マイヤの姿を見ながら、拳を震わせるジュンコ。ふと、画面の中のマイヤが上を見上げて、にっこり笑いながらピースサインをした。（ように見えた）
「ま、マイヤ許さん！！」
「ひっ。」
ジュンコの正義の鉄拳がディスプレイのマイヤを直撃した。火花と爆発音が轟き、巨大なディスプレイが粉々に砕け散る。
「こ、今度会った時にはこんなものではすませないからぁ！！」
第１０章
冷静バニーと彼女が指揮する小隊１２人程が、ヤマトに連れてこられたのは所沢湖であった。ここの自警団が壊滅してから、一ヶ月ばかりがすぎた。もはや、この辺りは人も住まず不毛の地となりはてていた。
荒れ果てた土地に、冬の弱々しい太陽の光を浴びて、枯れ草がざわめく。見れば見るほどさびしい光景だ。
「こんなところにいったい何のようなのかしら？」
小首を傾げる冷静バニーに、ヤマトはついてこいと合図する。そして自ら乗るパワードスーツを湖に飛び込ませた。重いパワードスーツは、派手な水飛沫とともに湖に沈んで行く。それを見て、冷静バニーも鼻をつまんで飛び込む。
雨水のたまった所沢湖は視界が悪かった。ヤマトに遅れないように、慌てた冷静バニーは、一生懸命泳いでパワードスーツに掴まる。こうして１小隊分の重みを抱えたパワードスーツは、ぐんぐん湖底へと沈んで行く。
「どこまで行く気かしら？なにがあるのかしら？」
やがて、ごつん、という音とともに湖底についたパワードスーツは、明かりを付けて辺りを探し回る。冷静バニーはパワードスーツに掴まったままだ。辺りは真っ暗で視界はないに等しい。ここではぐれたら、どうしようもなくなるかもしれない。
しばらく、辺りをうろついたパワードスーツが立ち止まったのは何の変哲もない黒い岩がむき出した所であった。パワードスーツの目の部分からヤマトが何かの計器を操作したのが見える。
冷静バニーは、ちらっと横の副官のバニーを見た。ライトのかすかな明かりのしたであるが、随分不安そうな顔をしている。自分もそうなのかもしれない、と冷静バニーは思った。いきなり、わけもわからずこんなところに連れ込まれたのだから。
パワードスーツから、なにかの音波が発せられたのが感じられる。それに呼応するかのように目の前の岩肌がいきなり裂けるようにわれ、エアロックのようなものがむき出しになる。パワードスーツのライトに照らされ、アシュクテクタイト合金が光り輝く。
「所沢支部！？」
思わず冷静バニーは口走る。水の中では小さな気泡にしかならなかったが。
なぜ、自爆して壊滅したはずの所沢支部のさらに地下に建造物があるのだろう？
エアロックを抜け、呼吸が可能な領域に入ってから、さらに３層程下へと進んだ。そして、最後の分厚い耐熱シールドされた扉を通ると、そこは巨大な空間が広がっていた。
「な！なにこれは！！」
広大な空間は、上の爆発の影響を受けたらしくあちこちで崩れ落ち瓦礫が山をなしていた。しかし、目を引くのはそんなものではない。中央に横たわる巨大な鉄の船らしきものが傾いて置いてあるのである。埃をかぶって真っ白で、船首部分は瓦礫に埋もれている。照明が数少なく全容を見渡すことはできないが、あきらかに船の形をしている。
「うちの切り札だ。」
パワードスーツから這いだして来たヤマトが口を開いた。全員、一斉にヤマトの方を振り返る。
「これが、我々『ぴょんこの会(仮)』切り札、『宇宙戦艦バニーシップ』だ。」
「バニー・・シップ・・・。こ、これが・・・。」
「そうだ。所沢支部が作っていたと言われている戦闘衛星なんてものは、これの実験データをそろえるためのものにしかすぎん。」
「で、では、所沢支部は・・・！？」
「支部長はよくやってくれた。これの存在を隠すために、この上を全て吹き飛ばしたのだからな。おかげで、我々はこれの建造を進めることができた。」
冷静バニーは、改めて船を見直した。外見からでもすごい武装なのが判別できる。これならば、この地球上に敵はいないだろう。
「この船は、いままで大幹部と整備の技術者しか知らないトップシークレットだった。今から君達が加わる。」
「なるほど。この前の自警団掃討作戦は、こいつへ技術と人員を投入するための・・・。」
「そうだ。そのとおりだ。君らが第１陣となる。この船の操船技術、戦闘技術等々を習ってもらう。よいかな。」
「「「はっ。」」」
桜田門警視庁庁舎。
警視庁の地下はシェルター化され、現在ほぼ総ての機能が地下に移されている。地上の建物は、ほぼ空であり、もし大事が起きても損害が少ないようになっている。
今、シェルターの中は、かつてないほどの沈黙に包まれていた。誰もが息を潜め、じっとＴＶ画面、あるいは天井のスピーカーを見つめる。
「我々は、４年待ったのだ。」
熱い感動にあふれた警視総監の声が、警視庁の全フロアー、全シェルター内に響き渡る。総ての職員がその言葉を聞く。
中央作戦司令室の一段高くなった総指令官席から、警視総監がマイクを握って言葉を綴る。
「だが、待つのもこれまでだ。いままで我々は、世界の平和を乱す『ぴょんこの会(仮)』に対して受け身でしかなかった。だが、これから反撃に移る。」
特別機動隊のパワードスーツ格納庫で、ブルーダとレッダスは無表情に空を見上げる。
「今までは、我々の装備では奴等と互角にしか戦えなかった。だが、これが完成した今、我々に敵はいない。」
装備開発部で、湯飲みを握った教授がにやりとする。そして、熱いお茶を一口すすった。
「我々は、４年待ったのだ・・・・。」
感動のあまり震えている警視総監の声を聞きながら、ジュンコは拳を握り締めた。
「今こそ！この状況に終止符を打ち、平和な日本を取り戻そう！」
「「「ををぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー！！！」」」
警視庁、総ての職員の拳が振りあがり、唱和した雄叫びがこだまする。
中央作戦指令室の中でそれを聞いた警視総監は、そっと手袋で涙をぬぐった。警部補時代にこれを提唱し作り始めてから４年。幾度の辛酸をなめつつもここまでやってきた。だが、これで終わりだ。日本の平和を守るのは正義の味方でも、ましてや『ぴょんこの会(仮)』ではない。この私だ。
警視総監は拳をぎゅっと握り締め、帽子をかぶりなおすと次の指示をくだした。
「では、作戦を開始する。全員第１級戦闘体制。」
「総員、第１級戦闘体制。全隔壁クローズ。」
オペレータが、各部に一斉に指示を出し始める。警視庁内部は急激に慌ただしさを増した。
「全タキオン反応炉起動開始。」
「タキオン、注入開始。フライホイール始動１０秒前。」
「タキオン粒子濃度、自立発電限界まで上昇。全て問題なし。」
「約１２０秒後に臨界レベルへ到達。」
機関部からの反応に警視総監は大きくうなづいた。
「タキオン反応炉１番から１２番まで、全機臨界レベルへ到達！」
「３番の出力に異常発見。」
「・・・問題なし。冷却システムの調整で保てるレベルである。」
「全タキオン反応炉、連動システムに連結！」
「計器類オールグリーン。全て許容範囲内。」
１人の警部補が警視総監の前に立つ。
「全部署、所定の配置に付きました。」
「よろしい！！『警視庁ロボ』発進！！！」
その日、桜田門は急激な地震によって遅い朝を迎えた。波打つ大地、崩れ落ちる地上建造物。警視庁庁舎がまっぷたつに叩き割れ、そしてなかから巨大な鉄の手が伸びる。すぐその後、巨大な人型のものが立ち上がる。
巨人は、ゆっくりと手を伸ばすと這いあがるようにして起き上がる。
その巨大な姿は、数キロ離れたところからでもはっきりと見ることができた。
「くくく。くっくっく。はーっはっはっはっはっはっはっは。見たか『ぴょんこの会(仮)』！待っていろ！今、この警視庁ロボがお前達を踏み潰しにいってやる！」
中央作戦指令室で大口をあけてに高笑いをする警視総監。見晴らしの良い全周スクリーンには、皇居が、そして霞がかかった上野方面が見える。
ふっと笑いをおさめた警視総監は、１段下で全周スクリーンを見上げる３人へ視線を落とした。
「どうだね。いい見晴らしだろう。正義の味方の諸君。」
にやにやと笑いを浮かべる警視総監に、ブルーダ、レッダス、ジュンコの３人は無表情に見返した。
「これがあれば、『ぴょんこの会(仮)』なぞおそるるに足らん。特別機動隊なんぞ必要ない。もちろん、君達もだ。」
ジュンコの右拳がかすか震えているのを見て、警視総監はさらに大きな笑みを浮かべた。
「はっはっはっはっは。はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは。」
ブルーダ達３人はまた、無表情に全周スクリーンを見上げるのであった。
「よし！警視庁ロボ前進！目標は、『ぴょんこの会(仮)』本部がある上野だ！」
上野。
『ぴょんこの会(仮)』の完全支配地域であり、本部の所在地でもある。地域ほぼ全部が武装化され今まで警察の攻撃をものともしなかった土地である。
『ぴょんこの会(仮)』本部といっても、居城とかがあるわけではなく、主要機関が地下に分散され配置されている。一部を破壊されても全体に影響がでないようにとの配慮である。
各本部の位置は極秘とされているが、実に単純に配置されており、等間隔に６角形を描いている形である。そして、そのほぼ中心地点にある雑貨ビル。その地下には『ぴょんこの会(仮)』の最高責任者、総統の居城が存在する。
黒を基調にしたただっぴろい部屋の中央に椅子に座った総統がいた。そして、その正面には完全武装のマイヤが立っていた。
「総統閣下、警視庁から巨大な人型のマシンが発進したとのことであります。」
完全に事務的に無表情に告げるマイヤ。対する総統の答えもなんの感情も入っていなかった。
「そうか。噂に聞いた警視庁ロボだな。で、到着予定時刻は。」
「推定１時間ほど。１１時ごろには戦闘可能区域へ到達するかと。」
「倒せるかね。」
「現存する上野の戦力では、無理かと思われます。」
「そうか・・・。バニーシップの方は？」
「素粒子崩壊炉の調整に手間取っているようです。その他はほぼ全て装備完了しています。今、隊長クラスのバニー達が訓練を受けています。」
「間に合うかね。」
「・・・。」
「そうか。だが、今は動かすよりしかたがあるまい。」
「御意。」
総統は、ゆっくりと椅子から立ち上がる。そのまま、悠然と部屋に１つしかない扉に向かって歩く。影のようにマイヤが従う。
「では、本部全員に対して撤退命令を出せ。本部の全防御装置はフルオートで起動。３５分後に、本部を自爆する。・・そんなものでどうこうなるものであるまいが、足留めくらいにはなるだろう。」
「了解いたしました。」
総統とマイヤが消えた部屋は、真の静寂に包まれた。
第１１章
朝、桜田門付近を震源とした地震は、お昼前に関東全土を覆う大地震となった。震源地は上野の地下２０ｍ付近、６ヶ所同時であった。
『ぴょんこの会(仮)』本部の自爆装置である。核並の威力を誇る爆発が、６ヶ所同時に起こったのではひとたまりもない。上野は、直径１０ｋｍ程のマグマの溜まる巨大なクレータの底となり壊滅した。
「ふん。自爆装置か。芸のない奴等だ。」
警視庁ロボの中央指令室で警視総監がつぶやく。目の前の全周スクリーンには、マグマに沈没した上野の街がかげろうを盛んに立てながら映ってる。
「被害状況をしらせ！！」
警視総監が言う。各部と連絡を取り合うオペレータ達。やがて、警部補の１人がフォルダーを抱えて警視総監の所へあがって来る。
「報告します。今の戦闘、および爆発による死者０、負傷者２名、いずれも軽微です。第１次装甲板の被害度３８％。これは電磁バリアーで受け切れなかった土砂によるものです。第２次、および第３次装甲板への損傷なし。電子機器および、電子頭脳のチェックにはあとしばらくかかる模様です。これは、電磁パルスのため、電子機器に相当なストレスがかかったためです。反応炉も電磁バリアーにエネルギーをかなり使いましたため、いましばらくのチェックが必要とのことです。」
次々と被害を読みだす警部補。これだけの爆発をまじかで浴びながらも警視庁ロボは、びくともしなかった。さすが、警察が総力を上げて作り上げたロボットだけのことはある。
「わかった。で、いつから行動開始できる？」
「移動だけというならば、すぐにでも可能です。電子機器のチェックに予想外に手間取りそうなので、戦闘ができるのには、５時間くらいかかりそうです。」
「わかった。それまでの間に『ぴょんこの会(仮)』の動向の方をチェックしよう。さがってよろしい。」
「はっ。」
「総統万歳！」
「世界を我が手に！」
『ぴょんこの会(仮)』総統が、所沢湖底に到着するとあちらこちらから声があがる。バニーシップの整備をおこなってる連中だ。総統は、手を軽く上げた。
「皆のもの。後、数時間もすれば警視庁ロボがここへやってくるだろう。整備を急いで欲しい。」
「おぅ！」
威勢の良い掛け声を上げながら、俄然張り切って仕事を続ける整備員達。皆、連日の徹夜で疲れ切ってるのに必死になってる。総統は満足そうにそれを見ると、ゆっくりと船の中へ歩を進めた。
船の中は、足場が悪かった。なにしろ、傾いているのだ。狭い暗い通路をゆっくりと壁に手を付きながら総統は歩く。後ろを、マイヤが影のように従う。
「総統閣下。お待ちしておりました。」
傾いたエレベータからブリッジにあがると、ムサシ、ヤマト以下バニー達が敬礼をして迎えてくれた。総統は、軽く手をあげそれに答える。
「なるほど。これがブリッジか。見事なものだ。」
「ありがとうございます。」
総統がざっとブリッジを見回して声を発する。バニー連中は、敬礼をした後は各部と連絡を取るために、またブリッジの各所に散ってる。
「本部が、壊滅した今、ここが我々『ぴょんこの会(仮)』の本部となる。ということで、各人の配置を今、発表する。まず、ムサシ。」
総統がいきなりムサシに言葉をかける。思わず、胸を張ったムサシに総統は微笑みながら言う。
「お前には、バニーシップの艦長を勤めてもらう。よいな。」
「は・・・はぃ！！つ、つつしんでお受けします。」
「よろしい、次、ヤマト。お前には、同じくバニーシップの副官を勤めてもらう。ムサシと協力して欲しい。」
「はぃ！」
「うむ。次はマイヤだ。お前さんは、今までと同じくバニー達を率いて戦闘隊長として活躍してもらう。よいかな。」
「ええ、よろしいですわ。」
総統の言葉に、マイヤは目を細めてにやりと笑った。そんなマイヤを頼もしそうに見つめる総統。
「では、頼むぞ諸君。世界を我が手に！」
「「「世界を我が手に！」」」
「見つけました！所沢湖の地下と思われます！！」
「なに！？」
本部爆発の直前に逃げ出したバニー達の行方を追いかけていた警察であるが、意外な場所で発見をしたようだ。
フォルダを小脇に抱えた警部補からの報告を聞いた警視総監は、眉を潜めた。
「所沢だと！？あそこは爆発でふっとんで、湖しか残ってないはずだ！」
「ですから、地下です。爆発痕をカモフラージュにして、所沢湖のさらに地下に基地を作っていた模様です。」
「なるほど。道理で見つからないわけだ。まぁよい。いますぐ、踏み潰しにいってやる。・・・警視庁ロボ、前進だ！」
「し、しかし、まだ各所のチェックが完了しきっていませんが・・・。」
オペレータが慌てた声を出す。
「奴等に逃げられたらどうする！前進しろ！」
「警視庁ロボに発見されたようです。推定攻撃開始時刻１５分３０秒後。」
「まぁ、あれだけの人数が逃げ込めばなぁ。」
警視庁ロボが迫って来る姿を映像で見ながら、ヤマトが独白する。上野の爆発が目くらましになっただろうが、本部にいた全ての人間が移動すれば見つかりもする。
艦長席の計器をチェックしていたムサシが、顔を上げ、叫ぶ。
「よし！いけそうだ！外部作業員は全員撤収させろ！エンジン始動準備！急げ！時間がないぞ！！」
「機関室。補助タキオン反応炉始動開始、および素粒子崩壊炉の暖気開始。」
「各人、装備の再チェック。一発で起動できなければ、お陀仏だ。急げ！」
「警視庁ロボ、更に前進。推定攻撃開始時刻は１０分後に早まりました。」
「タキオン反応炉はまだか？」
「タキオン、正常。起動開始。臨界まで約１００秒。」
警視庁ロボは、ぐんぐん迫って来るのに反応炉の出力はのろのろとしかあがらない。ムサシは、額に汗をびっしりと浮かべながら、計器を覗きこむ。ヤマトも、各部に指示を飛ばしながら、同じ様に汗をかきながら計器を見つめる。
「間に合ってくれよ。」
「タキオン反応炉。臨界点突破！！」
「よし！！素粒子崩壊炉に繋げ！！」
「素粒子崩壊炉の暖気が十分ではありません。起動に失敗する可能性５８％。」
「かまわん！繋げ！今起動しなければ、永遠に起動しないぞ！！」
「警視庁ロボ、射程内に到達。３０秒後に攻撃が開始されると予想されます。」
ムサシは、額の汗をぐぃっとぬぐってモニターの警視庁ロボを見つめる。っと、その全身に無数の穴があき、砲身がむき出しとなる。次の瞬間、無数のビームとミサイルが所沢湖に降り注いだ。
「うぉ！」
衝撃で、傾いていたバニーシップが更に傾く。ぐらぐらと揺れる艦長席で必死になって身体を支えながら、ムサシはマイクに向かってどなる。
「機関室！！素粒子崩壊炉に繋げ！！」
「つ・・な・・。・・・・ま・・・・た。」
轟音でなにをいってるかは聞き取れなかったが、タキオン反応炉のエネルギーが急速に素粒子崩壊炉へつぎ込まれているのが計器から見て取れる。素粒子崩壊炉のエネルギー総量を現す針が、自力で発電を開始する点の半分のところで震える。
「いってくれ！頼む！」
激しい揺れに耐えながら、必死になって計器を見つめるムサシ。もはや正面モニターはなにも映しだしていない。外のカメラが攻撃にやられてしまったのだろう。
「頼む！」
警視庁ロボの中央作戦指令室で、ブルーダとレッダス、そしてジュンコが全周スクリーンを見つめていた。ミサイルとビームで所沢湖は沸騰し蒸気で前が見えないほどだ。
「こんなものなのか？」
「警視庁ロボは否定する気はないが、な。」
男２人は不満そうである。元来、正義の味方は圧倒的火力で相手に襲いかかるなんてことはやってはならないものなのである。理性が納得しても心情穏やかではないのだろう。
「これはもはや戦争よ。個人の意思なんて捨て置くものなのよ。」
２人を諭すジュンコの顔にも不満そうな色が浮かんでいる。全周スクリーンを瞬きもしないで見つめながら、誰にも聞こえないようにぼそりとつぶやく。
「出て来なさいよ。こんなものでやられるあなたなの、マイヤ。」
立っていられないほどの振動の中、待機室の中でじっと腕組みをして座っている女性が１人。マイヤである。どんなに揺れてもその姿勢を変えずにいる。その回りには、７人のバニーがいる。全員、じっとマイヤを見つめている。Ｍバニーを始めとして、４年で随分欠けてしまったが、最初から一緒にやってきた仲だ。覚悟は出来ている。
艦長席では、ムサシがまだ、計器を見つめていた。タキオン反応炉をつないですでに２分あまり。いつもならば、起動失敗とみなされ再起動処理が取られるところである。だが、今はそんな余裕はなかった。
ぐあぁぁぁんという大音響とともに、また船体が大きく震える。上から岩盤が落ちて来たのだろう。所沢湖湖底の岩盤は、何重ものアシュクテクタイト合金で補強がなされているが、そんなものがいつまでも持つわけがないだろう。
素粒子崩壊炉にエネルギー供給する２機のタキオン反応炉のエネルギーは底を尽きそうだ。針はほぼ０の部分を往復する。
「あがれ！あがれ！」
ムサシの前の素粒子崩壊炉の針がいきなり飛ぶように跳ね上がった。一気に自立起動臨界点を突破して針が振り切れんばかりに震え上がる。
「た、立ち上がった！！」
激震の中、ムサシとヤマトは目を合わせる。そして同時に叫んだ。
「反重力フィールド形成！！」
「艦体起こせ！！」
「え、エネルギー反応検出！！」
悲鳴に近い声が、警視庁ロボの指令室に響き渡る。周囲の視線が一斉に、声を発したオペレータに集中する。
「と、所沢湖湖底下約３０ｍ！え、エネルギー総量１兆２千億ｋｗ！！！」
「な、なに！？タキオン反応炉を１０機束にしてもそれだけ出ないぞ！！」
「い、移動を開始しました！！あがって来ます！！」
「撃ちかた止め！！」
警視総監の一声で砲撃がぴたりとやむ。
「主砲用意！敵の出現と同時に打ち込め！」
傾いていた艦体が、反重力フィールドによって正常位置に戻る。艦体に山と積まれた瓦礫がフィールドによって吹き飛ばされる。
振動がぴたりとやんだ艦内で、ムサシは立ち上がって指示を出す。
「電磁バリア最大。同時に上昇をかけろ！一気に所沢湖を抜ける！」
「了解。推力最大へ。素粒子崩壊炉、エンジンへ接続。」
「電磁バリア展開、最大出力へ。」
「上昇開始。推力１６万８千トン。」
電磁バリアが、天井岩盤にぶつかる。ぶつかった部分を原子に還元し、吹き飛ばしながら、バニーシップは上昇を開始した。
「所沢湖湖面までの距離３９ｍ。到達推定時間４０秒。」
「各ブロックの戦闘準備完了。いつでも始められます。」
「ムサシ。」
各部の指示の合間の中、ヤマトがムサシに話し掛ける。
「敵はこっちが出た瞬間を狙うはずだ。どうする？」
「素粒子崩壊炉の電磁バリアなら、受け切れるはずだ。それからだよ。問題は。」
眉を曇らせるムサシに、オペレータの声が響く。
「岩盤突破！所沢湖湖底に出ます！！湖面到達まで後１２秒！」
「敵到達まで約１０秒！」
「撃ち方用意！」
警視庁ロボの右手に当たる部分が前方を指差す。手に当たる部分が大きく腕の中に引っ込み巨大な砲口と変化する。辺りから光が集まり、砲へ集中する。
「出ます！」
所沢湖を引き裂いて巨大な船が飛び出す。水と水蒸気が電磁バリアに反応して光輝き、艦体の腹にかかれた巨大なバニーの絵を浮かび上がらせる。
「原子力ビーム、撃て！」
警視庁ロボの巨大な右手から、極太の黄色いビームが発せられる。が、それは警視庁ロボとバニーシップの間の空間で弾け散るようにして消え去る。
「バリアか！？」
「うお。」
警視庁ロボの主砲、原子力ビームを受けてバニーシップは大きく揺れた。だが、さっきまでの集中砲火を浴びていた時と比べるとなにほどのものでもない。
「あ、あぶなかったぁ。」
計器を見つめていたヤマトはほっと胸をなで降ろした。一瞬とはいえ、バリアの負荷が９０％を越えたのだ。原子力ビームにもう少し威力があれば貫かれたところである。
「警視庁ロボ、電磁バリアを展開。」
「にらみ合いか。」
ムサシは前方スクリーンの警視庁ロボを睨んでぼそりと言う。
「さて、どうでてくるか。そして、どうするか。」
第１２章
「げ、原子力ビームでも敗れないのか。あれは・・・。」
全周スクリーンに浮かぶバニーシップを睨んで警視総監は独白する。
「だったら、勝負だ。警視庁ロボ、前進開始！奴を捕まえて引きずり落とせ！」
「無茶です！電磁バリアがあるんですよ！それに足元は所沢湖です！！」
警視総監は、ちらっと下へ目を落とす。ジュンコ達が無表情にスクリーンを見つめている。だが、警視総監は、ジュンコの顔にかすかな笑みを見つけた。
顔を赤くし、青筋を立てながら警視総監は怒鳴った。
「無茶は承知だ！叩き落とせ！！」
警視庁ロボがゆっくりと前進を開始する。それをつぃっと避けるように後退したバニーシップは突然、上昇を開始した。
「なにぃ！？」
最初は、水平上昇、すぐ艦主を空に向ける形になり上昇をおこなうバニーシップ。
「に、逃げる気か！？おのれ、どこまで私をおちょくれば気がすむのだ！ええい！警視庁ロボ、上昇だ！！奴を追いかけろ！！」
「りょ、了解しました。警視庁ロボ、全エネルギーを上昇に振り向けます。」
「急げ！」
足の部分が引っ込み、そこから火を吹きながら警視庁ロボは上昇を開始した。雲を突き抜け、更に上昇する。
「ええい、どこまで昇る気だ！！」
空が暗くなる。やわらかな冬の日差しだった太陽がぎらぎらと輝く感じになる。どんどん暗くなった空は、やがて星を映しだすようになる。
やがて、警視庁ロボの上昇は止まると、その内部は静寂に包まれた。
「敵は・・・どこだ！？」
「本艦の左後方、３００ｋｍのところに浮かんでいます。」
つぶやくようなオペレータの声がする。
「そうか。では、これが最後だ！攻撃を開始する！」
「敵のエネルギー量増大！撃って来ます！。」
「電磁バリアの展開を開始します。」
展開しかがりの電磁バリアを貫き、左肩部分にヒットするビーム。空気抵抗がないこの辺りでは、ビームの威力は倍増する。
「なるほど、それでここまであがって来たのか。だが！！それはこちらも同じことだ！撃て！」
複数のビームやレーザーが虚空の彼方に消えて行く。やや遅れて爆発の華が咲く。
「敵！加速！突っ込んで来ます！」
「なに！」
「このままだと、衝突します！回避は間に合いません！！」
「くっ、特攻か！？バリア展開、最大だ！！」
「正面に２５発以上のノード級ミサイル確認。着弾まで３０秒。」
「敵船との接触推定時間３５秒後。」
「く、時間差か！迎撃ミサイルで応戦を・・・。」
「だめです。電磁バリアの展開中です！」
警視総監の目に狼狽の色が走る。そこへ駄目押しの報告が飛び込む。
「特別機動隊が出撃準備に入っています。」
「なに！？」
慌てて辺りを見回すと、先程まですぐそばにいたはずブルーダ、レッダス、ジュンコの姿が見えない。更に中央指令室全部を見渡すが、彼らの姿はどこにもない。
「しゅ、出撃許可なんぞだしてはおらんぞ！！！！」
「ミサイル着弾します。」
全周スクリーンに光の乱舞が起きる。ロボが大きく揺れる。
その５秒後には、比較にならないくらいの大きな揺れがロボを襲った。
「うぉ！」
警視総監は、椅子から投げ出され、机の角に頭をぶつける。気の遠くなりそうなのを必死になって押さえこむ。額から流れた血が、目に入って視界が赤く染まった。全身全霊を傾け、もう一度椅子に座りなおす。
あらゆる場所から、ビーッビーッという警告音が鳴り響く。
「敵艦、本艦へ接触！損害不明！！」
「敵多数、本艦へ侵入！」
「第１５、１８、３６ブロックが大破の模様。」
「特別機動隊赤部隊、接触部分へ急行中。」
「青部隊は、敵艦への侵入を試みるとのことです。」
「黄色部隊、赤部隊のフォローへまわるそうです。」
元気なオペレータの声を聞き流しながら、警視総監は椅子に身を沈める。やがてやってきた救急班が、傷口の消毒を始めるまでそれが続いた。
「ムサシ！えらいわ！！今回は誉めて上げる！」
嬉々としたマイヤの声がムサシの前の通信機から流れて来る。
「後は、任せておいて。じゃぁ敵将の首でも取って来るわ。通信終り。」
ぷつっと切れた通信を聞き、ムサシとヤマトは笑顔を見せ会った。
「うぉっしぃ！どんどんこんかい！！」
レッダスは、部下のパワードスーツを従え、バリケードごしに撃ちまくる。多数のバニーが警視庁ロボの中に侵入して来て、迎撃中である。
「第２４番区に敵多数侵入だそうです。防ぎ切れません。」
「黄色部隊に応援頼め。今、こっちには余力がない。」
あちらこちらで戦闘が行なわれており、防戦一方の警察側が押されている。おまけに主力の青部隊は、攻めに出て敵船の方へいっておりさらに数が少ない。こうなるとゲリラ戦を挑めるバニーが有利だ。
「くおのぉ！」
通路の向こう側でぴょこぴょこ揺れるウサ耳に対して対人ミサイルを１ダース程撃ち込む。そして、敵味方の勢力図が映ってる地図を見つつ、レッダスは怒鳴った。
「ええい。ここは一旦引くぞ。」
「え？敵に背中を見せるんですか？」
「第１３小隊と協力して、敵を４９倉庫へ誘いこむんだ。罠を張る。急げ！」
不幸バニーは不幸である。どのくらい不幸かって言うと、不幸であることを自慢してしまうくらい不幸である。
「あみぃ・・・。道に迷った・・・。」
「た、隊長・・・しっかりしてくださいよぉ・・・。」
「ああ、私って不幸・・・。」
副官に泣き付かれて、さらに困った顔をする不幸バニー。っと、通路の向こう側に何人かの警察の服を見つけて、顔がパっと輝いた。
「迷った時には、おまわりさんね。すいませーーーん！！」
おまわりさんは慌てふためいた。恐怖に顔を引きつらせ脱兎のごとく通路を全力疾走する。不幸バニーはさらに不幸そうな顔をしたが、副官は喜んだ。
「やった！敵の後をつけていけば中枢に、少なくともなにかしらの場所にたどり着く！」
隊長の不幸バニーを無視して、全隊を引き連れ走る副官バニー。副官と隊に見捨てられた不幸バニーは、さらに不幸そうな顔になった。
「ええっ！？ちょっとまってよぉ！！」
隊の一番後方からさらに遅れる不幸バニー。
副官バニーは、通路の突き当たりに物々しいドアを見つけて、顔をほころばせた。ドアに付いている表札には、『サブブリッジ』と書いてあったのだ。
「ふっふふ。あそこを落とせば・・・。これだけの手柄だ。私もあの無能に変わって隊長職だ。」
副官バニーは、ちらっと後ろを見る。後方のさらに後方に息を切らしている不幸バニーの姿が見える。副官の笑みが大きくなった。
「よし！全員突撃！！」
手投弾一発で、ドアを吹き飛ばし、副官バニー以下全員が次々に飛び込む。電磁バリアを展開しているので少々の銃撃なんぞものともしないはずだった。
だが、副官バニーは顔を驚愕に引きつらせた。
「ゆ、床が！？」
そこは、サブブリッジなどではなく、暗い巨大な部屋だった。それのかなり上の方に付いていたドアから飛び込んだらしい。下の方には、コンテナのようなものが山と積まれている。どうやら倉庫のようだ。
この部屋は、どうやら重力を押さえてあるらしい。ゆっくりと落ちながら副官バニーはあたりを見回す。一緒に落ちて来る小隊を見て、直感的に悟った。これは罠だ。
「ああ、とじこめられてしまった・・・。私って不幸。」
目の前の分厚い隔壁を見て、ためいきをつく不幸バニー。みんなと一緒にドアに飛び込もうと思っていたら、いきなり目の前で隔壁がしまってしまったのだ。戻りの通路しか他に道はない。更にためいきをついたバニーは、右手に小さな窓があることに気付いて覗いてみる。
外には、漆黒の宇宙が広がっていた。ここからは地球は見えない。っと、不幸バニーは前方を横切るゴミを見つけた。四角い箱のようなものが大量に流れていく。強化された不幸バニーの視力は、その中にまじる自分の部下だったバニーの姿を捉えた。どうやら、倉庫に閉じこめられて、そのままコンテナと一緒に外に排出されてしまったらしい。
「えっえっ。冷静バニーィィィィィ、助けてよぉぉぉぉぉ。」
涙声で、通信機に助けを求める不幸バニー。帰って来た返事は、名前にふさわしくなくいらだっていた。
「あんた馬鹿！？あんなものにひっかかるなんて！！」
「えっえっ。でもぉでもぉ。」
「いいから、こっちにいらっしゃい！道順は教えて上げるから！」
「えっえっ。ありがとう、冷静バニー。」
「成功です！９番倉庫で８％。２３番倉庫で１２％。４９番倉庫で１１％の排除に成功しました。」
「赤部隊の損耗率７％。黄色部隊、４％。青部隊についてはモニター出来ません。」
「貴重な物資を無駄にしおって。」
額にばんそうこうを張った警視総監が、憎まれ口を叩く。バニーは排除したいが、特別機動隊に活躍されるのも、面白くないのだろう。
「くそっ。」
「マイヤ、えらいわ。今回は誉めて上げる。」
「それはどうも。」
天井の高い倉庫の中、マイヤとジュンコが１対１で向かい合う。
「こんな馬鹿げたロボットに滅ぼされるようなあなたではないと信じていたわ。」
黄色部隊隊長専用の戦闘服イエロダスを着込み、小脇にヘルメットを抱えながら、ジュンコが薄笑いを浮かべる。対するマイヤも厚化粧の下から笑みを返す。
「ほほほ。で、こんなところにお誘いくださったのはなにかしら。私に滅ぼされたい、という欲求からね。」
「あなたは私の手で成仏させて上げたい、って欲求からよ。」
ジュンコは、ゆっくりとヘルメットをかぶる。ぱしゅっという小さな音とともに、メットがロックされる。
マイヤは腰からビームライフルを、ジュンコはライトセーバーを抜き放ち刃を伸ばす。
「「いくわよ！！」」
バニーシップの船体にかなり大きな爆発が起きる。
「うぉ！」
ブルーダは、必死になって手近なものに掴まる。回りの空気と一緒に重武装パワードスーツ２名が真空の宇宙に吸い出される。
バニーシップに侵入したブルーダ達の隊は、防衛のバニー部隊とし烈な戦いを繰り広げていた。今も、バニーが使った強力な爆弾のため、外壁を壊してしまったのである。爆発の威力そのものは重武装パワードスーツの指向性電磁バリアのおかげで大したことはないのだが。
「くそっ。こっちは３人しか残ってないか。・・・撤退したくてもな。」
廊下の前後に分厚い隔壁が降りており、にっちもさっちもいかない状況である。隔壁は別に侵入者防止用のものではなく、非常用のものである。隔壁そのものにすごく小さな簡易エアロックなんてものまで付いている。この辺りはさすが宇宙戦艦である。が、しかしパワードスーツ着ているブルーダや、ましてや重武装パワードスーツなんて通れるわけがない。
「酸素の残りはっと。まだ１時間は大丈夫か。」
ブルーダなどが着ているパワードスーツは、完全気密、全周完全防護されたものである。そのまま宇宙服として使ってもなんら差し支えがなくできている。おまけに背中のパワーブースターは地上で飛行までできる程の出力を誇っているのだ。移動にも不自由しない。
ブルーダは、外を覗きこんだ。外には青い地球が視野一杯に広がっている。一瞬ブルーダは状況を忘れて、外の景色に見とれてしまった。途中、はっと気付いて首を引っ込める。
「外にでて本格的なエアロックを探すぞ。この船は明らかに宇宙戦艦だ。我々が通れるくらいのものが１つや２つはあるだろ。」
「「了解。」」
ブルーダが先頭になって、そっと船の外に出る。外にでると急に反重力フィールドの威力が弱まり重力がなくなって来る。無重力に全く慣れていない３人のパワードスーツはそろりそろりと船体を登る。
「うぁぁぁぁぁ！！」
突然、重武装パワードスーツの１体ががつんと音を立てて船体に激突する。
「ああああああ！！」
そのまま、パワードスーツは複雑にスピンしながら、急速にバニーシップから遠ざかる。思わず呆然とそれを見送る２人。なにをする間もなく、あっと言う間の出来事であった。
「・・・・・。ば、バーニアの調整を誤ったな・・・・。」
「そ、そうですね・・・。つ、使わないことにしましょう。」
「ああ。」
２人は、えっちらおっちらとバニーシップの船体を登る。ちょうど、船腹にかかれたバニーの胸のあたりだ。やがて、２人は無重力での身体の扱いを徐々に覚え、さほどの時間もかからずバニーシップの甲板へとでることが出来たのであった。
「ふぅ。さてっと。落ちる心配がなくなった、ということでエアロックを探そう。」
「こ、ここって艦橋から丸見えでは・・・。」
「気にするな。とりあえず、艦橋の下へ行ってみよう。」
ブルーダは、足元を強く蹴飛ばして、前へ大きくジャンプした。中で小さく首を振ったパワードスーツも、同じ様に前に飛ぼうとしたときであった。
ぐしゃっ。
なにかを感じたブルーダが、後ろを振り返ると頭部を完全に潰されたパワードスーツが漂っていた。その脇には、小柄な人影が１人・・・。
人影は、もはや動かないパワードスーツの腕を引っ掴むと地球に向かって投げ付けた。普通投げれば、反動がくるはずなのに、人影はその場をピクリともしない。
影だった人影が、ゆっくりと光に照らされる。バニーの耳が色濃い影を残す。
「！？」
「久しぶりだな。青い奴。」
ブルーダの通信回線に女性の声が聞こえる。間違いなく目の前のバニーが発した通信だ。
「お、お前は格闘バニー！？」
「新宿戦線以来だな。あの時の屈辱を返してやろうと思ってな。」
格闘バニーが、拳を作って目の前に掲げる。ブルーダは、パワードスーツ内で汗をかきながら腰のビームガンを構えた。
「行くぞ！」
第１３章
「せやぁ！」
「ほぉぉぉぉぉ！」
ジュンコのライトセーバーをかいくぐったマイヤは、後方へジャンプしつつビームライフルを乱射する。それを左腕の指向性電磁バリアで受け止めるジュンコ。
ジュンコは、背中のバーニアを吹かしつつ、飛び上がる。ヘルメットに付いてる９ｍｍ頭部バルカン砲をばらまく。一瞬、マイヤの足が止まる。
「ぜぃ！」
天井を蹴り、一気にマイヤとの間合いを詰める。
マイヤも負けてはいない。ビームライフルを投げ棄て、身構える。
「チャンス！」
ジュンコが必殺の一撃を放とうとしてライトセーバーを振りかぶる。次の瞬間、吹き飛ばされたのはジュンコの方であった。
「ギャン！！」
数メートルの距離を飛ばされ、壁に激突するジュンコ。かろうじで飛びそうになった意識を引き戻す。
「ほーっほっほっほっほっほっほ。まだ、意識はあるのかしら。」
ジュンコは全身に力を込めて立ち上がる。衝撃は対したことはなかったのだが、全身に力が入りにくい。自分の身体を見ると、胸の位置が黒く焦げてくすぶってる。電気ショックのような跡だと、ジュンコは思った。
「ほほほ。次はどこを狙って欲しいのかしら？」
マイヤが、手に持った細い筒を振り回す。次の瞬間、稲妻がジュンコを襲った。
とっさに身を屈め、横っ飛びにジャンプする。
「良くかわしたわね。」
「そ、それはライトニングウィップ！？」
超々高圧電流を筒の先から放電させるのが、ライトニングウィップである。熟練者が扱うと稲妻がまるで鞭のように動くためこの名前が付いた。
マイヤは、にやりと笑うと次々に電撃を飛ばす。
「おお！」
「どりゃぁ！」
伸びる稲妻をジュンコのライトセーバーが切り裂く。稲妻が断ち切られ、また、ライトセーバーの刃が一瞬形を失う。
「そうこなくては。面白みがないものねぇ。」
「マイヤ、絶対に倒して見せるわ！」
「３番のタキオン反応炉の出力が異常に落ちています！」
「ええい！連動装置からはずせ！」
バニー達は各所でゲリラ戦を展開しているが、中央指令室もそれどころの騒ぎではなかった。
「連動装置からはずさないと、他の反応炉まで影響が出る！」
「無理です！連動装置から１つだけ反応炉をはずすなんて無茶です！下手したら総ての反応炉が壊れかねません！」
「では、どうしたらいいのだ！？」
「総ての反応炉の活動を停止させ、連動装置を組み替えて再起動します。こうでないとリスクが大きすぎます！」
「敵と交戦中だぞ！そんな悠長なことをやっていられるか！出来うる限り最速に３番を切り離せ！そのためには多少のリスクもかまわん！」
「・・・。・・・。・・・。わかりました。」
機関室からの不満そうな声を聞きながら、警視総監はため息をついた。
「馬鹿者どもが・・・。」
「鬼さんこちら、手の鳴るほーへ。」
「この！そこを動くな！」
「きゃー、きゃー。」
数人のバニーがキャーキャー言いながら逃げて行く背中へ、レッダスは拡散粒子砲をぶちかます。廊下がずたずたになり、構造物が落下する。そして、埃が収まったころのぞきにいくがそこにはもはや誰もいない。もちろんバニーの死体もない。
「おのれ、どこにいった！」
しばらくするとまたバニー数人が現れて、キャーキャー言いながら逃げて行く。
ようするにからかわれているのである。
「待て！そこを動くな！」
ブルーダは格闘バニーとバニーシップ甲板上で戦闘中である。
「はっ！」
指向性電磁バリアで左手を護りつつ、右手のライトセーバーを振り回す。
格闘バニーは、それをかわしつつ、低い位置からの回し蹴りを放つ。不発。
お互いは、ばっと離れ間合いを取る。
「やるな。とても４年前の奴と同一人物とは思えんな。」
格闘バニーが口を動かさずにしゃべる。ここは真空中。おそらく思考を直接通信機に送り込んでいるのであろう。
「お誉めいただき、光栄しごく。」
ブルーダが荒い息を吐く。
「だが、これまでだ！行くぞ！」
格闘バニーが、低く、甲板すれすれにジャンプする。握り締めた拳にかげろうが立つ。余剰エネルギーが光を歪めているのだ。
ブルーダの振り回したライトセーバーが、格闘バニーの拳と激突する。一瞬にして吹き散らされるライトセーバーの刃。格闘バニーは、いつもの無表情な顔に初めてかすかな笑みを浮かべた。
「！」
甲板が大きく波打つ。次の瞬間強力な衝撃波が２人を襲った。
「！」
ブルーダはとっさに伏せ、手近な突起物に掴まる。
「きゃぁぁぁ！」
ブルーダの通信機に悲鳴が飛び込む。首をねじ曲げて上を見ると、格闘バニーが甲板から飛ばされていた。顔に苦悶の表情を浮かべ、まっすぐ地球へ向かって落ちて行く。
「くぉのぉ！！」
ブルーダは、甲板を飛び出した。バーニアを吹かせて、格闘バニーへ近づく。格闘バニーが必死になって手を伸ばす。ブルーダの手と手が重なる。
「放すなよ！」
ブルーダは全力で身体の向きを返ると、バーニアを最大にした。みるみる甲板が近づく。ほとんど墜落するような形で、２人はまた甲板に戻ることが出来た。２度、３度バウンドして、なんとか甲板に留まる。
「・・・。」
「！？警視庁ロボが燃えている！？」
甲板に戻ってほっとしたブルーダは、警視庁ロボを見て驚愕の表情を浮かべた。警視庁ロボの胸の部分が大きくえぐれて、巨大な炎と小爆発を繰り返しているのが見えるのだ。
「あの辺りは・・・機関室・・・。」
警視庁ロボ中央指令室の混乱は最高潮に達していた。
「３番タキオン反応炉爆発！損害不明！」
「連動装置に異常発生！」
「全反応炉緊急停止。」
「待て！反応炉をとめるな！とめたら・・・とめたら・・・。」
報告を聞いて慌てる警視総監。顔は青ざめ全身が震えている。
「だめです。緊急停止しないと他の反応炉も爆発します。」
「・・・。」
「非常用電源に切り替え！」
バシンという音とともに全艦の明かりが、非常用の赤いものに変わる。警視総監は力なく椅子に腰を落とすと、頭を抱えた。
「なぜだ。どうしてだ。なぜだ。どうしてだ。・・・・・・。」
「おい！」
呆然として警視庁ロボを見つめるブルーダに背後から声がかかる。振り返ると相変わらず無表情の格闘バニーが腕組みをして立っている。
「どうして助けた。」
「いや・・どうしてといわれても・・・なんとなく。」
「・・・。」
「いや、別にどうこうしようとか、そーゆーわけではなくて・・・。」
「・・・・付いてこい。」
うむをいわさぬ口調の格闘バニー。甲板をすたすたと歩き、艦橋の真下にくる。複雑な構造のエアロックがそびえ立っていた。格闘バニーが横のテンキーを操作するとエアロックが口を開いた。
２人はだまって、そこに入り込む。やがて空気が満ちて内側のドアが開く。
「こっちだ。」
格闘バニーは、今度は通信機からではなく言葉でしゃべる。
非常用の警告音が鳴り響いている中を格闘バニーとブルーダは黙々と歩いた。
ブルーダは、格闘バニーの背中に何度か声をかけようとしてそのつど思いとどまる。
ブルーダはもはや自分がどこを歩いてるかわからなくなった。幸いにして格闘バニーの他に歩いてる人には会わなかったが、もし出会ったらどうする気だろう。
そうこうしているうちに格闘バニーは、廊下の突き当たりでたちどまった。前方には漆黒のエレベータが存在している。
「こっから先はお前が１人で行け。」
「え？」
「こいつは総統閣下の居室へ直通のエレベータだ。」
「・・・。」
「会ってこい。会って、どうするか決めろ。戦うもよし、和平もよし。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでこんなことを・・・。」
慌てるブルーダ。格闘バニーはあいかわらず無表情だ。
「・・特に・・理由は、ない。さ、どうした。行くのか？行かないのか？」
「・・・・わかった。」
ブルーダは、エレベータのボタンを押す。チンというかすかな音とともにドアが開く。一瞬のためらいの後、ブルーダは乗り込んで中の『閉』というボタンを押す。
「ありがとう、格闘バニー。」
ドアが閉まる直前、ブルーダは格闘バニーがにっこりと微笑むのを見た。
「警視庁ロボは完全に沈黙しました。」
「まだマイヤとは連絡つかんのか！？冷静バニーはどうした！？」
「だめです。向こうとは完全に連絡がつきません！」
「ＥＣＭでないなら、装甲自体に電波吸収膜があるのか！・・・今、離れることができれば勝ちなのだが・・・。」
バニーシップの艦橋でムサシはいらだっていた。警視庁ロボが勝手に自滅したのだ。今船体を引き抜き外とから射掛ければ簡単に沈める。
だが、向こうには白兵戦をいどんだバニーが大量にいる。置き去りにして攻撃するわけにはいかない。
「降下率３％です！」
「ええい！反重力を増せ！」
「だめです！これが限界です！」
２つの超巨大な質量は低高度を飛んでいたのである。反重力装置を持って地球に落ちないようにしていたのだが、今警視庁ロボ側の反重力装置が無いのである。バニーシップ側だけの反重力装置ではこれらを支えきれない。自然、２つの船体は地上へ向かって落下しつつあった。
「このままなにもしませんと、警視庁ロボも我々の船も燃えつきます！」
「・・・・・・・・・よし！仕方が無い。警視庁ロボから離脱する。向こうにはマイヤも冷静バニーもいるのだ。なんとかしてくれるだろう。」
「了解。逆噴射かけます！」
赤い非常灯の下で閃光がきらめく。
「えぃ・・・・・。やぁ・・・・。」
「とりゃぁ・・・・・・。せいやぁ・・・。」
延々延々と切り合いを続けるマイヤとジュンコ。２人のパワードスーツの下はもう汗だくで、振り回す刀もスピードはない。
「ぜいぜい・・・いいかげん・・・降伏・・・しなさい・・・じゅんこぉぉぉぉぉ！」
「降伏・・・・するのは・・・・・そっちでしょう！まいやぁぁぁぁ！あれ？」
ジュンコはライトセーバーを振り回し損ねて、そのまま膝をついてしまった。勝ち誇るマイヤ。
「ほーぉ・・・ほ・ほ・ほ・。待ってなさい・・・今・・・とどめを（ぜいぜい）さしにいってあげる・・から・・・。あれ？」
膝をついたまま、起き上がれないでいるジュンコに一歩二歩と近づくマイヤ。だが、その手前で足をもつれさせて倒れてしまった。
マイヤは起き上がろうともがくが、身体が言うことを聞かない。
「・・・・。」
「・・・・。」
第１４章
「だめです！がっちり掴まれています！」
「エンジン全開でひきはがせ！」
バニーシップを後退させようとするムサシだが、警視庁ロボが船首部分をがっちりと押さえていてなかなかに後退できない。外を見ると、地球がずいぶんと近づいてきている。急がないとこのまま大気圏に突入してしまう。
「エンジンルーム、なにやってる！この程度の推力しかでないのか！？」
「素粒子崩壊炉の調子がおかしいんですよ！そちらでもモニターできるでしょう！」
エンジンルームからの報告を受けて計器を覗きこむ。確かに素粒子崩壊炉のエネルギー量が自立起動限界点近くまで落ちている。
「起動時に無茶しましたから・・・その反動でしょう。」
「今！ロボから離れられなかったら一緒に大気圏突入するのだぞ！なんとかしろ！」
「そうはいわれましても。今動かしたら爆発なんぞしないでしょうが、確実にダウンしますよ。２基のタキオン反応炉だけでははっきりいって浮いているのが精一杯になりますが。」
「なんとかしろ！なんとか！！」
エンジンルームとの交信を打ち切って、ムサシは脇にある赤い電話を手にとった。盗聴防止の秘話カーテンを展開して、そして、ちょっとためらってからコールのボタンを押す。
「総統閣下、お休みでしたでしょうか！」
直立不動の姿勢になって、電話機に話し掛けるムサシ。
「はい。素粒子崩壊炉の調子が・・・。このままでは・・・。脱出の準備をしていただきたいのですが・・・。はい・・・そうです・・・！？総員退艦準備！？いや、でも・・・しかし・・・、・・・、はい、わかりました。そういたします。」
額の汗をぬぐってムサシは、受話器を置く。辺りを見回してヤマトの姿を探すが、見当たらない。
「ヤマトはどうした？」
「エンジンルームへ様子を見にいくそうです。」
「・・・・・。そうか。」
相談をしたかったのだが、と口の中でつぶやいて、ムサシは意を決したようにブリッジへ号令を掛けた。
「総統閣下の命令だ。本艦はこのまま警視庁ロボと一緒に大気圏突入をおこなう。大丈夫だとは思うが、万一のこともある。全員に脱出準備を。」
ブリッジが急激に慌ただしくなる。それを見ながら、ムサシはぐんと近づいた地球を見下ろした。
「降りれるだろうか・・・あそこへ。」
どのくらいの大きさがあるのだろうか。わからない部屋だ。
エレベータから出ようとしたブルーダは、最初悲鳴をあげて、後ずさりしたものだ。なぜならば、床が無かったからである。あるのは、巨大な地球を見下ろす光景だった。しばらく眺めて、ブルーダはそれが映像だと気がついた。床だけではない。天井も壁もみんな外の映像を映しだしている。
辺りを見渡しながらそろりそろりと前に進んだブルーダにいきなり声がかかった。
「どうだね。素晴らしいだろう。」
反射的に声のする方を振り返る。黒いマントを羽織った初老の男が、計器一体型の椅子に腰を掛けていた。
「素晴らしい眺めだと思わんかね。」
「・・・あなたが、『ぴょんこの会(仮)』総統・・・・でしょうか？」
「うむ。そうだ。」
イメージと全然違ったのでブルーダは眉をしかめた。ふと、自分がパワードスーツの中にいることに気付いて、慌ててヘルメットを脱いだ。失礼にあたると思ったからだ。
「すいません。」
「ははは。なかなか礼儀正しいな。君が、正義の味方のブルーダ君だね。」
「そ、そうです。」
「あえてうれしいよ。」
「はぁ。・・・あの・・・。」
「おっと、ちょっと失礼。」
総統の椅子の肘掛部分が軽やかな音を発する。電話のようだ。総統は、椅子をくるりと回すと受話器を取った。なにかを話しているようであるが、ブルーダには全く聞き取れなかった。盗聴用の措置がとってあるらしい。
「失礼した。」
「いえ。・・・あの。」
「素晴らしい眺めだろう。・・美しい星だ。だが、人はこの星を傷つけ、搾取し、汚している・・・許せないことだとは思わんかね。」
「・・・それが・・『ぴょんこの会(仮)』の設立の理由ですか？」
ブルーダは一番聞きたかったことを思い切って尋ねてみる。
「いや、全然関係はない。『ぴょんこの会(仮)』設立の目的は、バニーガールを大量にならべて、『総統、万歳！』って叫ばせることにあるのだよ。」
「な！？」
ブルーダは、思わず一歩後ずさった。脳裏に赤の広場（仮称）に整然と整列したバニーガールが浮かんだからだ。彼女達は一斉に「総統万歳！」「『ぴょんこの会(仮)』に栄光あれ！」と叫んでいる。ブルーダすらもどきどきしてしまうくらい強烈なビジョンであった。
しかし、ブルーダは首をぶんぶんと振ってその映像を振り払った。自分は正義の味方だとなんども繰り返す。ブルーダは、東京の街を思い出した。めちゃめちゃに、廃墟になった東京。繰り返される戦闘。倒れる人々。
ブルーダは、息を大きく吸った。
「それだけのために・・・そんな私利私欲のために東京の街をめちゃめちゃに・・めちゃめちゃにしたのか！」
「君だって男だろうが！！」
総統は激昂したように椅子から立ち上がり指を突きつけた。
「男ならば、夢を！浪漫を求めないでどうする！！」
「・・・。」
「バニー戦士による、世界制服。それが私の夢だ！浪漫だ！私はそれを求めてここまでやって来た。邪魔する奴は誰であろうと容赦はしない！」
「・・・。」
激しい感情をぶつけられ、うなだれるブルーダ。それを見て、総統は満足そうに椅子に座りなおした。
「わかっていただけたかな。」
「・・・・僕の夢は・・・。」
「？」
「僕の夢は・・・正義の味方になることです・・・。」
「・・・。」
「僕は・・・正義を・・・正義を信じてここにたどり着きました。・・・。だから・・・。」
「だから、私を阻止する。だから、戦え・・・・か。」
静かな声で言い、ゆっくりと椅子から立ち上がる総統。手にはいつの間にか、ビームサーベルが携えられている。
ブルーダはヘルメットをかぶりなおす。そしてライトセーバーを抜き放つと刃を伸ばす。
「失礼を。」
「よかろう。」
部屋中の映像が真っ赤な炎の色に染まった。
「大気圏、突入しました！」
「総員、退艦せよ！総員退艦！！」
「どこに逃げろってのよぉぉぉぉぉぉぉ！」
「ライフボートだ！あれならば電磁バリアが使える！それなら大気圏も抜けられるぞ！」
激しい揺れの中、右往左往する警視庁ロボの中の人達。警視庁ロボが大気圏を抜けられないのは明らかだ。１人でも助かろうとライフボートに詰め掛ける。
「くっ。こいつらでは出力不足だな。」
戦闘機格納庫でレッダスはうめいた。脱出用の乗り物を探しに来たのだが、ろくなものが残っていない。電磁バリアの出力が大気圏の摩擦に耐えられないのだ。
「外気温８９度か。・・・！？」
「こんにちわ。」
レッダスの後ろにバニーが現れた。しかも複数。戦う意思がないことを示すため何人かは両手を上げている。そのなかから、目の細いひときわ美人のバニーが出て来た。
「ということで、レッダスさん。ここは１つ協力しませんこと？」
「協力？」
「このＤ型軽輸送機で出ましょう。で、あなたの高出力ジェネレータをこいつのバリアに直結するのです。そうすれば、なんとか大気圏を抜けれるだけの出力が得れますわ。」
「・・・なるほど。今は争っている暇はないしな。よし！早速。」
「全員、いそいで。不幸バニー、隔壁に爆弾を。３０秒以内に全てを完了させて。」
「了解！」
「ちょっとあぶないじゃないの！」
「うるさいわね！黙って操縦しなさい！」
「ちょっと０．０５度もずれたわよ！ちゃんと操縦しなさいよ！」
「あなたの方こそ、ちゃんと見てなさいよ！」
バニーシップの艦橋上部に浮かぶ、警視庁の戦闘機。複座の椅子にはジュンコとマイヤが座っていた。大気圏突入寸前に２人は喧嘩しながら警視庁ロボを脱出。一番安全なポジションに付けているのだ。
真っ赤に焼けた警視庁ロボがゆっくりと溶けて行く。右腕が付け根からもげて、ばらばらになりながら離れて行く。また胸の位置でひときわ大きな爆発があがった。
「反応炉ね。」
「・・・・。」
たまにロボからライフボートと思しき小型船が出るが、気流に巻き込まれ、あるいは、警視庁ロボの巻き散らす破片に直撃され、爆沈する。見事に機体を安定させて遠ざかるボートもあるが、地上にたどり着けるものは１割に満たないであろう。
「！？」
「あんなものまでもちだして。」
ひときわ大きな爆発とともに、腰の部分から輸送機が飛び出した。バリア出力も弱い、速度と安定性だけがとりえの軽輸送機だ。誰の目にも無茶な行動のように映った。
だが、その輸送機はブラックアウトの中、ぴたりと機体を安定させると破片をかわしつつ、一気にマイヤの乗ってる戦闘機のさらに上部の位置で機体を静止させる。
「はあー。」
「世の中には、すごい人もいるものねぇ。」
ブルーダは、頭部バルカン砲を一斉射する。
総統は、ふわりとそれを避ける。漆黒のマントをひるがえして、ブルーダに切り付けて来る。
とっさにライトセーバーで受け止めるブルーダ。だが、ぎりぎりと押される。
「うぉぉぉぉぉ！！」
パワードスーツの動力を全開にして押し返す。いままで押されていたのがあっけないほどの感じで押し返せる。総統はふわりと飛ぶと、間合いを取る。
「くっ。本気で化け物か。」
激震の中、立ってるのもやっとなのに総統の攻撃の手は全く緩まない。卑怯だと思ったがビームやバリアも総動員でやっと互角である。なのに、総統の武器はビームサーベル１つだけなのだ。
腰だめにビームを一発打ち込む。ビームは、総統の漆黒のマントにからめとられるようにして消えるが、その隙を狙って剣を振るう。
ギン！という音をたてて刃が弾かれる。全く隙はない。
「ああ、警視庁ロボが・・・沈む・・・。」
「・・・。」
警視庁ロボが、腰の部分から大きく別れ、爆発をくり返しながらバニーシップへと流されて来る！
「きゃぁ！」
「ば、馬鹿！どうしてこっちへ落ちて来るの！！」
一番安全なポジションだったはずのバニーシップの上は、超危険な場所となった。警視庁ロボの上半身が流れて来るのだ。
マイヤの戦闘機と冷静バニーの軽輸送機は、とっさに左右に別れて上半身を避ける。破片と爆発の気流を必死になって避ける。
「あ、艦橋に・・・・。」
流された警視庁ロボの上半身は、バニーシップの艦橋を直撃した。艦橋の半分以上を引き千切りながら警視庁ロボは流れて行く。
「ああああ！バニーシップになんてことするのよぉぉ！！」
「やかましい！黙ってなさい！」
総統が切りかかって来るのを最大の力で受け止める。ライトセーバーとビームサーベルが打ち合わされ火花を散らす。
「うくくくくくく。」
とても生身の力とは思えない。それほどの力でブルーダは押された。
「俺は！俺はァァァァ！正義の味方だァ！」
全力でセーバーを押し返しながら、総統を蹴り飛ばす。
総統は、弾かれながらも空中でバランスを取り、着地する。
「俺の夢は、正義の味方になることだ！俺はお前を倒す！そして真の正義の味方になってみせる！」
「よかろう！私は、貴様の野望を阻止して、見事にバニー帝国を作ってやろう！さぁ！来い！」
一瞬、お互いの視線が空中でぶつかり会う。次の瞬間、お互いの剣と剣が交差した。
「ん？」
「どうしたの？ジュンコ。」
「いやね。あの船の中心が光った気がして。・・・爆発じゃぁなさそうだし・・・。」
「そんなことより、前見て前！」
すぐそばを通った破片に、マイヤの乗った戦闘機が大きく揺れる。
「うううう。」
「・・・。」
腹を押さえたまま椅子に座り込む総統を、ブルーダは心配そうな目で見つめる。総統は、ブルーダに軽く手を振った。
「なにをしている。いきたまえ。」
「・・・。」
「早くしないとこの船ごと沈むかもしれない。」
「・・・。」
「君の勝ちだ。」
「・・・・ありがとうございます。では。」
ブルーダが、エレベータを使って出て行く。
総統は苦しい息の下、計器を操作する。計器からやわらかな女性の合成音が流れ出す。
「暗証番号確認。声紋を確認いたします。」
「『ぴょんこの会(仮)』総統だ。」
「声紋を確認。自爆装置、起動します。」
総統はふっと辺りを見回す。今まで真っ赤な色に染まっていた外の景色はいつの間にか透き通る青い色に変わっている。総統はそれをみてかすかに笑った。
「我が、野望・・・バニー帝国に・・・栄光・・あれ・・・・。」
次の瞬間、辺りが金色に染まった。
エピローグ
ジュンコとマイヤの乗った戦闘機が着陸したのは、焼け野原の新宿であった。まだ太陽はあがっておらず、辺りは薄暗闇に包まれていた。
「マイヤのへたくそ！なんて着地なの！？」
「こんなでこぼこの所に夜間着陸試みて、こんなもので済むなんて奇跡よ！」
「へたくそ！」
「うっさいわね！」
口喧嘩している横に冷静バニー達の乗った軽輸送機が着陸する。中からレッダスが顔を出す。
「２人とも仲がよさそうで。」
「「誰が、誰とよ！」」
「マイヤ様！ご無事で。」
「ああ、冷静バニーの操縦だったの。見事だったわ。」
上から、続々とライフボートやらなんやら、脱出に成功した搭載艇が降りて来る。中のひときわ大きい船がマイヤのすぐそばに降りて来た。同型のもう１台は上空に浮いて待機している。
「マイヤ、無事か？おや、冷静バニーもか。」
「ムサシ！？無事だったの？てっきりバニーシップとともに沈んだと思ったわ。」
「船と運命をともにするってのは、あんまり趣味じゃなくてね。」
さらにその脇に１台の複座戦闘機が降りて来る。コクピットが開くと、ブルーダと格闘バニーが出て来た。
「ブルーダ！？」
「おお！生きていたのか！」
驚いているジュンコとレッダスに手を上げて近づくブルーダ。ブルーダはヘルメットを取ると２人に笑顔を見せた。
「勝ったぞぉ。」
「・・・そうか。良かったな。」
「そうだぁ。これで俺も真の正義の味方だ。」
「はいはい。良かったわね。」
腕組みをしてうなずくレッダスにちょっと呆れ顔のジュンコ。
その時、大型搭載艇からムサシがマイヤに声を掛けた。
「おおい、マイヤ、そろそろ行くぞ。」
「あ、ちょっと待ってよ。」
マイヤは、わざわざジュンコの前までいくと中指をおったてた。
「いいことジュンコ。今回は引き分けにしてあげるけれど、次回はそうは行かないわ。いいわね。おぼえておきなさい！次こそはぐっちょんぐっちょんのぐっしゃんぐっしゃんに叩きのめして、私の靴をなめさせてやるから！」
「いいわよ。いつでも受けて立つわよ。」
「おおい、マイヤ、いっちゃうぞ！」
「いいわね！おぼえておきなさいよ！」
指を突きつけながら搭載艇に駆け込むマイヤ。
ブルーダがふっと振り向くと、格闘バニーの複座戦闘機も上昇をかけるところであった。ブルーダが手を振ると格闘バニーも無表情に手を振りかえした。
「どうしたんだ？ブルーダ。にやにやして。」
「え？いや、別に何でもないよ。」
「・・・・。ま、いいか。」
「ふぅーーーーーーーー。しっかし、長い一日だったわねぇ。」
瓦礫の山に座り込む３人を朝日が照らす。
誰からともなく発せられた笑い声は、東京の晴れた空に吸い込まれて行くのであった。
＜秘密結社『ぴょんこの会(仮)』完＞
Sight!
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