タウトゥーク

　異様な気配を感じ、慌て空を見上げると影があった。
　楔のようなその姿は、鋭く形を変え、空間そのものを押さえつけるかのような幅広い翼を拡げた。強大な力を秘めた、しかし静かな頭部が下がる。
　これは現実か、幻か。
　空となった私の頭脳は想像力を失って喘いだ。


　タウトゥーク！

　降りて我が身を喰らえ。

　タウトゥーク！

　私はお前の肉となる。

　タウトゥーク！

　大空高く飛べ。我が魂とともに。


　影は刻々と形を変え、空気の絨毯の上、微かに落ちつつ私に迫る。
　死が迫るのと、それは同義であったが、私に拒む理由はなかった。むしろ、この身をすぐにでも捕って喰われてしまいたいと思っていた。
　頭上を覆いつくし、影の頭はその牙と共に私に向かった。
　恐怖が心臓を締め上げ、鼻の奥できなくさい匂いを感じたが、心はむしろ待ち望んでいた。私は強く念じた。タウトゥーク。

　影は形を変えた。降下を止め、その楔の頭部は地平線に向かった。
　悲しみの怒りと困惑のなか、私は叫んだ。
　何故か、私を受け容れぬのは何故か、と。
　刹那、生じた衝撃波は、私を圧倒的な力で翻弄し、物理的に私にわからせた。往ってしまった、と。

　傷だらけになった私は、乾いた血傷をさらして横たわり、空をみつめ、今も、こうしている。