宇宙世紀００７９。人類は宇宙へ進出し、地球のまわりのコロニーで生活をはじめて半世紀がすぎた。コロニーで人は生まれ育ち死に、総人口の半分が宇宙居住者となった頃、地球から最も遠いコロニーサイド３はジオン公国を名乗り地球連邦に対し独立戦争をしかけた。戦争開始後わずか半年で総人口は半分に減り人類は自らの行いに恐怖したのである。
ジオン公国の宇宙軍将校シャア・アズナブルはサイド７で連邦軍のＶ作戦をキャッチし、自ら連邦軍の新鋭戦艦と新型モビルスーツを追って地球へ降下した。北アメリカのジオン軍を指揮していたガルマ・ザビはシャアとともに連邦軍の新鋭戦艦を攻撃したが戦死した。ルウム戦役の英雄、赤い彗星のシャアの襲撃を逃れガルマ・ザビを倒した連邦軍の「白いモビルスーツ」の噂は、戦況の暗い見通しとともに静かにジオン軍に広がっていった。
この物語は一年戦争の折り返し点。ジオン公国も地球連邦も戦争に疲れた頃のお話である。
ジオン軍防空司令部。
無重力の広い部屋の照明はオペレーター達の目の負担を軽くする為に極力落とされていた。薄暗い部屋の中央には、巨大なひらべったい水晶玉が半分床に埋められて神体のごとく鎮座し、それをオペレーター達が神体の世話をする巫女のように囲んでいた。
ジオン公国の本拠地であるズム・シティ、宇宙群の拠点であるア・バオア・クー要塞、そして月面の拠点であるグラナダ基地の三拠点を結ぶ宙域の防空監視情報を統括するのが、ここ、防空司令部だる。水晶玉は巨大なスクリーンだ。
スクリーンのいたる所で光の点が明滅しているが、それらは出撃中の艦隊や識別済みの連邦艦船をあらわしているのだった。
それら赤や青や黄色の輝く光点やマークのかすかな光に照らされたオペレーター達もまた静かに情報端末を操作していた。
彼女達は三角宙域に遊弋しているジオン軍哨戒艦隊の報告を受け、哨戒基地と連絡をかわし、スクリーンに宇宙を映しだしているのだ。
スクリーンとオペレータ達から下がったところに部屋の主がいた。防空の責任を負う防空司令は天井から伸びたアームの先の椅子の上で、口髭をなでながらスクリーンを眺めていた。
彼が見るに現在のジオンの宇宙は異常なしだった。すべてのオブジェクトは計画通り正常に運行されていた。
と、水晶玉の縁の一点が赤く明滅した。
スクリーンの端に位置する栗色の髪のオペレーターのヘッドセットから音声警告が流れた。彼女は慣れた手つきで情報端末を操作した。プライベートディスプレイに哨戒艦隊からの緊急通信が表れ、すばやく眼を通した彼女はヘッドセットを通して防空司令付きの参謀を呼び、通信内容を見せた。
小柄な参謀は通信内容を凝視した後、軽く床を蹴って宙を飛び防空司令の耳元に近づいた。
「識別不明の船が、警戒ラインを抜けました。第七八哨戒戦隊が接触したのですが、離脱されました。七八哨は追跡中です」
防空司令は巨大なスクリーンに表示された状況を眺めた。
サイド３（ジオン本国のコロニー群）とグラナダ基地とア・バオア・クー要塞の大三角形。サイド３とグラナダ基地を結ぶ辺の近くを不明艦のマークがベクトルと共に表示されていた。少し離れたところに第七八哨戒艦隊（ムサイ級軽巡洋艦）三隻のマークが明滅していた。
「識別不明か。連邦の船か？」
「おそらく。探知したときには、あちらはすでに加速をはじめていて識別できなかったそうです」
「七八哨は追いつけるか？」
「離されすぎました。このままでは追いつけません」
「付近を航行中の艦隊を調べよ」
参謀は栗色の髪のオペレーターに指示した。集約された艦隊の情報から不明艦に接触できる部隊を探す。コンピュータの助けを借りて該当部隊を探し当てた彼女は部隊をマークした。スクリーンの中で明滅をはじめた光点があった。マークされた部隊について参謀が説明した。
「第二○八哨戒戦隊が航宙中です。二○八哨なら不明艦に接触が可能です。」
「二○八哨の戦力は？」
「第二○八哨戒戦隊は・・・仮装巡洋艦が一隻だけ？」
参謀は少し狼狽した。狼狽したので語尾の調子があがってしまった。そういえば二○八哨の臨時編成の報告があった。僚艦が故障で出撃できず、単艦でパトロールに出撃する、という報告を聞いたときは何とかなると思ったが、いざとなると頼りない戦力だ。第二○八哨戒戦隊を構成している仮装巡洋艦は高速コンテナ貨客船を改造したもので、主な武装はコンテナ代わりに積んでいるメガ粒子砲が二門に連装ミサイルランチャーが一門。出撃にあたりモビルスーツが一機だけ積み込まれたと聞いていた。
攻撃力はともかく装甲がほとんど無いので相手が小型のボートならともかくムサイ級を振り切るような船にぶつけるには不安があった。
狼狽した参謀を一瞥した防空司令は、我が宇宙軍も衰弱したものだ・・・と口中でつぶやくとすぐに判断をくだした。戦力不足の二○八哨は猟犬として使う。鉄砲を持った猟師は七八哨だ。
「・・・かまわん。艦隊に指示。二○八哨は不明艦に接触、識別して進路を妨害せよ。七八哨は追撃を続行し不明艦を拿捕、または撃沈せよ。」
to be continue...