宇宙は暗いし広すぎる。青い空に青い海、白い空が懐かしい。
　モビルスーツパイロットのグランヒッコリ・グラーグ少尉はぼんやりと宇宙空間を眺めていた。宇宙にあがってからだいぶ経つが、宇宙の暗さと無限に落ち込んで行くような広さはなじめない。
　グランヒッコリは南太平洋で生まれ育って、子供の頃は漁師である曾爺さんの手伝いをしていた。船で乗り出す太平洋は広かったが寂しさを感じる事はなかった。でも、今は。
　作業用宇宙服をつけてレンチを握りぽつんと宇宙空間に浮かんでいると、いろいろと考えてしまう。船から離れれば離れるほど、無限に深い井戸に落ち込んで行くような恐怖が湧いてくる。宇宙空間は人を拒絶しているのではないだろうか？それとも単に慣れていないだけなのか。
　コロニー生まれの戦友は宇宙空間へ飛び出して行く時は空の高みへ登って行くような気がすると言う。それが、地球生まれとコロニー生まれの差なのかもしれない・・・。
「手を休めないで！」
　こつん、とヘルメットをたたかれてグランヒッコリは我に返った。首を回して見ると深緑色のノーマルスーツが斜めに浮いていた。同じくモビルスーツパイロットのブーカ・ラクハン軍曹だった。ノーマルスーツは身体に密着するので身体つきがもろに出てしまう。で、ブーカはスマートな肢体だけど女性らしいふくらみはしっかりあって、ア・バオア・クー要塞で交際を申し込んだ男の数が百人以上という噂も嘘ではあるまいなと、グランヒッコリは思った。
　彼は、ブーカに
「おう、」
　と、意味不明の返答をして親指を立てた。レンチが手を離れてゆらゆらと漂った。
　ノーマルスーツの中でブーカが顔をしかめるのが見えるようだった。ブーカは背中のモーターから高圧ガスを噴射してふわりと上方へ飛んでいってしまった。彼女の姿を眼で追って行くと巨大なモビルスーツの頭部が見えた。
　第二○八哨戒戦隊、旗艦にして唯一の艦。仮装巡洋艦ローレライのたった一機のモビルスーツ、MS-06Cだ。MS-06はザクと呼ばれるモビルスーツの形式で、MS-06Cはザクのバリエーションのひとつだ。Ｃタイプのザクと呼ばれる。
　MS-06Cの各部メンテナンスハッチは軒並み開けられ、大急ぎで整備されていた。

　単艦での出撃にあたり仮装巡洋艦ローレライの戦闘力に不安を抱いたスピカ艦隊司令部はモビルスーツを調達して搭載したが、これが開戦前から使われてルウム戦役で大破した履歴を持つ、くたびれたモビルスーツだった。塗装ははげて地金が見えるし、稼動部分は磨耗してぴかぴか光っていた。稼動状態にするために整備員に加えてグランヒッコリたちパイロットまで総出でMS-06Cを整備していた。
　ローレライにはモビルスーツを搭載するスペースがなかった。そこでミサイルランチャーを搭載するコンテナをはずし、モビルスーツをむき出しで固定した。したがって整備は船外活動となり、作業用宇宙服を着てレンチを握ることになったわけだ。
　このモビルスーツは解体寸前で本来なら退役してるはずだ。それを小さな船に積み込まれ働かされてかわいそうだ。だが、もっとかわいそうなのは、よぼよぼのMS-06Cで戦争に行かされる俺たちだ、とグランヒッコリは思う。
　グランヒッコリはルウム戦役で負傷し、そのまま内地（サイド３）に留めおかれた。久しぶりに前線に出されたと思ったら、貧弱な仮装巡洋艦にくたくたのモビルスーツ一機だけ。一緒に作戦するパイロットは可愛いきゃしゃな女の子。これで戦争しなければならない。後方にいた六ヶ月の間にジオン軍もずいぶん変わったようだ・・・俺たちは戦争に勝てるのだろうか。
　グランヒッコリは首をふって、漂うレンチを握ると、メンテナンスハッチの中に首を突っ込んだ。

　仮装巡洋艦ローレライ、ブリッジ。
　元がコンテナ貨客船なのでブリッジは狭い。武装にあたって取り付けられた装備が、元々狭いブリッジをさらに狭くしていた。
　六つのコンソールに六つのシート。一番後ろのシートが艦長の座るシートである。その斜め前が副官。副官の脇が通信士。
　第二○八哨戒戦隊の構成上、ローレライの艦長が戦隊司令官を兼ねていた。艦長のグリ少佐は自分のシートに座ってモビルスーツを利用した戦闘事例を読んでいた。モビルスーツが配備されたのはいいが、グリ艦長はモビルスーツを運用するのははじめてだ。真剣に戦闘事例を読んでいた艦長は目の前を小さな黒い粒が横切って行くのに気がついた。それはゆっくり左から右へ漂ってゆき、右の壁に当たって止まった。くっついたようだ。
　艦長は粒の飛んで来た方を見た。ナハル副官がひきつった顔で固まっていた。なぜか右手の指が天井を向いていた。
「ナハル君、今、私の方になにか飛んで来たのだが・・・・」
「す、すいません艦長。天井の方へ飛ばしたつもりだったのですが、それてしまって」
「ゴミはごみ箱に入れたまえ、ナハル君」
　艦長はあきれたように言うと壁へ手を延ばした。ゴミをとるのだろう。それを見たナハル副官は慌てた。
「か、艦長。結構です。じぶんがやります」
「かまわんよ」
　艦長はゴミをつまむと、その粘着力を不思議がりながら鼻紙につつんでゴミ袋へ突っ込んだ。そのまま報告書へ眼を戻した。
「申し訳ありません、艦長」
　あやまりながらナハル副官は何を弾いたか質問されなくてよかったと思った。
「艦長、艦隊司令部より緊急指令です」
　通信士が艦長を呼んだ。戦闘事例を閉じると艦長は言った。
「こちらのスクリーンに表示してくれ」
　暗号解読済みの電文が表示された。艦長はうむ、とうなずいた。
「ナハル君、君もみたまえ」
　ナハル副官は席をたって艦長のシートの脇に行き、スクリーンを覗きこんだ。
「・・・不明艦ですか・・・」
「うむ。七八哨戒戦隊ならムサイが三隻だ。その追跡を振り切ったのだからただの船とは思えんな」
「同感です」
「戦闘かね、この船で」
「・・・・避けたかったです」
艦長とナハル副官は黙った。通信士や操舵手が聞き耳を立てている。艦長はふるり、と首を降ると立ち上がって大声をあげた。
「司令部より発令された。本艦はこれより不明艦の追跡に入る。ハンニバル君、十分後に加速開始だ。ナハル君、モビルスーツの連中に知らせてくれ、以上」
「了解」
　航海士のハンニバル少尉は航路計算を始めた。ナハル副官は自分の席についてヘッドセットをつけた。彼らの行動を見届けた艦長は、どさりとシートに座るとため息をはこうとして、そんな自分に気づき、ため息のかわりに息を吸い込んだ。
　緊急通信と一緒に送られて来た不明艦のベクトルを解析していた航海士がヘッドセットで報告して来た。
「十分後に加速を開始して四時間で接触します」
「どれくらい接触を保てるか？」
「敵の加速性能にもよりますが・・・３０分以下ではないでしょうか」
「わかった。航路を見るから私のスクリーンに表示してくれ」
「はい」
　スクリーンに表示された航路を見ながら艦長は考え込んだ。艦対艦戦闘が発生すればローレライは沈む。来たばかりのモビルスーツに頑張ってもらうしかないのだろうか。

　加速を開始した仮装巡洋艦ローレライの中では戦闘に備えて準備がなされていた。
　これまで敵と遭遇した事がない第二○八哨戒戦隊にとって、はじめての実戦なのだ。
　コンテナ搭載スペースの大部分を占める主砲のメガ粒子砲二門とメガ粒子砲の動力炉は火器担当士官をはじめ担当者総動員で念入りにチェックされていた。
　船外の各種観測機器は戦闘時に爆発物の破片で傷つく可能性が在ったので取り外されて船内にしまわれた。
　艦長じきじきに戦闘時高加速運動に備えて浮遊物を固定せよという訓令が発せられ、あちこちにキップルがテープで固定された。
　ローレライの船内船外ともに騒がしい中、モビルスーツの周辺も例外ではなかった。整備担当者達は、戦闘までの数時間の間に出撃可能な状態までにMS-06Cを仕上げなければならず、加速状態の中を命綱をつけて船外の整備は続けられていた。
　その整備をする人達の中にパイロットであるグランヒッコリとブーカの姿はなかった。彼らはローレライの幹部とともに客室を改造した会議室にいた。

　ローレライと第七八哨戒戦隊、および不明艦の位置とベクトルが壁掛けディスプレィに表示されていた。艦長のわきに立つナハル副官が一通りの説明をした。
　ノーマルスーツ姿のグランヒッコリ・グラーグ少尉は椅子に座って説明を聞いていた。小柄だが筋肉のついた身体で、南国の浅黒い肌に黒く短い髪の彼は若い漁師を思わせた。
　その脇にブーカ・ラクハン軍曹がいた。白い肌にふっくらとした唇、大きな青い瞳、三つ編みにした銀色の髪。ビスクドールを思わせる端正なかわいらしい顔だ。
　ナハル副官の説明が終わり艦長がグランヒッコリとブーカに向かって尋ねた。
「モビルスーツは敵識別後、攻撃の必要がでたらでてもらう。可能かね」
「はい・・」
　とグランヒッコリが答ようとすると、ブーカがすばやく答えてしまった。
「可能です、艦長。不明艦との接触までに出撃準備を完了します」
「では出撃準備を進めてくれたまえ」
　説明が終って解散すると、二人はモビルスーツ部隊に割り当てられたコンテナに戻った。コンテナの中に彼らの待機室があった。船内に部屋が無いからモビルスーツの隣のコンテナが部隊の部屋になったのだ。
「あのね、」
　部屋に入るとグランヒッコリが口を開いた。
「私は少尉で、部隊のリーダーだ。先程の君の返答は私がすべき事だと思うのだが」
　ブーカはちらりと視線を向けるとスナックラックからカフェ・オーレのチューブをとりだした。そのまま封を切って唇にあてた。
「無論、そう思うけど、グランが話すのが遅かったから」
「一回くらいグラーグ少尉、と呼んでもらいたいもんだな」
　グランヒッコリはブーカと出会ったときのことを思い出した。

　ローレライに乗り込むことが決まり第五六ＭＳ大隊（十八機のMS-06Cザクからなるスピカ艦隊付きＭＳ部隊）の司令部に出頭し初めてこの娘と会った時、
「グランヒッコリ・グラーグ少尉だ。よろしくラクハン君」
「グランヒッコリ・・・長い名前ね。グランと呼ぶけど、いいでしょ」
と一方的に言い放ち、呆れる人事士官とグランヒッコリを前に涼しい顔でいたのだ。以来、ブーカにとってグランヒッコリ・グラーグ少尉は「グラン」となった。
「まぁ、とにかく」
　グランヒッコリは文句を言うのを止めにした。ノーマルスーツをロッカーから取り出しながら言う。
「ジムニーにあとどれくらいかかるか確認してくれ。その間に私は操縦系のチューニングをするから」
「あら？」
　ブーカは不思議そうに首をかしげた。
「ザクにはわたしが乗るんじゃないの？」
「いいや私が乗る」
「じゃぁ、」
　ブーカはほっぺたをふくらませた。
「わたしは、グランが戦闘しているあいだ、何していればいいのよ！」
　グランヒッコリはスーツに手を通しかけたまま、動きをとめた。
「・・・待機しててくれ」
「待機？グランが戻って来る時は戦闘が終っているか、モビルスーツを壊した時じゃない。どちらにしろわたしは出撃できない」
「何が言いたい」
　グランヒッコリは向き直ってブーカの正面でたずねた。ブーカはグランヒッコリの目を見つめつつ言った。
「ザクに乗りたい」
　グランヒッコリの顔色が変わった。
「乗りたいったら、乗りたい」
　グランヒッコリのこめかみのあたりがぴくぴく動いた。ブーカは両手を握り締めて叫んだ。
「乗せてよ、乗せてよ、乗せてよぉ！」
　グランヒッコリはふるふると震えだしていたが、ブーカはそうした変化を無視してさらに言った。
「ねぇったら、ねぇ」
「うるさいっ！」
　グランヒッコリの浅黒い顔は鮮やかな赤い色に変わっていた。
「ザクに乗るのが君である必要が無いんだよ」
「必要性なら、グランである必要もないわよ」
「・・・なに？」
「悪いけど、あなたよりよほどうまくザクを扱えるわよ、わたし」
「ううううううううう」
「ねぇ、代わってよ」
　たぶん、この娘の方が自分よりうまいだろう、と、グランヒッコリも思う。この娘はＭＳの訓練過程で主席だったらしい。だが素行に問題があるということで第一線に行かずに、ずっと後方の哨戒部隊にいたのだという噂を聞いた。あの時の人事担当官は苦笑してほんととも嘘とも言わなかったが、本当なのだ、とグランヒッコリは確信した。
　と、切れそうな神経で考えていると、待機室のドアが開いた。
「おや、ここにいたんですね」
　ジムニー・アンダヒルが入ってきた。彼は十代後半のモビルスーツの整備員だ。やわらかそうな赤い髪にそばかすの愛敬のある青年だ。
「動力部と火器管制部の整備は済みました。しかしですね、脚は・・・」
　言葉をとめてジムニーは二人をかわるがわる見た。
「あの、入って来ちゃいけなかったんですかねぇ？」
「ううう。ちょっと席を外してくれないか、ジムニー」
「そんなことないわ。あなたどう思う？ジムニー」
「どうって？」
「グランが自分で出撃するというの。わたしが出撃可能なのによ！」
　そこでブーカは息を吸い込んでから言った。
「変でしょ？」
　ブーカに迫られてジムニーは心底困った表情をした。助けを求めるようにグランヒッコリの方を見た。
「あの、少尉殿は具合が悪いのですか？」
「見ての通りだ。元気だよ」
「では、少尉殿はおかしくありませんよ、ラクハン軍曹殿」
　ブーカは信じられないわ、という表情を見せた。可愛い、でも言う事はめちゃくちゃだから困ってしまう。
　ブーカは両手をふって叫んだ。
「もう、わたしの方がザクをうまく扱えるのに！！」
　そのまま部屋を出ようとした。
「どこへ行くんだ、ブーカ」
「艦長室！」
「！」
　止める間もなくブーカは出ていった。
「ジムニー、追うんだ」
　しかしジムニーが部屋を出るとすでにブーカの姿はなかった。
「行っちゃいましたね」
「・・・・・とんでもないはねっかえりだ。あの娘は」
「でも、チャーミングですよねぇ」
　ジムニーは顔を赤らめながら言った。
　はぁ。グランヒッコリは小さくため息をはいた。同感だけど私の身にもなってくれよ。グランヒッコリは艦長に電話をかけブーカのことを告げた。艦長は、うむ、とだけ言った。
「で、ジムニー、言いかけたことは？」
　ジムニーはグランヒッコリにMS-06Cの装備を聞きに来たのだった。出撃までに武器を搭載しなければならない。グランヒッコリは対艦攻撃のマニュアルどおりバズーカを選んだ。ヒートホークは使わないと思うが念のために持って行く。
　グランヒッコリは装備について次々と決めて行き、ジムニーはその言葉をメモした。
　ヘルメットを抱えて待機室コンテナのエアロックへ行く。外へ出るとすぐにモビルスーツのコクピットだった。加速中なので命綱をつけてコクピットへ行く。シートに座るとグランヒッコリは操縦系統のチェックに入った。
「ジムニー、聞こえるか」
「はい、聞こえます、少尉」
「始めるぞ。まずはメインバーニア」
　コクピットのグランヒッコリが操縦装置を操作し、ジムニーはコンテナの中からMS-06Cの動作をモニタした。思うように動くまで、鈍いとか過敏だとか、チューニングするためだ。チューニングしないとMS-06Cはその能力の何分の一も動いてくれない。ジムニーの他にも二人の整備員が主機のメンテナンスハッチに取りついて作業をしていた。
　チューニングを進めていると、こつん、とヘルメットを叩かれた。顔をあげるとノーマルスーツを着たブーカがコックピットの入り口にいた。
「ねぇ、気が変わった？」
　うううう、とうなるとグランヒッコリはジムニーに少し待っててくれと頼み、周波数をプライベートに切り替えた。これなら他の人に聞かれずにブーカとだけ通話できる。
「艦長は何と言った」
「グランに任せたって」
「ふむ。じゃ、出撃は私がする。変わらない・・・・・」
「ほんとに？？」
　どうやって彼女をあきらめさせようか、グランヒッコリは思った。
「なぁ、君は訓練でいい成績だったろうけど、これは実戦だ」
　わかっているわ、という顔をしているんだろうな、この白い娘は。と、グランヒッコリは思った。その通りだった。実際にバイザーの奥でブーカはそういう顔をしていた。
「実戦でもうまくできる。わたしは自信がある」
「なぜ、そんなに戦いたがる？遊びじゃないのはわかっているよな？」
　すぐに応えがあると思って放った質問だったが、ブーカはちょっと黙った。
「グランは、なぜ戦うの？」
「えっ？！」
「あなたは地球生まれじゃない。どうしてジオンの為に戦うのよ？」
　ちょっと予期していない質問だった。グランヒッコリは考えたが答えは一つしか思い浮かばなかった。
「軍人だからな。これが仕事だ」
　ブーカはヘルメットを近づけて来た。そして言った。
「この戦争は、わたしの祖国をまもるための戦いなの」
「祖国？」
　聞き慣れない言葉を聞いてグランヒッコリは考えた。祖国のための戦い。
「サイド３は私が生まれたコロニーよ。連邦は、地球は、コロニーの自由を奪おうとしている・・・」
　サイド３を守るために戦っているのだとブーカは言った。自分の生まれた家を町をコロニーを守るために戦うのだと。自分はMS-06Cをうまく扱える自信がある。戦わなければならない理由もある、とブーカは言った。
「だから、グラン。お願い。代わって」
　思いがけない言葉を聞かされ、ブーカの決意に気押されたグランヒッコリは思わずうなずきそうになったが、首を振った。
「だめだ」
「どうして、わからないの？」
「それは、君の方だよブーカ。命令といわなければ納得してくれないのか」
　命令と聞いてブーカは肩を落とした。
「命令じゃ、仕方ないわね」
　そのままブーカはコクピットから身体をひいた。グランヒッコリはつぶやいた。
「よく、君が軍隊に入れたな」
　つぶやきは聞こえてしまった。ブーカは振り向いた。
「それは、わたしが優秀だからよ」
　そのままハッチの縁を蹴ってコクピットを離れると、ガスを吹かして宙を飛んだ。すぐにコンテナのハッチにたどりついた。ブーカは恐くないのか命綱をつけてなかった。彼女はハッチの中に消えた。
　通話モードを切り替えるとジムニーがたずねた。
「ブーカさんはなにか言ってました？」
「あきらめたみたいだ。・・・作業を続けよう」
　グランヒッコリは素っ気なくいうとコンソールの作業に戻った。祖国、か。初めて聞いた言葉だった。

to be continue...