黄金の戦士 第２部 放浪編
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プロローグ
冬・・・・。
森のほとんどの木々は葉を落し、虫の音すらも聞こえない。
そんな森をマントで身体を覆ったサークルがいた。
辺りは、薄闇に染まり、足元も見えなくなりつつある。どんよりと曇った空がさらに闇を広げる。サークルは、携帯用のランプに火をともすと先を急いだ。
森を抜けるころ、目の前に白いものが落ちてきた。サークルの鼻の頭に止まるとすぐに蒸発して消える。
サークルは、足を止めると空を見上げた。
サークル「雪・・・か・・・。」
空からゆっくりと今年初めての雪が落ちてくる。
サークルは、そのまま空を見つめた。闇の中から白い色がゆっくりと落ちてくる。まるで、自分が空に向かって上がっているように感じられる。
サークルが、前に視線を戻した時には、辺りはすっかり白い世界になっていた。
サークルは、マントの裾を合わせ、マフラーを巻直す。そして、積もり始めた雪を踏みしめ、遠くに見える街の光に向かって歩きだした。
第６章「戦士の礼」
この世界では、基本的に自分の身は自分で守れ、という鉄則がある。どんな世の中でも争いの種は尽きない。他種族との縄張り争い、強盗、殺人者、危険は一杯ある。
一応、それぞれの都市には、役人がいて都市の治安を計っているが、都市間の交易者までの面倒は見切れない。
そうなると、自分の身を守れない人の護衛という仕事が必ず存在する。
剣技を会得した物の仕事としてや、魔法使いの副収入、賞金首狙い等々の出番となる。
サークルも、そうした１人となって生活費を稼ぎ、また、腕を磨いた。
まだ、歳が若いので１人前と見なして貰えないのが悩みの種だった。
そんなある時、サークルは、仕事を探しに、また、一人前に酒でも飲もうかと思って酒場に入ったのであった。
カウンターで薄い水割りを頼み、ちびちび飲みながら他のテーブルの話に耳を傾ける。約１年の経験から来ている情報収集の方法だ。いい仕事や、危険箇所の話、盗賊の情報、最近の荷の傾向、いろんな話が聞ける。
街に初めて来て、仕事をやろうとする人は、大抵１人でカウンターで話を聞いていることが多い。今も、サークルの他に２人の人間がカウンターで酒を飲んでいた。
水割りが１杯空になると、サークルはお代りを頼む。ついでに主人に仕事
の話を聞いてみた。
主人は、グラスを磨いていた手を休めるとサークルの顔をまじまじと見つめた。そして、グラス磨きに戻りながら答えた。
主人 「・・・お前さんのような若造を雇うような酔狂な奴はいないだ
ろうよ。」
取り付くしまもない。どこの街でも見られる反応だ。最初はムカッとしていたが、最近は慣れてしまってなにも感じなくなった。サークルは肩をすくめると、水割りを消費しはじめた。
サークル（後は、ここの客に当たってみるか。仲間に入れてくれるかもしれないし。・・・期待薄だけど。）
水割が半分程無くなったところで、隣のカウンターで聞き耳を立てていた男が話かけてきた。
男 「坊主、仕事を探しているのか？」
サークル「・・・。」
もう、３０代後半だろう、くたびれかかった鎧と中程度の長さの剣を持った、不精髭を生やした戦士である。サークルは、うさんくさそうな目で男を見た。
戦士 「そんな目で見るなって。俺の名はバイステンってんだ。バイスって呼んでくれ。お前さん、仕事探しているんだろ？どうだ、俺と組まねぇか？」
サークル「あなたと組んで、俺にどんなメリットがあるんです？」
バイス 「俺と組んで護衛とかの仕事をやるんだ。お前さん、その歳で仕事を見付けるの苦労しているんだろう？俺が紹介してやる。」
サークル「で？」
バイス 「１人で護衛の仕事ってのは、なかなかねえもんなんだ。大抵２人以上とかって制限がついていやがる。そこでお前さんと組まないかってな話だ。どうだ？１口のらねぇか？俺も相棒を探していたんだ。１人じゃ、仕事見付からなくてな。」
サークルは、考えた。確かに筋は通っている。いままでサークルの経験からすると、１人で護衛を雇ってくれたのはほとんどない。大抵チームを組んでいる所に取られてしまう。たまに人数が足りなかったりしたり、大口の護衛のときとかに回ってくるだけだ。
サークルは、バイスの目をじっとみた。
サークル「で？あなたの取り分は？」
バイス 「坊主、話がわかるな。そうだな。仕事料の１０％で？」
サークル「４％。」
(中略：熾烈な価格調整が行われる)
バイス 「ちっ。俺の負けだ。５％でいい。」
サークル「よろしく。俺の名はサークル。」
サークルは、手を差しのべた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
ある日、サークルは、バイスと組んで３回目の仕事をこなしていた。
確かにバイスはうまく仕事を取ってきた。また、サークルもうまく仕事をこなすべく努力をした。
１回、２回と安い物資を運んでいたためか、運が良かったのか、襲撃はなく仕事を順調に終えることができた。
３回目の仕事は、商隊の護衛であった。商隊の人数は１０人ほど。荷物も大したものはないはずである。護衛はサークルとバイスだけ。いざとなったら商隊の連中も武器を取るはずである。
７日間の日程をこなし、後１日で予定の街に付くといったところである。
早朝、まだ太陽も登っていない頃、サークルは、テントの中で辺りのざわめきにハッと目を覚ました。真夜中まで立ち番をしていて、眠かったのだが、騒がしさは尋常ではない。サークルは、剣を掴むとテントを飛び出した。
テントを飛び出すと２人程の人が倒れているのが目に入った。一瞬盗賊の襲撃かと思う。しかし、他の人を見るとそうではなさそうだ。倒れた人を、商隊の他の人が介抱をしている。サークルは事態が飲み込めなかったが、取り合えずと倒れている人の方へと向かった。
っと、いきなり、その前に赤ら顔の太った親父が現れた。この商隊の隊長である。親父はチョビ髭を怒りに振るわせながら叫んだ。
親父 「お前の仲間はどこにいった！！」
サークル「え？」
親父 「お前の仲間だ！お前の仲間が荷物を猫ババして消えやがった！！」
サークルは、頭の中が真っ白になった。バイスが泥棒を？信頼できると思っていたのに。
親父 「ふん。その様子だとお前はなにも知らんようだな。だが、責任はとってもらうぞ。」
サークル「・・・責任って・・・。」
親父 「働いて、損害分を返すんだ！もっとも荷物を取り返して来れば話は別だが・・・。」
サークル「・・・・・・・取り返します！・・・取り返して来ます！」
親父 「ふん。できるか？」
働いて返していたら、いつまでかかるかわかったものではない。やるしかない。サークルは、馬を１頭借りると、バイスを探しに駆け出した。
親父 「一日、明日の朝まで、この場所で待っててやる。帰って来なかったりした場合には、明日からお前は賞金首だ。」
親父は、顔面蒼白のサークルに釘を差す。サークルは、なにがなんでもバイスを見付けねばならなくなったのである。
馬の上で、登って来た太陽の光を浴びながら、サークルは真剣に考え込む。
サークル（どこだ。どこにいった？待て待て、やみくもに動いても時間の無駄だ。考えろ、考えろ。）
拳で頭をがんがんと叩く。
サークル（ここは、街に近い。街に逃げ込むか？いや、ここの街はそんなに大きくない。探せばすぐに見付かる。そんなことするはずない。荷物は結構大きい荷物だ。それを遠くまで運ぶか？馬で運んでいったみたいだが、重い荷物をもって遠距離を動くわけがない。追い付かれてしまう。・・・となると、近くだ。どっかに隠しておいて少しずつ運びだす。そうすれば、足もつきにくいし、小回りも効く。・・・どこだ？どこに隠す？）
サークルは地図を広げた。近くには獣道しかないような小さな森、後は人も住んでいない荒れ地である。隠そうと思えばどこにでも隠せそうだ。
サークル（むぅ。俺ならば・・・目印がほしいな。・・・もっと楽な所？川・・・・滝！？）
目を皿のようにして地図を見ると森の中に小さな川があり、滝があることがわかる。他に手がかりもなし、サークルは、ここを目指すことにした。
サークル（せめて、２、３日中に雨が降ってくれていればな。足跡をたどるということもできたのに。）
乾いて落葉の積もった森の中では足跡は見付からない。
地図に従って２時間も馬にゆられるとと、滝の音が聞こえて来た。サークルは馬を降りると、足音をさせないように滝に向かって歩きだした。
滝の近くまでくると、木立の陰からそっと辺りをうかがう。
サークル（大当たりだ。）
そこには、荷物を整理しようとしているバイスの姿があった。
近くに馬をつないで、半分程荷物を下ろし、中身を確認している。
サークルは剣を抜くとゆっくりと近付いた。人の気配に気づいたバイスが顔を上げる。一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつものふてぶてしい態度に戻った。
バイス 「坊主か・・・。」
サークル「バイス・・・あんたはせこい奴だとは思っっていたが、正直な奴だと思っていた。こんなことするとはな。」
バイス 「・・・ふん、若いな。俺見たいな奴が稼ぐにはこうでもしないとな。・・・どうだ？坊主。もう１度、俺と組まないか？あのケチ親父、安い荷物だなんて嘘つきやがって。こいつらを売りさばけば結構な値段になるぜ。どうだ？それを山分けってことで。」
バイスは、両手を広げて荷物を指し示す。皮の袋に入った香辛料が目につく。確かに売り捌けばしばらくは遊んで暮らせるだけの金になる。
サークル「断る。俺はまだ、賞金首になる気はない。」
バイス 「ふん、若いな。俺もお前のころはそう思ったさ。だがな、時は人を変えるんだ。お前も俺の気持ちがわかる時がくるさ。それに、賞金首と言ったって大した物じゃない。俺のようなちんけな賞金を狙ってくる奴なんざぁいねぇ。だから、こうして、賞金首であることを隠して、護衛の仕事なんぞをやっていられる。」
バイスも剣を引き抜く。長めの両刃剣だ。対するサークルの剣は細身の剣である。バイスの剣をまともに受けたら折れる可能性もある。
バイス 「坊主。お前は俺を殺せるか？人殺しなんてやったこともなかろう。」
サークル「残念だけれど、今まで８人程殺している。」
バイス 「ほっ。その歳で８人か。大量殺人者じゃないか。俺みたいな小悪党より、よっぽどタチが悪いぜ。」
バイスは、サークルを揺さぶろうと悪口による攻撃をかけてきた。しかし、サークルは動じなかった。
サークル「なんとでも言え。俺は、彼らを殺したからこそ、ここにいる。」
サークルは、剣を正眼に構え直した。
その前に、いきなりバイスが足元の砂利をサークルに向かって蹴り上げた。
サークル「くぅ！」
サークルが、砂利を避けて身を沈める。砂利が目に入らないように、剣と腕によってカバーする。
そこを狙ってバイスが剣を切り下げる。
バイス 「死ねーい！」
サークルは、剣を避けると横に転がった。立上りざまに小さく呪文を唱える。
バイス 「ぜぃやぁ！」
サークルは、薙いだ剣をバックステップでかわす。
剣を振り回して体が崩れたバイスの顔面に、サークルの呪文、炎の矢が突き刺さった。
バイス 「がっ。」
次の瞬間、サークルの突きがバイスの腹に深々と突き刺さった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
バイス 「ちくしょう。魔法が使えるなんて聞いてねえぞ。」
掠れた声でバイスが言う。顔には死の影が濃い。顔は、炎によって半分焼けただれている。口を動かすのも辛そうだ。
サークル「水だ。飲め。」
サークルは、水をくんできて、バイスに飲ませる。ついでに火傷にもかけてやる。
バイス 「俺も・・・お前くらい強ければな・・・サークル・・・。」
サークル「・・・初めて名前で呼んでくれたな。」
バイスは、笑おうと顔をゆがめた。
バイス 「はは、戦士には・・・それなりの・・・礼を払わねばな・・・。う、うくくくくく・・・・・・・・・・。」
サークルは、バイスの最後を見届けるとゆっくりと穴を掘り始めた。
河原は、砂利で簡単に穴が掘れる。バイスの死体を穴にいれ、両手に剣を握らせてやる。
サークル「あんたは、戦士として死んだのだからな・・・。戦士として葬ってやるよ。」
バイスを埋め終えると、サークルは荷物をバイスの馬と自分の馬にくくりつけ、商隊の所へ戻って行った。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
商隊では、まさか本当に取り戻してくるとは思っていなかったようだ。
荷物を抱えて帰ってきたサークルを驚きを持って向かえた。
親父 「で、あの泥棒野郎はどうしたんだ？」
サークル「殺しました。」
サークルは、顔を伏せて言う。
親父 「で、殺したという証拠は？」
サークル「・・・そんなものありませんが・・・。」
親父 「なぜだ！普通は、手首を持ってくるとか、首を持ってくるとかするだろう！！本当に殺したのか？」
赤ら顔を更に赤くして、興奮する親父。商隊の連中は、遠巻きにして嫌な顔をする。彼らとしては、そんな物は見たくないらしい。
顔を伏せていたサークルであったが、その言葉を聞いて目を上げる。
怒りを込めた目がギラリと光る。
サークル「お前は・・・・俺の仲間だった奴を嘲笑おうと言うのか。」
親父 「ひっ。」
サークル「次の街まで後１日だ。それまで護衛すればいいんだな。」
腰を抜かして座り込んだ親父を睨みつける。そして、身体を翻すと自分の持ち場へと戻っていった。
結局、残り１日をサークルは、１人で護衛した。
結局、親父はサークル１人分だけ給料を払った。バイスの分は、彼が殴り倒した商隊の人の慰謝料に当てるとだけ言った。本当は、サークルの分の給料も取り上げたかったようだが、サークルが怖かったのであろう。
その夜、サークルは、宿屋の窓から街並みを見下ろしてつぶやいた。
サークル「戦士に対する礼か・・・。」
第７章「出会い」
初夏。
サークルは、大陸中西部にある、草原に来ていた。一面、見渡すかぎりの草はらである。膝程の葉の長い草が水平線の彼方まで続き、風に揺られている姿は、まさに壮観であった。
サークルは、その草原の中にぽつんとたたずむ木を目指して歩いた。
この真っ平らな草原中にあって、一箇所だけ、小さな丘になっており、その丘の頂上に大きな木が生えている場所があるのだ。
じわっと汗ばむ昼過ぎの太陽を浴びながら、小高い丘を登る。丘と言ってもほんの２、３メートルの高さ程しかない。サークルはすぐ頂上についた。
青々としげった葉っぱが、丘の上に涼しげな陰をつくり出している。
いままでなかったことだが、今日の丘には、人影が見えた。木陰に座って景色を眺めているようだ。
サークル（ちっ。先客がいたか。）
１人でこの景色を一人占めしたかったサークルは、内心舌うちをした。
このまま、引き返そうかどうしようか迷う。しかし、そのまま１歩、２歩と近付いた。
人の気配に気づいたか、人影が振り向く。人影は女性であった。
全身を覆う黒を基調としたローブ、整った顔立ち、褐色の肌、そして、黒い・・・ いや闇の色に染まった目と長い髪。
女性は、木に寄りかかり、あぐらをかいて、手には飲物の入った皮袋を持っている。
サークルは、女性のすぐそばまで歩いて止まった。
サークル（・・・・神だ・・・。）
サークルは、直感的に女性を神だと悟った。
人間そっくりな容貌。エルフのように耳が尖っているわけではないし、妖魔達のように異形の姿をしているわけでもない。
しかし、あきらかに人間離れした気配。人間にはとても持てない強大な魔力。
っと、女神が口を開く。
女神 「・・・この景色に惹かれたものか？」
澄んだ響きを持つ声。
思わず、女神に見惚れていたサークルは、その言葉で我に返った。あわててとりつくろおうと、じたばたとする。
サークル「あ、あの・・・・神・・・神様で・・いらっしゃいますか？」
あまりの緊張で裏声になってしまう。
そんなサークルを見て、女神は笑い声をあげた。
女神 「あはっは。そんなに固くなるな。いかにも私は神だ。名は、カダルト。別名、死を司る神とも呼ばれているがな。」
サークル「・・・・か・・・カダルト・・・・様・・・・。」
サークルは、硬直した。あまりの驚きに呼吸を忘れてしまい、しばらくして激しく咳こんだくらいであった。なにしろ、全世界で６人しかいない１級神である。それが自分の目の前で、自分と会話してくれたのだ。これを驚かずしてなんとしよう！
空気を求めてぜーはーとやっているサークルを、カダルトは面白そうに見つめた。
カダルト「お前は、土下座して、今の非礼を詫びようなどと考えているだろう。」
サークル（げっ。心を読まれた！？）
カダルト「お前は今、心を読まれたと思っただろう。」
サークル「は、はい・・・。読心術ですか？」
カダルト「くすくすくす。はっはっは。いや、私にもそんな術はない。ただ、お前の様子を観察していただけだ。」
カダルトは、手の飲物を１口飲んだ。
カダルト「そんなところにぼけっと突立ってないで、座ったらどうだ？今日は天気がいいから、眺めも最高だ。」
カダルトは、サークルから目を移して、再び景色を眺めた。
ざっくばらんな調子のカダルトを見て、ちょっとほっとしたサークルであった。荷物を下ろして、草の上に正座をする。普通に座っては失礼にあたると思ったのだ。
心地よい微風が吹く。ざざぁ〜という音とともに草原が波うつ。夏の雲が草の海の上に影を落としながら、ゆっくりと流れていく。木陰が２人に涼しい影を提供する。
サークル「ここにはよく来なさるのですか？」
カダルト「この季節には、毎年くる。」
サークル「私も、２年程前にこの場所を知ったのですが、よく来ますよ。去年の夏は霧が出てしまって、何も見えませんでしたが。」
カダルト「霧か。それもまたよい。こう眺めのいい時はたまにあるから楽しいのであって、毎年そうならば、やはり飽きてしまう。そう考えると、雨の日や霧の日も、なかなかオツなものだ。」
カダルトは、飲物を１口飲むと再びサークルに目を戻した。正座しているサークルの姿を上から下まで嘗めるように見つめる。その視線が、サークルの腰の剣の位置で止まった。
カダルト「お前は剣士か？」
サークル「は、はい。・・・剣士と言うより魔法戦士を目指しているのですが、まだまだ未熟ものです。」
カダルト「魔法戦士か。魔法と剣を同時に使うと言う意味では、私も魔法戦士だがな。」
サークル「えっ？そうなんですか。」
なぜか、うれそうににこにこするサークル。
カダルト「しかし、魔法戦士なんて珍しいな。どうしてだ？剣だけか、魔法だけのほうが楽だろうに。」
サークル「親友にどうしても負かしてやりたい奴がいるもので。ところが、そいつは、剣技に関しては天才的な奴で、どうしても勝てないのです。だから、魔法と剣の混成で戦ったら勝つのではないかと。ははは。」
意味もなく、照れてしまって頭をかくサークル。
カダルト「親友相手にか。」
サークル「はぃ。生まれた時から一緒に育って、一緒に遊んだ仲です。まぁ、兄弟みたいなものですよ。」
カダルトは、また飲物を１口飲むと景色の方に目を転じた。遠くを見つめる目をしてつぶやくように言葉を発する。
カダルト「そうか。・・・親友とな。」
サークル「・・・。」
カダルトは、上半身をねじ曲げるようにして向き直った。先程までなかった真剣な眼差しでサークルを見つめる。
カダルト「同じ道を歩けば、いつかはぶつかるものだ。お前は、それでいいのか？いつかは、その親友を殺す日がくるかもしれないんだぞ。」
その剣幕に一瞬ひるんだサークルだが、真剣な目でカダルトを見返した。
サークル「わかっています。覚悟はできているつもりです。」
カダルト「・・・・・ふっふ。ふふふふふふ。」
サークル「？」
カダルト「ははははは。・・・・いやこんな話題はやめよう。せっかくの風景が台無しになる。」
カダルトは、飲物を１口飲むとまた景色をぼんやりと眺めだした。
サークル（俺が・・・ここにいては・・・邪魔かな？）
サークルは、正座を解いて立ち上がる・・・しかし、足が痺れていた・・・。
サークル（うっくっ。）
膝がカックンとなり、サークルは、後ろへ倒れ込んだ。
サークル（ありゃりゃ？）
そのまま丘の下までころげ落ちる。
サークル（うわっと！）
くさむらに頭から突っ込みようやく止まる。
カダルト「・・・・お前・・・なにやっているんだ？」
サークル「・・・足が痺れたんです・・・。」
頭からくさむらに突っ込み、逆さまになっているサークルをみて、呆れたような顔をするカダルト。その呆れたのはやがて笑いに変わったようだ。
カダルト「・・・・ぷっ。・・・くくくくくくく。」
最初、カダルトは声を押し殺して笑っていた。肩を震わせ必死になって笑いを押える。
カダルト「だーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは。ひぃひぃひぃ。」
我慢仕切れなかったようだ。
カダルトは、目に涙を溜めて空を向いて大笑いをしている。
サークルは、ゆっくりと立ち上がると、足を踏みしめ痺れを取りつつ、ゆっくりと丘を登った。
サークル「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。」
サークルは、カダルトの前まで歩いて来て呆れ顔でいう。
カダルトは、腹を押えてのたうち回っていた。
カダルト「はぁ、はぁ。いや〜面白かった。・・・くくくくく。なか、なかなか素晴らしい芸を見せてもらったぞ。」
やっと笑いを納めたカダルト。サークルは憮然とした表情である。
サークル「別にやりたくてやったわけではありません。」
カダルト「くくく。いや、こんなに笑ったのは久しぶりだ。私の目の前であれだけの阿呆なことをやってくれる奴なんて、そうそうにいないからな。」
そういうものなのかとサークルは思う。確かに神の前でこんな阿呆なことをやる奴なんかいないだろう。案外、神というのは寂しい種族かも知れないとサークルは思った。
ハンカチを取り出して涙を拭いているカダルト。そんなしぐさは人間となんら変わりがない。
サークル（美しいな・・・。）
ハンカチをしまいつつ、にこにこと微笑むカダルトをみて、サークルは思う。
そこに、人間と同じ姿でいるというのに、まるで人間という感じがしない。存在が回りの自然に融け込んでいて、かけらも違和感がない。人の形をした植物だと言われても言い返せないような気がする。どんな風に存在していても、どんな動きをしていても、自然と調和している。彼女を見つめることは、自然を見つめるのと同じなのかもしれないと感じる。
カダルト「うん？どうしたのだ？ぼんやりとして。」
サークル「・・・・・！あ、え、いや、その、あの、・・・カダルト様に見惚れていまして・・・・。」
カダルト「・・。はっはっはっは。そんなこと言われるのも久しぶりだな。・・・・・お前、本当に変った奴だな。」
面白そうにサークルを見つめるカダルト。
サークル「はぁ、そうなんですか？」
カダルト「うん。ずいぶん変っていると思うぞ。」
「さてと。」といってカダルトは立ち上がった。すでに西の空は薄い赤に染まりかけている。
サークル（・・・・。神には初めて会ったけれど、こーゆー自由奔放な人も居るんだな。神は、怖い人というイメージがあったのだがな。）
カダルトは、服についた草をぱんぱんと払い落す。
カダルト「今日は、非常に楽しかったぞ。ここまで楽しかったのも久しぶりだ。もし、お前がつまらない奴で、私の景色を眺めるのを邪魔しにきただけの奴だったら、殺してやろうかと思っていたのだがな。・・・それではな、少年。また、お前が生きているうち、運が良ければ、またあうこともあろう。」
カダルトは、平常の顔で物騒なセリフを口にすると、瞬間移動の魔法で消え去った。
後には、呆然としたサークルが残された。
サークル（前言撤回。やっぱり、神は怖い人しかいない！）
第８章「エルフの森(前編)」
サークル「うむむ。やはりここはこの森を通るのが一番の近道か。」
サークルは、地図とにらめっこをしていた。目的地への道筋を確かめていたのである。
サークルの次の目的地は、全世界の首都とでも言うべきところであった。
都市の名は、「ミネアリスト」。
ここは、山の麓の盆地にできた都市で、山の頂には神の神殿がある。街の 人口はおよそ３万人。世界で最も大きな都市と言われている。
神は、普通自分の統治する土地の辺りに神殿を持っており、普段はそこで暮らしている。ミネアリストの神殿は別で、神が集うための神殿である。
また、１級神の内、光の神アルモスと闇の神ダーシェはここに住んでいるという。
ラーファのゴッドウォリアー決定のための試験もこの神殿にて行われる予定である。試験まで後１年。サークルは、来た時に迷わないようにと下見をする予定なのだ。
サークル「でもな〜、ここの森、エルフとダークエルフが争っているとこだっていうし。」
サークルが悩んでいるのは、目の前に広がる大きな森の中をつっ切るかどうするかという所である。迂回すれば、１０日は遅れる。
しかし、この森はエルフの集落とダークエルフの集落が存在しており、縄張りをめぐって小競り合いが絶えないと聞く。
サークル「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。迷うくらいならばつっ切ろう！いくらエルフったって、捕まったら火あぶりとか、心臓くり抜かれて捧げ物にされるとか・・・・。そんなこと・・・・ないよ・・・・ね・・・・。」
偏見である。そんなことはない。サークルは、エルフやダークエルフにあったことは皆無ではなかったが、連中のいかにも人間を見下した態度は好きになれなかった。確かに、生まれつき魔力を持ち、身は軽く人間ではできないような軽業をこなす。知能は高く、寿命も人間の数倍生きられる。だからといって、人間をそうまで見下すこともないじゃないかと思う。
そんなことだから、エルフに関しては人間側で良からぬ内容の噂が流れる。
その内容に尾ひれがついて大きくなる。そうなるとサークルの考えるような偏見が出来上がる。
サークルは、結局おびえながらも森の中をつっ切ることにしたのであった。
距離からして、森の中で一泊する予定になる。
サークル「ふむ。夜通し・・・歩くのは無理だな。」
半日の行程を終え、その日は小さな小川のそばで寝泊りをした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
翌朝、サークルが朝のコーヒーを飲んでいると・・・。
ガササッと木の上で音が聞こえた。
サークル「！！ 誰だ！」
一挙動でコーヒーを投げ捨て、剣に手をかける。最初の音が起きた後は、し〜んと静まり返っている。
サークルは、目で辺りを伺う。
サークル（動物・・・じゃないな・・・。人の気配だ・・・。）
目の片隅に動くものが止まった。ガササッと木の葉が揺れる。
黒い影が木々の間を走る。
サークル（速い！）
黒い影は、サークルをからかうように木から木へと飛び移る。サークルは、剣に手をかけたまま、じっと影を目で追う。
サークル「そこだ！！」
影が、木の上で一瞬立ち止まったのをサークルは見逃さなかった。右手で腰の後ろの短剣を抜き、アンダースローで投げつける。
影 「きゃん！」
バランスを崩した影が落ちてくる。地面に激突する寸前に、影が光を放った。光を放った影は、まるで重力を操るようにふわりと着地する。
サークル「・・・やはり、エルフか。」
影は、女性のエルフであった。金髪、碧眼。緑色の皮の服を着こなし、柔らかそうな髪は長く伸ばして後ろで縛ってある。まだ若い。おそらく４０歳はいっていないだろう。
そして、背中から翼の形をした光を放っている。
エルフ 「ふん！誰かと思ったら人間じゃないの。」
サークル「・・・。・・・。・・・。はじめまして。エルフのお嬢ちゃん。俺の名はサークル。よろしく。」
一応、手をさしのべて見たものの、予想通りエルフはぷぃっと横を向いてしまった。
サークル「それが、エルフの光の翼か。初めて見たよ。」
エルフ 「あんまりじろじろ見ないでよ。汚れるわ。」
軽蔑の視線を放つエルフ。光の翼が四散してあとかたも無くなる。
サークル「そっか、そっか。この俺様に光を見てもらって光栄か。うんうん。怖い思いをしてこの森を通って正解だったな〜。はっはっは。」
エルフ 「・・・・怖い思いってどーゆー意味よ。」
サークル「君見たいな獰猛なエルフが、通行人を襲っては、生皮を剥ぐって噂を聞いていたものでね〜。」
エルフ 「だ、だ、誰が獰猛ですって！！！」
サークルは、にこにことエルフを指さす。
エルフは、目をつり上げ、顔を真っ赤にした。
サークルは、耳をふさぐ。聞くに絶えない雑言罵詈がエルフの口から飛び出した。
約１０分後。言いたいことを言って酸欠状態になりかかったエルフ。
エルフ「はぁ、はぁ。きょ、今日の所はここまでにしといてやるわ。」
光の翼を広げ、ふわりと宙に浮かぶ。別に翼は羽ばたいているわけではない。動く方向によって微妙に向きを変えるだけである。魔力を噴出して重力を制御しているのだろう。
光の翼はエルフだけに与えられたものである。神にすら使えない。エルフは子供のころに簡単な訓練だけで光の翼をマスターする。その速度は、どんな飛行呪文よりも速く、また小回りを効かすことができる。また、魔力の使用量も飛行呪文より少ないらしい。
エルフは、数メートル浮き上がるとサークルに背を向け加速しようとした。
そのとき、サークルが厳しい目でエルフに声をかけた。
サークル「おい！」
エルフが振り向く。次の瞬間、前を見ていなかったエルフは木の枝に激突した。
サークル「ぶつかるぞ。・・・・って言おうとしたのだが、遅かったか。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
エルフが目を覚ました時、額には冷たいものが乗っていた。しばらく、その感触を楽しんでいたのだが、意識がはっきりするとがばっと飛び起きた。
サークル「・・おお。起きたか。」
エルフ 「・・・こ、ここは・・・？」
剣の稽古をしていたらしいサークル。鎧を脱いで綿入れの姿で剣を担いでいる。
エルフは、一瞬自分がどこにいるのか、わからなかったが、記憶が戻ると、サークルに食って掛かった。
エルフ 「・・・。・・・。お、お前が！！」
サークル「どうどう。興奮するな、名無しのゴンベイ。」
エルフ 「だ、誰が名無しのゴンベイよ！私には、ラーイッシュという名があるのよ！！」
サークル「ほほう。ラーイッシュちゃんか。・・・ちょっと男ぽい名前だな・・・。」
ラーイッシュ「う、うるさいわね！気にしていることを言わないで！大体、あなたがいきなり声をかけるから木にぶつかったのよ！」
サークル「俺は、ぶつかりそうだな・・・と思ったから注意してやろうと思って声をかけたんだぞ。間に合わなかったけれどねー。」
ラーイッシュの怒りの目を避けて、明後日の方向を見るサークル。口笛もつけてごまかそうとする。
ラーイッシュ「あなた・・・わざとやったわね・・・。」
サークル 「お、おお。お湯が沸いたぞ。どうだ？紅茶でも。海洋都市ラダムで買い込んだ葉っぱがあるんだ。おいしいぞ。」
鎧の胸当てをとめながら言う。
ラーイッシュ「まさか、そんなもので懐柔できると思っているんじゃないでしょうね。」
サークル 「ふっふっふ。実は思っている。お茶菓子に昨日村で買ったライ麦饅頭を付けちゃおう。」
鎧を着おわったサークルは、そそくさと２人分のお茶とお菓子を用意する。
なんとなく毒気をぬかれて、ラーイッシュは黙り込む。
サークル 「はい、出来た。」
ラーイッシュ「毒は入って無いわよね。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
サークル 「ねぇねぇ。ラーイッシュちゃん。光の翼をちょっと見せてくれない？」
ラーイッシュ「気持ち悪いわね。嫌よ。あんたなんかに見られたら光が汚れるわ。」
サークル 「いいじゃないか。減るもんじゃなし。」
ラーイッシュ「減るわよ！空飛ぶのは魔力を消費するのよ。・・・ねぇ。おまんじゅうもう１つ頂戴。」
サークル 「翼を見せてくれたら。」
ラーイッシュ「けち！」
(中略：熾烈なまんじゅう争いが起きる)
サークル 「はっはっは。勝ちだ。」
ラーイッシュ「くっ。・・・・。」(←饅頭をほおばっている)
目にくやし涙をためながら饅頭をほおばるラーイッシュを見てサークルは勝利の笑みを浮かべる。
饅頭を紅茶で飲み込んだラーイッシュは立ち上がると光の翼を広げた。
サークルは、ラーイッシュの背後に回って観察する。
１メートル程の光の棒が、肩甲骨の辺りから伸びている。その棒から光の帯が、風にたなびくように揺れている。
サークル 「へぇ、風が吹いている。風系の魔法を制御するのだろうか？」
ラーイッシュ「・・・・・。」
サークルは、そっと手を伸ばして光に触れてみる。軽く押し戻される感触
がある。
サークル （魔力が実体化しているのか・・・？）
その時、光の魔力が変化した！
サークル （！）
サークルは、一瞬で伏せる。全力で脇に飛び退いた。
飛び退いた直後、ラーイッシュの背後で爆発的な風が吹き荒れる。
ラーイッシュ「くっ。失敗したわ。」
サークル 「あ、危なかった・・・・。・・・もう饅頭あげない。」
ラーイッシュ「あ、嘘、嘘。単なる冗談じゃない。そんな目くじら立てて 怒んないでよ。」
第９章「エルフの森(後編)」
サークル達がお茶を飲みおわるころ・・・・。
ラーイッシュ「・・・何か音がしなかった？」
サークル 「？・・・・特に何も聞こえなかったが・・・。」
ラーイッシュ「・・・ほら・・・また聞こえた・・・草を踏む音・・・。」
サークル 「動物じゃないの？」
ラーイッシュ「気配も立てずに忍び寄る動物がいる？」
ラーイッシュは、音の聞こえた方をじっと観察する。サークルも剣に手をかけ、魔法の準備のためにリラックスして呼吸を整える。鳥の声と近くの小川の音だけが聞こえる。・・・いや、確かにラーイッシュの見ている方向から小枝を踏むような音が聞こえた。
ラーイッシュ「誰！？」
？？？ 「・・・・・。」
ラーイッシュ「出てきなさい！！」
存在を気付かれたとわかった敵は、もう存在を隠さずにその姿を現した。
薮をかきわけ２つの人影が現れる。
サークル 「おおっと。ダークエルフだ。」
人影は男女のダークエルフであった。灰色の髪と赤い眼、そして漆黒の肌。色彩以外は隣に立っているラーイッシュと大差はない。２人とも年の頃はラーイッシュと大差ないだろう。
女ダークエルフ「おや、森の中でキャンキャン騒ぐ奴がいると思ったら、ラーイッシュじゃないか。・・・ふふん。人間の雄と逢い引きかい？ふふ。隅に置けないねぇ。」
ラーイッシュ 「ふん。こそこそと泥棒のように近づいてくる雌ブタが居ると思ったら、メルファじゃない。あんたこそなによ、ここは私達白エルフの縄張りよ。わかったらその汚い顔を引っ込めて、とっとと失せなさい！」
頭半個ほど背の高い女ダークエルフメルファは、ラーイッシュを見下ろすようにして睨み付ける。ラーイッシュも負けじと睨み付ける。
メルファの隣でおろおろとする男ダークエルフ。線の細い、そして目も細い気弱そうなダークエルフだ。メルファに何か声をかけようとして、２人の間に入れなくて困っている。
メルファ 「それはあんた達が勝手に決めたことだろう！ここはうちらダークエルフの縄張りだ。消えな！」
ラーイッシュ「消えるのはあんた達の方でしょう！！」
サークルは、２人の間に入ることはあきらめて男ダークエルフに声をかけた。
サークル 「どうです？お茶でも飲みませんか？」
男黒エルフ 「は？」
思わず線目が点目になる男ダークエルフ。サークルは新しいコップを用意すると、先程の紅茶を注ぎだした。
サークル 「あの２人に付き合ってもしょうがないですし。あ、そうそう、自己紹介がまだでしたね。私の名はサークル。」
男黒エルフ 「ダールといいます。よろしく。・・・ラーイッシュさんの知り合いですか？」
自己紹介を返しながら、紅茶のコップを受け取るダール。焚き火を前にして、手に持っていたバスケットは足元に置き、サークルの対面の岩に腰をおろす。２人の方を心配そうに返り見ながら、紅茶を１口すする。
サークルは、焚き火をかき回しながらダールの質問に答えた。
サークル 「知り合い・・・まぁ、今朝知り合ったということを除けば知り合いといえるかも知りませんね。ああ、名前を知ったのもつい３０分程前だってことも除かないと。・・・・やはり知り合いとは言えないかも知りませんね。」
ダール 「はぁ。」
サークルは、焚き火に薪をくべる。火の粉がぱっと散る。また、火が燃えだしたことを確認して、座りなおした。紅茶のカップを持ち１口、２口すする。そして、ダールを見ながら、紅茶のカップを持った手でにらみ合ったまま動かなくなった２人を指し示す。
サークル 「あなた達こそ、ラーイッシュと知合いですか？」
ダール 「今まで、何度か顔あわせています。・・・もっとも顔をあわせるたびに、あんな感じになりますが。」
サークル 「うらやましい関係じゃないですか。」
女性エルフ２人を肴にして紅茶を飲むサークル達。
にらみ合いが続く女の戦いであったが、先に動いたのはラーイッシュであった。
ラーイッシュ「ブス。」
メルファ 「な、な、なんですってぇ！！」
ぼそりと言ったラーイッシュの一言に逆上するメルファ。１０倍の悪口がラーイッシュに向かって突き刺さる。そのダメージにも怯まず更に１０倍の悪口を切り返す。
サークル 「おお。始まった。始まった。」
ダール 「だ、大丈夫でしょうか・・・・。」
サークル 「何度もあることなんでしょう。だったら大丈夫でしょう。どうです？紅茶もう１杯。」
ダール 「いただきます。」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
ラーイッシュ「えぃえぃえぃ。私の悪口を言う口はこの口か！！」
ラーイッシュは、メルファの口に指を引っ掛け引き伸ばす。
メルファ 「いふぇふぇふぇふぇふぇ。なにふんのふぉ！」
メルファは、髪を引っ張るという迎撃行動をとる。
ダールは、自分が髪を引っ張られているように痛そうな顔をした。
ダール 「メルファ、大丈夫かな。」
サークル 「あはは。所詮、女同士の戦いなんてこんなものでしょ。」
？？？？ 「まったくだな。」
いきなり、すぐそばでいきなり女性の声がした。サークルは凍り付く。
気配は全くなかった。無防備のまま間合いに入られてしまったのだ。
サークルは、岩の上を転がる。今まで座っていた岩を盾にして剣を引き抜く。それから初めて相手を確かめた。
カダルト 「ほほう。なかなかの動きだな。ま、戦士ならば当然か。」
サークル 「か、カダルト様・・・・！」
声の主は、闇の１級神カダルトであった。驚くサークル。わけがわからず硬直しているダール。そんな騒ぎを気にもかけず取っ組み合っている女性２人。
カダルト 「うん？お前、どこかであったことがあったかな？顔は見たことがある気がするが。」
カダルトがいぶかしげな顔をする。サークルは、あわてて剣をしまった。直立不動の姿勢で頭を下げる。
サークル 「お久しぶりです、カダルト様。あの１０ヶ月程前に、あの例の草原でお会いしたのですが、おぼえていらっしゃるでしょうか？」
カダルト 「例の草原・・・・ああ、思い出したぞ。丘から転げ落ちた男だったな。そうだ。そうだ。確かにお前だった。」
サークルは、また話しが出来たうれしさといやなことを思い出されて複雑な表情になった。
サークル 「あの時のことは忘れてください。」
ダール 「か、カダルト・・・・様・・・・・ってあの、もしかして、あの死の神カダルト様でありますか！・・・ご、ご無礼を！！」
カダルトが、神であることに気付いたダールが思わず平伏する。
ダールをつまらなさそうに見下ろすカダルト。すぐ興味を失ったように力比べしている女性エルフ２人に視線を移した。
カダルト 「白と黒が小競合いか・・・。確かに小競合いだな。」
サークル 「は？」
カダルト 「ここのエルフがまた、小競合いしているという話を聞いてな。注意しに来たのだがな。くくく。こんな戦いだとはな。」
思わず苦笑いするカダルト。
サークル 「ははは。私達もさっきから見学モードですよ。」
カダルト 「見学するのもいいかもしれんな。・・おい、お前。いつまでそこで寝ているつもりだ。」
平伏したままのダールに声をかける。
ダール 「カダルト様へのご無礼、平に平にご容赦を・・・。」
カダルト 「ええい。貴様が本当に無礼を働いたならば容赦なく殺しているわ。いいからさっさと顔を上げろ。それ以上うっとうしくすると本当に殺すぞ。」
サークルは、ラーイッシュの飲んでいた紅茶カップをすすいで、カダルト用に紅茶を注いだ。自分の分と、ダールの分も注ぎなおす。３人は焚き火を囲むようにして座った。
サークルは、平然としているが、ダールはこんなことでいいのだろうかと、何度もこっそりカダルトの様子をうかがっている。
カダルトは、また髪の毛を引っ張り合いながらの口喧嘩に戻った女性エルフ２人を眺めだした。
木々の間から洩れる日ざしが、お昼を告げる。
サークル「・・・昼飯どうしようかな。」
ダール 「・・・簡単なサンドイッチならばありますけれど。」
不安そうにカダルトをちらりと見る。
カダルト「私も腹が減った。」
ダールは、持って来たバスケットを開けると中身を取り出した。
具は、ハム、卵、レタス、ジャム、果物のスライス等々のサンドイッチであった。サークルとカダルトは遠慮なんて言葉を知らず、ひょいっとサンドイッチをつまむと、パクつき出した。
カダルト「おお。なかなかうまいな。」
ダール 「光栄でございます。」
サークル「うん。・・・アレが作ったのかな？」
サークルは、ラーイッシュの薄い胸にソバットを決めたメルファを指さす。
ダールは、その質問を聞くとちょっと複雑な笑みを浮かべた。
ダール 「ああ、私が作りました。・・・彼女と一緒に食べようと思ったんですが・・・。でもカダルト様に食べていただけて光栄でございます。」
サークル「・・・彼女とはどーゆー関係なの？」
ダール 「いや、単なる幼馴染みなんですよ。」
漆黒の頬を赤くして照れるダール。
サークルは、そんなダールにジト目でちゃちゃを入れる。
サークル「ほほう。ただの幼馴染みねー。ふーん。・・・で、あんなののどこがいいの？」
顔中引っ掻き傷を作って肩で呼吸しながら、壮絶な笑みを浮かべるメルファ。
それをサンドイッチで指し示しながらサークルが言う。
カダルトは、２人の会話には感心なさそうに両手に持ったサンドイッチをぱくつく。
そんなちゃちゃにもめげず、ダールは夢見る顔つきになった。
ダール 「いや、彼女は一見ただの乱暴ものですが、やさしいですし、いい所もたくさんあります。」
サークル「ちぇっ。のろけていやがる。」
カダルト「食った！！」
カダルトは、満足そうな顔になって紅茶を飲み干した。バスケットを覗くと中身はほとんど空になっていた。ちょっと悲しそうな顔をするダール。
カダルト「おおっと。クライマックスかな。」
２人のエルフの戦いは、魔力戦へと移っていた。お互いの右腕を組み合わせ、光の翼を開く。お互い全力を込めて相手を押し込めようとする。
光のすざまじい魔力が、後ろの木々を打ち揺らす。
サークル「・・・すげぇ。・・・ダークエルフだから闇色の翼だと思ったんだけれど、普通の光だな。・・・・・・・・・・・・・・・。ふっ。ラーイッシュが勝つ方に５０ゴールドだ。受ける？」
ダール 「・・・・メルファが勝ちます！５０ゴールド！」
カダルト「じゃあ、引き分けに１００ゴールドだ。」
双方の光の翼は更に光を増す。
メルファは、背の高さを利用して上からラーイッシュを押さえこもうとする。光の翼を地面に叩き付けるようにして対抗するラーイッシュ。
カダルト「魔力では白エルフが優っている。しかし、力と上背では、黒エルフが有利だな。」
エルフを数百メートルの高さまで運ぶための力が、森の木々にぶつかる。
大木がうち震え、青い木の葉が舞飛ぶ。
それの嵐は、約１０分ほどで終わった。
２人の翼が突然極端に短くなり、やがて完全に消え去ってしまったのだ。
ラーイッシュ「ふっ・・・・やるじゃない。」
メルファ 「あ、あなたもね。」
そのまま、魔力と気力を使い果たした２人は崩れ落ちる用にして倒れた。
あわてて、ダールがメルファに駆け寄る。サークルもちょっと心配になってラーイッシュに近寄り介抱する。
カダルト「２人とも。賭けは私の勝ちだな。」
２人の所にゆっくりと歩み寄りながら言うカダルト。目には楽しそうな色が浮かんでいる。
サークル「そのようですね。・・・くっそぉ。ラーイッシュの根性なし。」
カダルト「くくくくくく。はっはっはっはっはっは。いや。楽しい勝負であったな。」
楽しげに笑いだしたカダルトは、ラーイッシュにゆっくりと近づいた。引っかき傷だらけの顔に手をかざす。
するとどうだろう。見る見るうちにラーイッシュの傷がふさがっていく。神だけが使える治癒の魔法だ。
カダルト「女の子が顔に傷を付けるなんて。困った奴等だな。」
目にはやさしい光が浮かぶ。カダルトの普段は見せないだろう、意外な一面を見て、サークルは複雑な心境になった。
カダルトは、メルファの方も直してやると、サークルに向き直った。
カダルト「今日も実に楽しかったぞ。お前と会うと実に楽しいイベントが用意されているな。次にあった時はどんなものを見せてくれるのかな？」
サークル「私は、前回も今回もイベントなんか準備したことないですが。」
カダルト「はっはっは。この楽しい時間を提供してくれたことだし。賭けの金額に関してはちゃらにしておいてやろう。」
カダルトは、瞬間移動の魔法を使おうとして、呪文を唱えはじめた。
だが、詠唱を途中で止めると、意外そうな顔でサークルを見た。
カダルト「そういえば。」
サークル「はぃ？」
カダルト「そういえば、私は、まだお前の名前を聞いていなかったな。」
サークル「サークルと申します。」
カダルト「サークルか。うん。よい名だな。おぼえておこう。」
カダルトは、中断した詠唱を再開すると今度こそ消え去った。
サークルは、倒れたままで可愛い寝息を立てているラーイッシュ見てため息をついた。
サークル「あっちは、あっちに預けて置けばよいとして。ラーイッシュの方は・・・やっぱり俺が送り届けにゃいけないのか？」
第１０章「カダルトの誘い」
サークルは、うんざりしたように相手を見た。
２人程のコボルトが、金を出さないとどーたらこーたらと、さっきから同じことを繰り返している。しかも手には錆びたショートソードをちらつかせている。
雪がうっすらと積もった森。その中の１本道である。
サークルは、防寒用のマントを着込んでいるので一見にはただの旅人としか見えないはずだ。戦士だと知ったらコボルト達の対応も少しは違っただろうに。
サークルは、コボルト達に出会ってから一言も喋っていない。明らかにコボルト達は焦っていた。何か反応を引き出そうとしている。
サークル（これが、こいつら２人だけだったら斬り捨てるか、追っ払えば終りなのだがな。）
コボルトの気配は、他の部分からも感じる。もう２、３人いるようだ。
茂みに潜んで弓で狙っているのだろう。
サークル（あそこの茂みと・・・反対側に１人かな。・・・やるか。）
サークルは、気づかれないようにマントのボタンと荷物をゆるめる。
そしてマントごと荷物を下に落とす。鎧と剣がむき出しになる。コボルトの驚愕の表情を観察する間もなくサークルは２人を斬った。
コボルト達の首筋から血が吹き出る。同時にサークルは転がった。気配のあった茂みから矢が打ち出される。１本は、地面に突き刺さったが、もう１本は、哀れなコボルトの腹に突き刺さり、とどめをさした。
サークルは身を低くして走る。次の矢がくる前に木の裏へと隠れる。
かつっ、かつっという音とともに、木に２本の矢が突き刺さる。
サークル（よし！いたぞ！）
サークルの位置から茂みの中のコボルトが丸見えである。次の矢をつがえようとするコボルトに短剣を投げつける。
狙いはそれてコボルトの右肩に突き刺さった。
サークルは、隠れた場所から飛び出した。反対の茂みから矢が飛んでくるが、位置がわかっているのだ。剣で叩き落す。一気に傷ついたコボルトに近寄ると、剣を突き刺す。コボルトは、ギャンと一声鳴くと動かなくなった。すばやく木を盾にして、もう１人の様子を伺うが、どうやら今のを見て逃げいて行ったようだ。ひとまずほっとするサークル。
サークル「死体をどうするかな。」
剣から血糊を落としながらサークルは一人ごとを言う。
もう人を殺すのも慣れた。何人殺しただろう。群れて出てくる妖魔達とかも入れると５、６０人は殺しているだろう。別に血が見たいとは思わないが、戦いに興奮することは多い。
しかし、戦いが終ったあとは虚しくなるのも事実だ。初めて人を殺した時の感覚を忘れているのではないか、人を殺すことに快感を覚えていないか、時々怖くなる。
それは、狂気と正気の境目のような気もしている。サークルとしてはなる
べくそこに近付かないようにと思っている。
サークル「まぁ、仲間が片付けるだろう。」
折り重なって倒れているコボルトに哀れみの目を向ける。こいつらもここに出て来なければ、生涯を全うすることができたかもしれないのに、と。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
コボルトの死体からいそいで離れる。
サークル「さて、急ぐか。」
ラーファのゴッドウォリアーの試験まで、後１ヵ月半。そのころには、春になっているだろう。サークルは、会場のミネアリストに向かって急いでいた。後、半月もあればたどり着くだろうが、遅れたくない。
森の出口が見えて来た。これで後１時間も歩けば、村にぶつかる。
何とか暗くなる前には、つきそうだ。ここら辺は冬でもだいぶ暖かいが、それでもこの時期に野宿などしたくない。
出口の光に向かって、サークルは足を進める。・・・っと、その足がピタリと止まる。
サークルの心臓目がけて光るものが飛んできた。間一髪身体をねじってやり過ごす。光は、サークルのマントに穴を開けて地面に突き刺さる。それはさっきのコボルトが使ったのと同じ矢であった。
サークルは、とっさに木の陰に隠れる。荷物と邪魔なマントを脱ぎ捨て、剣を抜く。
サークル「くっ。死体の始末をしてからくると思ったのだが、先回りしたか。」
駆け寄ってくるコボルト７、８人のコボルトを見ながら口走る。
サークル（やるしかないか。）
ゆっくりと息を整え、短い呪文を唱える。手の平に冷気が集まる。
サークル「氷の矢よ！」
木の陰から、出ると同時に魔力を解き放つ。３本の氷の矢が目の前のコボルトにつき刺さった！
コボルト「ぎゃをををぉぉん！」
動物のような悲鳴を上げるコボルト。それを回りこんで横薙ぎに剣を振り払う。１体のコボルトの胴がざっくりと斬れる。
サークルは、そのまま地面を転がる。立っている者は、寝そべっている者を斬りにくい。ましてやコボルト達が持っているような短かい剣だとなおのことである。
サークルは、立上りざまに下から剣を斬り上げる。その一撃は１人のコボルトの胸を浅く斬っただけに終った。
サークル「まず、２人。」
コボルトは、サークルを輪になって取り囲む。残り６人。
サークルは、足元に転がっている死体を背に構える。気づかれないように口の中で呪文を唱える。
サークル（ここまで囲まれたら、弓の方は手が出せまい。）
背後に回った２人が死体を乗り越えようとジャンプする。
サークルは、一瞬早く呪文を放つ。小さな光の球がコボルトの前を不規則に動き回る。その動きに惑わされ、サークルの前に立っているコボルト達は動けない。
サークル「はぁっ！」
ジャンプして飛びかかって来た後ろの奴を、振り向きざまの一閃で切り落とす。
光の球と反対側の奴が、横合いから飛びかかる。その剣をかいくぐり、腹に膝蹴りを食らわせる。
サークル（！！ 矢がくる！）
はるか遠くの殺気が膨れ上るのを感じる。とっさに膝蹴りを食らわせたコボルトを盾にした。
矢は、まっすぐコボルトの肩につき刺さる。それをつき飛ばすと、木の陰に隠れる。続けて飛んで来た矢が、不幸なコボルトの後頭部につき刺さった。
サークル「なんて奴だ！仲間を見殺しにしやがった。」
残りのコボルト達は、木を大回りで回り込み、木を背にするサークルを囲い込む。この位置ならば、弓では直接狙えまい。
この間にサークルは、呪文を完成させていた。
サークル「光球よ！」
先程と同じ光の球が今度は２つ、コボルトの間を浮遊する。
１人のコボルトが、もうだまされないぞと光の球を短剣で弾いた。
コボルト「ぎゃん！」
光の球は、消え去る瞬間、衝撃波を放った。コボルトの手から短剣が弾け飛ぶ。
手を押えて呻くコボルトが次に目にしたのは、剣を降り下ろす瞬間のサークルのアップであった。
サークル「ぜやぁ！」
剣は、鎖骨を断ち切り心臓まで達した。剣を力任せに引き抜く。
その時には、３方向からコボルトが飛びかかっていた。
サークルは、一番間合いの遠い右側の奴に向かってダッシュする。真中の奴の一撃をかわす。かわしきれずに頬がざっくりと斬れる。
右側の奴に頭から突っ込む。短剣を降り下ろそうとしたコボルトであったが間に合わずにサークルのタックルを受ける。
サークルは、タックルをした時には腰に付けた短剣を引き抜いていた。
そのまま、コボルトの腹をえぐる。
コボルトを付き飛ばすようにして、剣を構え直す。残ったコボルト２人から目を離さず、手に持った剣を逆さにすると地面で腹を押えて呻いているコボルトに突き立てる。
死の痙攣をしている仲間をみて、残ったコボルト達に明らかに恐怖の表情が走った。そっと目を見合わせると一目散に逃げ出した。
サークル「後はあの弓使いか・・・・結構手ごわいぞ。」
まず間違いなく、戦っている間に場所を移動しているだろう。居場所がわかっている飛び道具など怖くはないからだ。
サークルは、そっと木の陰から顔を出す。逃げてはいないようだ。相手の気配を感じる。しかし、どこにいるかまではわからない。
サークル（いちかばちか。）
サークルは、ゆっくりと木の陰から進み出る。右手に長剣を、左手に短剣を持って、飛んでくる矢をいつでも落せる体制だ。
全身を緊張させ、３６０度を監視する。
サークル（まだ・・・まだか・・・・・。）
辺りの空気に緊張が走る。
一瞬でも気を抜けば殺られる。サークルの額から汗が流れ落ちる。
相手も緊迫しているのが手に取るようにわかる。
この緊張に耐えられなかった方が負ける。
サークルは、そっと動く。左手の短剣で長剣の腹を一撃する。
ぴきぃんん！という澄んだ音がする。
サークル「かかった！」
敵は、今の音に気を取られて思わず矢を放ってしまった。サークルの右手だ。サークルは、矢を無視してそちらへ駆け寄る。飛び道具相手には、いかにすばやく間合いをつめるかが勝負を決する。
飛んで来た矢は、サークルの肩口に突き刺さる。鎧の肩当てを貫通する。
大したダメージではない。
サークル「はぁ！！」
左手の短剣を敵に向かって投げ付ける。短い悲鳴とともに、人影が木から落ちて来る
サークルは、スピードを落とさず、剣を水平に構える。
敵 「ひっ。」
サークル「！！」
サークルは、落ちて来た人影を認識して驚愕した。それは、エルフだったのだ。まだ、子供だ。手に弓を持っている。間違いなく矢を放った敵だ。
サークルは、相手の姿を見ても、一瞬もためらわなかった。そのまま、剣を横に薙ぐ。エルフの小さな身体が胴で両断される。
空中を舞う相手の上半身。その子供の恐怖に脅えた目と、サークルの暗い目が空中でぶつかる。
サークル「・・・・・・。」
相手の最後の痙攣を見届けて、サークルはやっと全身の緊張を解いた。
全身疲労で今にも崩れ落ちそうだった。剣を杖にして、荒い息をする。
真後ろから、声が聞こえたのはその時であった。
？？？？「見事なものだな。」
サークル「！！」
サークルは、振り向きざまに剣を横薙ぐ。空を切っただけである。
すばやく体制を立て直し、第２撃に備える。
サークル「か、カダルト様！？」
カダルト「久しぶりだな。サークル。」
サークルの剣の先にいたのは、カダルトであった。気配に気付かないわけである。カダルトならば、気配を完璧に消すことも可能だ。
カダルトは、あわてて剣をおろすサークルの脇を通り、エルフの子供の死体に近づく。
カダルト「子供だろうと、女だろうと、ためらわず斬る・・・か。見事だな。」
サークル「なんの御用です？」
思わず声が刺々しくなる。
カダルト「と、その前にだ。ひどい顔だな。」
サークル「あっ・・・。」
コボルトにやられた左の頬、いままであまり気にしていなかったが、落ち着いてみるとじくじくと痛む。カダルトが、傷口に向かって手をかざした。
みるみる内に傷が塞がる。傷が塞がるのはいいのだが、半面痛みは数倍にはねあがる。顔をしかめながら耐える。
右肩の矢傷までも直して貰ってしまった。
サークル「申し訳ありません。カダルト様の手を煩わせてしまうとは・・・。」
カダルト「気にするな。・・・さて、今日はお前に用があってここにきた。」
サークル「私にですか？・・・その前に死体を埋めてしまいたいのですが。」
サークルは、心配そうに辺りを見回す。冬の短い太陽は日を落としだしている。すぐ暗くなってしまうだろう。地に帰るとは言え、野ざらしにするのは気がひけた。
カダルト「燃やそう。そうすれば穴を掘る手間が省ける。」
カダルトは、呪文を唱える。サークルの聞いたことのない呪文だ。
呪文が唱えおわると、辺りのすべての死体に金色の炎があがる。徐々に死体を浄化しながら天に昇っていく。
サークルは、エルフの死体を見つめた。２つに別れた死体が、金色に輝き消えていく。最後にまぶしく光り輝くとぱっと消滅した。後には骨も、灰も残らなかった。
サークル「なぜ、コボルトの中にエルフがいたんだろう。」
カダルト「ん？そいつは、ハーフエルフだぞ。」
サークル「あっ。」
エルフと人間の間に生まれた子供は、ハーフエルフと呼ばれる。エルフからも人間からも、中途半端扱いされることが多い。
カダルト「いじめられて、逃げた所をコボルト達に拾われたと考えるべきだろう。少なくとも、彼女に取っては落ち着く所だったのではないかな。」
サークル「彼女？・・女の子だったのか・・。」
カダルト「そして、お前はそれを殺してしまった。」
カダルトの闇色の目が、サークルに注がれる。サークルは、同じ黒色の瞳でカダルトを見返した。
サークル「敵です。倒さねば自分が倒されます。」
サークルは、今まで数度にわたって情けをかけたために死にかけた。女性を逃がしてやったばかりに反撃を食らったり、子供だと思ったら毒を仕掛けられ数日にわたって高熱で苦しんだり。そして、サークルには、１つの決意が出来上がった。攻撃するものは敵であると。敵がどんな奴だろうと倒す。
サークル「ご不満ですか？非道な人間だと嫌われますか？」
カダルト「・・・いや、戦士ならばそうあるべきだろう。」
暗い色に染まったサークルを、カダルトはさっきとはうって代わって優しい目で見る。顔にかすかに微笑みが見える。
カダルト「悩むことはあるまい。自分が出した結論だ。それに従うべきだろう。誤っていたならば、正せばよいだけだ。」
サークル「そう簡単にいくものでしょうか？」
不安そうにカダルトを見る。カダルトは、今度ははっきりと微笑む。
カダルト「正すのに何年かかっても、良いだろう。最低なのは、誤っていると知りつつも、それを正さないことだ。・・・わかったか？」
サークル「はい。ありがとうございます。」
カダルト「うん。それでいい。・・・・そうだ。私はお前に用があって来たのだ。お前の相談なんぞに乗っている暇はなかった。」
日はもう沈み、辺りは暗闇に包まれつつあった。日が落ちると急速に冷えこむ。サークルは慌てて、荷物の所にいき、マントを羽織る。
カダルトは、広い所で手をかざし、呪文を唱える。大きな炎があがる。カダルトが直接作り出してる炎だ。木を燃やしているわけではない。
同時に暗闇に包まれつつある辺りが明るくなる。
サークル「で、御用とはなんでしょう。」
カダルト「その前に、さっき魔法を使ったな。光の球の魔法だ。私の記憶では、あんな魔法は見たことはない。」
サークル「私のオリジナルです。不規則に、なおかつある程度私の意思にしたがって動く。壊れる時には、衝撃波を放つ。そのような魔法です。」
カダルト「なぜ、自分で作った？他にもっと魔力を使わず、威力の大きい魔法があるだろうに。」
サークル「私の欲しい魔法がなかったからです。私が欲しいのは、威力の大きい破壊ではなく、牽制のための魔法ですから。それに、長々と呪文を唱えているわけにもいきませんし。」
カダルトの作り出す魔法の炎に手をかざしながらサークルは言う。結構大きな炎を顔色一つ変えずに出しながら、カダルトは感心したような顔をする。
カダルト「今まで見て来た魔法戦士は、皆、魔法に合わせた剣技を作っていた。お前だけだぞ。魔法の方を作り替えたのは。」
サークル「はぁ。」
カダルト「ますます気に入った。お前。私のゴッドウォリアーになれ。」
サークル「？」
炎を瞳に映しながら、カダルトが言う。
何を言われたんだろうと怪訝な顔をするサークル。
炎にかざした手が熱くなりすぎて、飛び上がるまで言っていた意味がわからなかったようだ。
サークル「私を！？カダルト様のゴッドウォリアーに！？」
カダルト「そうだ。今日、お前に用があるといったのは、このことを伝えに来たのだ。」
サークル「私が・・・カダルト様の・・・。でも・・・私は・・・・。私は、親友と約束しているのです。ラーファ様のゴッドウォリアー試験を一緒に受けようと。そこで勝負をしようと・・・・。」
カダルト「２人そろってゴッドウォリアーにはなれんぞ。それより、なにか？私よりラーファの方がいいというのか？」
嫌そうな表情を顔に張り付けるカダルト。サークルは慌てて取り繕った。
サークル「いや！そういうわけでは！！・・・・ただ、親友との勝負の場所としてラーファ様の試験会場と言っただけで。」
カダルト「どっちでもよい。その場所でなくては、決着が付けられんわけでもなかろう。私のものになるか、ならないか。２つに１つだ。今すぐ決めろ。」
サークル「はい・・・・。その前に１つ聞きたいことがあります。」
カダルト「なんだ。」
サークル「カダルト様は、以前私を面白い奴だといいました。ゴッドウォリアーに選ばれたわけは、それですか？もし、そうならば・・・。」
サークルが言い終わる前に、いきなりカダルトが炎を消す。つかつかと近寄りサークルの胸倉をつかんで持ち上げた。鎧を着こんだサークルの身体が、片手で簡単に持ち上がる。
カダルトは、怒りのこもった目でサークルの目を覗きこんだ。
カダルト「サークル、私をなめるなよ。私は、お前に素質あり、と見たからお前を誘ったのだ。わかるか！」
そして、パッと手を放す。サークルは後ろによろめき、２歩、３歩と下がる。
そしてしばらく、そのまま顔を伏せていた。
次に顔を上げた時には、サークルの瞳には強い輝きがあった。
エピローグ
ミネアリストの山の頂にある神殿。その中でラーファに割り当てられた空間。
その１室で、天井の高い、白一色の何もない部屋。中央に置かれたオリハリコンで作られた金色の鎧が光を放つ。ラーファのゴッドウォリアーの鎧だ。
そこには、サークルの親友ラインがいた。
ぴかぴかに磨き上げられた鎧が、ラインの姿を映しだす。
ライン（サークル、とうとう姿を見せなかったな。）
見事試験を潜り抜け、ラーファのゴッドウォリアーになったライン。ゴッドウォリアーの証しである鎧を身に付けながら、考えることは親友のサークルのことであった。
ライン（旅の途中で死んだか・・・。いや、あいつのことだ。生きているだろう。死ぬなんてことはないな。）
ラインも数々の死線を潜り抜けて来たのだ。死を覚悟したことも何度もある。
サークルが、その１つに捕まって死んだという可能性も十分ある。しかし、ラインは、そんなこと信じたくなかった。
鎧を付けおわったラインは、扉からゆっくりと外に出る。これから、ゴッド
ウォリアーの任命式である。
ライン（・・・途中で、誰かいい人を見つけて落ち着いたのかもしれない。もしかして、実家に帰っているのかもしれないな。）
ラインは、式の会場の扉をゆっくりとくぐる。指定された位置で直立不動の姿勢を取る。前方には大きな赤いカーテンが引かれている。この向こうには、１級神６人が並ぶはずだ。
ラインは、ちらっと横を見る。そこには、ラインと時を同じくしてカダルトのゴッドウォリアーになる奴が立つはずだった。まだ、来ていないようだ。
ライン（カダルト様のゴッドウォリアーは、どんな人だろう。カダルト様は、例年通り、御自分で選んだと聞いたが・・・。）
そんなことを考えていたら、ラインが入って来た扉とは反対の扉が開く。
そこには、ラインと同じく黄金の鎧を身にまとった戦士がたたずんでいた。
ラインは、その顔を見て凍り付く。サークルが、厳しい目をして立っていた。
サークルは、ラインの顔を見ても無表情のままであった。サークルとラインの視線が、空中でぶつかる。
一瞬後、サークルは何事もなかったように、ラインの横に並んで立つ。前のカーテンを見つめ、ラインの方にはかけらも視線を戻さない。
式が始まり、カーテンが開く。そこに並ぶ６人の人影。
ラインとサークルは、金色に光り輝く剣を引き抜き、目の前に掲げ、礼をする。
ラインの顔には、かすかに微笑がこびりついていた。
ライン（そうだよな。サークル、こうでなくてはお前らしくないからな。）
第２部完
Sight!
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