第九八哨戒戦隊旗艦「戦狼」。
戦隊司令であるカッツェン大佐はブリッジから宇宙を見渡していた。地球の夜の側だった。地球は闇の円盤となって視界を覆っていた。
「…」
カッツェンは闇を見た。闇の中に光の点が集まっている。ジュニアスクールで見せられた、光をだすという地球の昆虫の群れがいるような、または、小さな魚達か、微生物達か、そんな光の点の群れが闇の中にあった。さびしい光だ、とカッツェンは思う。戦争前に見たときは、地球は光にあふれていたと思ったが、あれは地球の都市の賑やかな街の記憶だったか定かではない。いずれにせよ、今の地球でまたたく灯は少なく弱い。だが、それでいい。
カッツェンは振り向き、自分の席に戻った。主照明が落とされて暗いが不自由するほどではない。
突然、ブリッジの通信オペレータが動いた。カッツェンは視界の端で、その様子をとらえる。オペレータは身をかがめるて端末を叩き、しばらくじっとしていた。解読の終わった通信文の内容を見直してから、彼女は振り向いた。
「艦長、」
オペレータは通信文を打ち出したシートを艦長に手渡した。
「…」
カッツェンは無言で眺めた。
「輸送シャトルが来るのか。護衛もつれずに…」
カッツェンは航法士官に船の進路を計算するよう命じてから、船内通話で戦狼のモビルスーツ隊のリーダー、アドラ中尉を呼び出した。
すぐにアドラがブリッジに現れた。ノーマルスーツを着ている。彼が近づいてくる間にカッツェンは話しはじめた。
「輸送シャトルの護衛任務だ。準備してくれ」
「護衛？何隻ですか？」
アドラはカッツェンの側に来た。アドラに通信文のシートを渡しながら、カッツェンはこたえた。
「一隻だよ。ミーニューズ型の」
アドラは筋肉質の腕を組み、青白い額にしわを寄せ、考え込んだ。
やがて彼はきめた。
「了解、ローレライ・チームに任せましょう」
「グラーグ少尉か」
カッツェンは眉をしかめた。
「彼のチームの初陣です。新人が一人混じってますが、ラクハン軍曹もグラーグ少尉も経験はありますから、護衛には充分のはず」
「それは地球の話だ」
「慣れてもらわないと。とくにグラーグ少尉には。バックアップとしてウルフ・チームは戦狼で待機しています。いかがですか」
「…いいだろう」
カッツェンはうなずき、ローレライとラプンツェルに命令を発した。
「シャトルと会合まで、あと二十分」
航法士官の声はローレライのブリッジの緊張を高めた。
元高速貨客船であるローレライのブリッジは狭く、兵器を備えるに当たって運び込まれた装備がさらに狭くしていた。細長い部屋の中に六つの座席があるが、その一番奥が艦長席だ。そこに座っている短髪の男が艦長のグリ少佐だった。
彼は緊張していた。空調が効いているブリッジで宇宙服を着込んでいるにもかかわらずグリ少佐は汗をかいていた。彼自身、緊張を隠そうとしない。
「いや、私は実戦は二度目なのだよ」
と、大佐は弁明し、宇宙服を着たまま額の汗をふいた。ヘルメットは席の隣に固定してある。
地球の丸みの縁をトライアングル・フォーメーションを組んで航行中の第九八哨戒戦隊は護衛対象のシャトルの軌道から離れているが、五分後に大加速による軌道変更を行い、シャトルとの合流軌道を取る。
ローレライのブリッジには申し訳程度の窓がついているだけで、狭いブリッジの先の小さなスクリーンに船外の様子がモニタされていた。そこには先行する戦狼と地球の縁が映っていた。
「あれ？」
通信士官のポーリンが小さな声を上げた。ショートカットの彼女は右耳のフォンを押えて耳を澄ませた。ローレライのブリッジ全員、といっても六名だが、視線が集中した。
ポーリンは怪訝そうな表情で振り向いた。
「艦長、不明艦が二隻、接近中です」
「不明艦？」
グリ少佐は聞き返した。
「はい。ペキンの監視基地からですが、不明艦が二隻。シャトルの軌道に交われる軌道を飛んでいると」
「ターマック、敵かね？」
呼ばれた情報士官は端末を操作した。問題の艦船に該当する航海は連絡されていない。
「不明です」
地上の基地で確認できない、つまり誰も知らない船が地球の軌道を飛んでいるわけだ。敵かもしれない、だが、なんらかの任務をおった味方かもしれない。識別したいが、相手は見える位置にいない。
グリ少佐は口を開いた。喉がかわいていた。
「カッツェン大佐からは連絡は？」
「ありませ、あ、戦狼から作戦コードを受信しました。ハンニバル中尉に転送します」
ポーリンは手元の通信端末を操作した。航法士官のハンニバルが手を上げた。
「艦長、旗艦より状況確認が来ました。こちらは予定通り加速を開始できます。戦狼に了解を返信しますがよろしいですか？」
「…よろしい。旗艦に従う」
「了解しました。ポーリン、返信してくれ」
「了解」
ポーリンは戦狼にコードを返した。
編隊を組んだ三艦の間で近距離用のレーザー通信が飛び交い、艦隊は群れをなす生き物のように、そろって加速を開始した。
クリストバルコロン、モビルスーツ格納デッキ。
「それ、出撃だあ、ちょいと宇宙を横切って、ジオンの奴らをぶっとばせ、宇宙のチリに変えちまえ。そうさ、おいらがやってやる、ちょちょいのちょいでやってやるぅ」
「ランドルゥース。そのでたらめ、やめろよ、うるせえよ」
クリストバルコロンのモビルスーツの格納庫には、黄色いノーマルスーツの一団が集まっていた。中でも賑やかなのは、若いランドルスだった。彼は口をとがらせて大男のミーチをにらんだ。
「ミーチはうれしくないのかい。ぼくらは何ヶ月もルナツーの周りを飛び回るだけで、一度だって奴らと戦わせてもらえなかった。いよいよ、こっちも対等な兵器を持って、奴らに会える」
ミーチはランドルスを見た。唇を曲げ、眉を寄せ、この馬鹿が、と言い出しかねない表情だ。
「ランドルゥース、あのな」
「ミーチ、その伸ばして言うのを止めてくれないかな。ランドルスだよ、ぼくは」
ミーチは続けた。
「ランドルゥース、一言いっておくけどな、うかれて死ぬときは一人でな。俺を道連れにするのは止めてくれよ」
「だから、伸ばすのは止めてくれよ。なんか学校の先生に怒られてるような気がする」
「俺はいま、その先生の気持ちがよぉく分かるぜ」
ミーチは肩をすくめて、自分の機体に乗り込んだ。ランドルスはその背に向かって大声を上げた。
「この出撃で、ぼかぁ、エースになりますよ」
「あーがんばってな」
ミーチはランドルスの言葉を左手をひらひらさせて応えると、シートにからだを押し込み、やってきたメカニックと話しはじめた。
ランドルスはミーチの機体を飛び越した。と、ヘルメットのフォンが大声を発した。
「ランドルス、なにをしている。早くチェックを終わらせろ」
ウェイン中尉の声だった。
「了解」
ランドルスはミーチのジムを支えているアームを蹴って加速した。自分の機体まで、あと少しだ。途中、クス少尉の機体を通り過ぎた。クスはコクピットの中にいるようだ。メカニックが上半身を乗り入れていた。
自分の機体にたどり着いたランドルスは、待っていたメカニックに右手をあげ、挨拶した。空いている左手でコクピットの縁をつかんで、そこを中心に身体を回し、するりとコクピットの中に収まった。ジムのコクピットだ。
メカニックが半身を乗り入れてきた。
「少尉、準備はオーケーですよ。システムの予備運転は済んでます。いつでも出られますよ、少尉の準備が終わればね」
「チェックリストをよこしな。さっさと終わらせるからさ。隊長からもせかされているんだよ」
「ウェイン中尉の機体も準備は終わってますよ。すぐに出撃できます。けど、中尉は船内電話のとこで話中ですけどね」
「話？誰とだろ」
「ブリッジですよ。さっきからずっと」
「なんだろう？」
ランドルスは不思議に思ったが、それはそれで置いておいて、チェックリストの項目を眺めた。中尉が何をしているのかは謎だが、何がどうなるにせよチェックリストを放っとくことにはなるまい。ランドルスは丹念にリストのチェックをはじめた。
ウェインは格納庫わきの船内電話で艦長と直接話していた。
「敵がいましたか。まぁ、低軌道パトロールくらいは予想していますが」
艦長は、クリストバルコロンとサパレリの軌道と近い軌道を飛ぶジオンの船の存在を気にしていた。ルナツーの地球軌道監視セクションが知らせてきたのだ。
ウェインは落ち着いていたが、艦長は予期しない敵の出現に迷っていた。
「だが、三隻だ。モビルスーツは六機から十二機と考えられる」
「そうですね。ムサイ級で運用するのが三機から四機」
「シャトルと会う前に、それらと会う可能性が高い」
ウェインは、考えた。敵は巡洋艦三隻にモビルスーツが九機。モビルスーツの数は少ない。しかし、ジムならザクに勝てる。最近現れた敵の新型モビルスーツについての情報は少ない。地上用に作られたものを宇宙戦用に改造した物らしいが情報を見る限り武装は進歩しておらず問題とは思えない。それにこちらのパイロットの練度も士気も最高といえる。ウェインは負ける気がしなかった。
「当初の通りの作戦で行けるでしょう。違うのはクリストバルコロンの支援が必要なことです」
艦長が首をかしげている姿がウェインには想像できた。
「できるかね」
やや時間をおいて、艦長の問いかけがあった。ウェインはすぐに答えた。
「できます。そのための我らです。駄目そうなときはコクレス隊を待ちますよ。たぶん待つことはないでしょうが」
「自信だな。まぁいい。作戦は続行する」
「了解」
ウェインは受話器をおくと、自分の機体を見上げた。RGM-79ジム、その白と赤のツートンカラーの、冷たく固く輝く姿を見ながら思った。護衛のないシャトルを襲撃するような作戦ではぬるい。歯ごたえのある敵と出会えてよかった。
ローレライ、ブリッジ。
「モビルスーツ隊、出撃準備よろしいか」
「ローレライ・チーム、出撃準備完了」
ポーリン通信士の声に、グランヒッコリがこたえた。オープン回線にしてあるので、その声はブリッジの全員の耳に響いた。ブリッジでは全員が戦闘にそなえてノーマルスーツを着用していた。
グリ少佐もヘルメットをつけて、汗を噴きだすひたいには吸水用のシートを巻いて対応していた。グリ少佐は手元の通信用コンソールでグランヒッコリと通信回線をひらいた。
「グラーグ少尉、大気圏突入ポイントまで輸送シャトルを護衛することが、我々の任務だ。輸送シャトルの重要度は高い。何をつんでいるのか知らされてはないがね」
「了解。輸送シャトルを守って見せますよ」
「頼むよ」
グリ少佐は通信を終えた。と、ハンニバルの冷静な声が響いた。
「輸送シャトルを発見しました。だいぶ熱ってますね。赤外線をばりばりと放射してます」
ハンニバルはブリッジのメイン・スクリーンに映像を映し出した。メイン・スクリーンと言っても狭い室内に合わせた小さなものだ。処理された映像には白くてずんぐりしたシャトルの姿があった。
「軌道は？合っているか？」
グリ少佐の問いかけに、ハンニバルが応えた。
「ズレは…補正がいります。モビルスーツ隊ががんばりましょう、ですね」
「伝えてやれ。ポーリン」
「はい？」
「不明艦についての情報は、来ないか？」
「戦狼、ペキン・ベースともに来てません」
「どこにいるのやら…」
グリ少佐は対空監視を強化せよという指示を出した。レーダーが使えない以上、目で探すしかない。
私は、と思った。ふるえている。
ブーカは手袋に包まれた手を見つめた。ふるえていた。ザクのコクピットにおさまっていても私は手がふるえている、とブーカは思った。今、自分はどんな顔をしているのだろう、と思ったがコクピットに鏡はなかった。
「…わい」
「何か言ったか？、ブーカ」
ヘルメットの中にグランヒッコリの明るい声が響いた。ブーカは自分の声が漏れたことを知った。
「…なんでもないわよ。独り言」
「そうか」
グランヒッコリに答えて、ブーカはヘルメットをシートの背もたれに押し付け、固く目を閉じた。早く出撃になればいい。ザクを操っていれば、余計なことを考えなくて済む。だけど訓練のときのように、身体が動かなければ私は死ぬだろう。
膝の上にそろえられたブーカの手が握り締められた。
死。
私が殺される方にまわるなんて考えたこともなかった。軍人である以上、確率的に死ぬのは仕方がない。だが自分の生死を敵に握られるのは耐えがたい。出会えば死ぬ相手に会いに行くなんて考えたこともなかった。あの、空気の底、重力の中、地球で会った白いモビルスーツ。出会うだろうか。出会ったら、今度は死ぬだろうか。ラズィやハートゥのように。
「コンテナ・ハッチ、開きます。モビルスーツ、発進準備」
甲板員の声にブーカは目を開いた。のろのろと頭をめぐらせてコクピットの中を見渡した。すべてのスクリーンも計器も、正常に、正確に、冷たく輝いていた。それを操るのは私だった。私、ブーカは握り締めた手を開き、コントロール・レバーを握った。
目の前のコンテナハッチがゆっくりと開いていた。質量の移動による船の姿勢変化を避けるため、ゆっくりと開く扉の隙間から強烈な太陽光が差し込んだ。コクピットの前方視界のほとんどを占める主スクリーンは、光を減光し、コントラスト補正をしてパイロットに見せたが、暗がりになれたブーカには強烈な光だった。
ブーカは目を細めた。ハッチは開き続け、甲板員が出撃のための準備を進めていた。その通信が聞こえた。
「ハッチ、全開。押し出すぞ。支持アーム解除」
「解除、確認」
「ラクハン軍曹、押し出し、開始しますよ」
「了解」
「よーし、放り出すぞ。始めー」
甲板員は支持アームから外れたザクの腰部を収容ネット操作用のアームで押した。ザクはゆっくりとコンテナの外に飛ばされた。
ブーカの視界は、コンテナの内部からローレライの舷側へ移動した。あたりをうかがうと、グランヒッコリとティエンのザクも同じように船のそばに浮かんでいた。
ブーカのザクが完全にコンテナの外に出たところで、ブリッジのポーリンの声が聞こえた。
「モビルスーツ、発進完了。モーターに点火してよし」
「ローレライ・チーム、了解」
グランヒッコリの声がフォンから響いた。
「目標は見つかりましたか？」
と、ポーリン。
「目視した。ローレライ・チームは出撃する」
「了解。では頑張ってきてくださいね」
グランヒッコリのザクの頭部、モノアイが短く光った。ザクはゆっくりと向きを変えると背中のランドセルからバーニアの噴射光を放って加速を開始した。その直後に続くのはティエンのザクだった。不安定な漂い方でグランヒッコリのザクを追いかける。
ブーカはフットペダルをそっと踏み込み、二人の背後を守れるようにザクを発進させた。三機のザクはジグザクな縦隊を作り、先行していた戦狼を追い抜いて九八哨戒戦隊の艦隊から離れ、彼方の白いシャトルへ近づいていった。
その様子を戦狼のブリッジで眺めているのはカッツェン大佐とアドラ中尉の二人だ。無言のまま、アドラ中尉はブリッジを離れ、モビルスーツ格納庫へ降りていった。
その頃、クリストバルコロン、ブリッジ。
情報士官が端末の操作をしながら首をまげて艦長へ向いた。
「シャトルの位置の精密測定が終了しました。火器管制データへリンクしました。やつら、赤外線センサーで太陽と間違えるくらいはっきりと映ってます」
艦長はうなずきながら言った。
「モビルスーツの連中に教えてやれ」
「了解。しかし、シャトル以外のジオンの艦艇はまだ発見できません。ミノフスキー粒子がまんべんなく撒かれてますよ、この空域は」
「街道だからな…対空監視を強化、前だけじゃない、後ろも見るんだ」
艦長は手元の艦内電話を取り上げた。
「こちら艦長だ。ウェイン中尉、モビルスーツ隊の準備はどうかね」
通信スクリーンに現れたヘルメット姿のウェインは、バイザーの反射で顔がよく見えなかった。
「こちらウェイン隊。発進準備終了。いつでも出られます」
「一分後に目標にあわせるための最終減速を行う。それが終了したら出撃してくれ」
「了解」
通信スクリーンが切れた。と、情報士官が振り向いた。
「艦長」
「？」
「敵のモビルスーツ、および、艦隊を発見しました。モビルスーツ、３、巡洋艦、３です。モビルスーツはシャトルへ接近しています」
「ふむ。だいたい予想通りの戦力だな。連中に知らせてやれ。作戦の変更はない」
「最終加速、開始します。カウントダウン。一〇、九、八、七、…」
航法士官がカウントダウンを開始した。艦長は艦内電話を取り上げ、ウェインにつないだ。
「モビルスーツ隊へ。聞いた通りだ。緊急発進だ。予定通り急襲し、撤退する。いいな」
「了解」
ウェインの声は落ち着いていた。
「頼むぞ」
「了解」
艦長は受話器を置いた。
「三、二、一、スタート」
クリストバルコロンは加速を開始、目標シャトルとの相対速度をほぼゼロにした。瞬間的な加速が行われた直後にクリストバルコロンのモビルスーツ格納デッキのハッチがゆっくりと開きはじめた。
ゆっくりと開く格納デッキのハッチをコクピットの主スクリーンで眺めながらウェインは自分が興奮しているのを感じていた。このハッチを飛び出せば、このジムの最大限機動させることができて、しかもシミュレーションではない本物の敵と互角に戦える。ルウムのときは兵器で後れを取ったが、今日、後れを取るのは敵だ。
ハッチはゆっくりと開き続け、その隙間が広がった。
「ウェイン・チーム、発進する」
ウェインのジムは開きかけた扉の隙間をくぐりぬけた。そのままデッキを蹴って宇宙空間へ漂い出た。ほとんど待つことなく、ランドルスのジムとクスのジムが出た。ウェインは唇の端で笑った。
「行くぞ」
というウェインの声にランドルスとクスの抑えた声が応えた。
「了解」「了解」
三機のジムは背部のランドセルから眩しい光を放ち、みるみる速度をあげて遠く輝くシャトルの光点に向かった。
続いてウィル隊の三機、ウィルとミーチとギャツビーも出撃、ただし艦隊直衛としてクリストバルコロンとサパレリの前に占位した。
戦狼ブリッジ。
「敵、発見。サラミス級巡洋艦二隻、艦載機が三機、いや六機でました」
情報士官がセンサーを操作しながら叫んでいた。カッツェン中佐は手元のマイクを取り上げ、全艦に指示を出した。
「第一級戦闘配備」
カッツェン大佐はマイクをおいた。情報士官が手早くまとめたデータをカッツェン大佐の情報端末に転送した。目を通したカッツェンはヘルメットを頭の後ろにはねあげた情報士官の顔を見た。
「敵艦は？」
「ご覧のとおりサパレリと、もう一隻はサラミス級ですが艦名がわかりません。対空火器を増設してますから、改修艦か新造艦でしょうか。それより艦載機ですが、データにありません。どうもモビルスーツのようです」
「噂の連邦製か。どれほどのものか拝見させてもらうか」
カッツェンはしばし考え、船内電話を取り上げた。
「アドラ中尉、敵艦隊が現れた。情報を転送した」
アドラのヘルメット姿が通信スクリーンに現れた。
「今見てますよ。モビルスーツですか」
「…」
「ローレライ・チームのサポートに行きますか？」
カッツェンはしばしの沈黙の後に言った。
「対艦攻撃装備に切り替えられるか？」
アドラのヘルメットがほんの少し傾げた。
「弾頭のプログラムを切り替えるだけです。しかし、それではローレライ・チームは？」
「彼らとてジオンのモビルスーツ部隊さ」
カッツェンは言った。
「対艦攻撃オプションに切り替え、秘匿発進して敵艦隊を奇襲する。できるな？」
「できます」
「では、準備にかかってくれ。発進タイミングはおって指示する」
「了解」
通信スクリーンが切れると情報士官がカッツェンを見ていた。
「艦長…」
「ミノフスキー粒子散布をいそげ。こちらのモビルスーツの射出を秘匿したい。急げ！ 火器管制は敵艦に照準合わせ。射出後にシャトルの前面まで艦隊を押し出すぞ」
戦狼のブリッジはあわただしくなった。
to be continue...
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